
目次
現代の経営環境では、社会的変化に対応する能力が重視され、その中で「キャリア自律」が重要な概念として注目されています。
キャリア自律はキャリアオーナーシップとも呼ばれ、従業員が自らのキャリアにおいて主体的に行動し、職業的な成長や進路を自分で決定し管理することを意味します。
キャリア自律が注目される理由は、自律的なキャリアアプローチが従業員の行動を活性化し、組織の成長にもつながると考えられているためです。
本記事では、企業がキャリア自律を促進するメリットと、組織や担当者が取り組むべき戦略について、実例を交えて解説します。
キャリア自律とは、変化し続ける環境に対して、従業員自らが自分のキャリアに責任を持ち、主体的にコミットメント(commitment)することです。
キャリア自律の考え方は、経済不況によって雇用の流動化が進んだ1980年代のアメリカで生まれました。当時は正社員の終身雇用が崩れ、業務委託やパートなど多様な雇用形態が一般化したため、企業に依存せず、自己責任でキャリアを築くことが求められたのです。
その後、現代では「キャリア自律」は、労働市場での評価向上にとどまらず、個人が自分らしいキャリアを主体的に築くことを重視する概念へと広がっています。
「自立」は他者に頼らず自力で行動できることを意味し、「自律」は自分で定めた”ありたい自分”に向かって主体的に行動することを指します。自立は一時的な「できる状態」、自律は長期的な「続ける姿勢」ともいえるでしょう。
よって、「キャリア自律」には、次のような要素が含まれます。
キャリア自律が注目される主な背景には、「人的資本の公開」「終身雇用制度の揺らぎ」「副業の推進」の3つの要因があります。
人的資本管理とは、人材を資本と捉えて価値を最大限引き出すことで企業価値を高める経営手法です。人的資本管理では、従業員の能力や価値観、スキルを把握し、それぞれの強みを活かせる職務に配置することが重要です。人材が多様であるほど、適材適所の配置によって企業全体のパフォーマンスを高めることができます。
2023年1月には、上場企業に人的資本についての開示義務を課す内閣府令が施行され、有価証券報告書などで人材の多様性の確保を含む人材育成の方針などの記載が必須となりました。
出典:金融庁|「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について ![]()
この影響で、キャリア自律支援についても戦略的かつ根拠ある指標の策定が急がれており、今後非上場企業にもその動きは広まるでしょう。
人的資本については、「【2022年指針発表】人的資本とは 日本の指針内容と取り組み方」で詳しく解説しています。
「人生100年時代」と言われるようにキャリア期間が長期化する一方、企業は柔軟な人材配置を求められています。その結果、かつて日本企業の雇用慣行を支える仕組みだった終身雇用制度は、近年その前提が崩れつつあります。
この流れは、働く人々がキャリアを自ら設計し、スキルを継続的に高める必要性を強めており、企業もこうした主体性を支援する仕組みづくりが求められています。
社会変化によるキャリア不安は、従業員のモチベーション低下や離職を引き起こしかねません。キャリア意識を組織に根付かせ、自律的なキャリア形成を支援する「キャリアデザイン研修」について解説した資料をご用意しています。
>「キャリアデザイン研修の重要性と正しい進め方とは?」をダウンロードする
終身雇用制度の継続が難しくなってきたことに加え、社会変化に即応する価値創出やイノベーションが求められる中、副業を推進する企業が増えています。副業は、企業にとって外部の知見や新しいスキルを取り込み、組織の競争力を高める手段となります。
一方で、働く人々にとっても、副業はキャリアを自ら設計し、スキルを広げる機会です。副業は企業と従業員がともに成長する新しい働き方の一形態として広がりつつあります。
副業については、「【2022年ガイドライン改定】副業解禁で企業が注意すべきポイント」で詳しく解説しています。
従業員一人ひとりに「キャリア自律」を促すことで、企業には次の4つのメリットがあります。
従来の成長スタイルは、一社で経験を積み重ね、スキルや知識を深めることが中心でした。しかし、現代に求められるのは「変化する環境や組織に対応し続ける成長スタイル」です。
自ら変化を生み出そうとする意欲が高まると、業務や事業で直面する「変化への対応」にも前向きに取り組むようになり、相乗効果が期待できます。
キャリアの自律とは、目指す方向性を一律に策定するものではありません。キャリアだけでなく、長期的な「自己概念(ありたい自分)」は、従業員それぞれ異なります。
多様な自己概念に対応できる環境は、優秀な人材の流出を防ぐとともに、キャリア自律意欲の高い人材に訴求できるため、採用力の向上にもつながります。
短期的に環境が変化する状況では、アクシデントへの対応も成長のチャンスと捉える「当事者意識の有無」が組織活性化に大きく影響します。短期間での自己変容、組織変容ができれば生産性も向上します。
企業がキャリア自律を促進することは、ブランディングや外部のステークホルダー(株主、求職者など)へのアピールにおいて多くのメリットをもたらします。
キャリア自律を奨励する企業は、革新的で前進思考のある組織としてのイメージを築けます。これは特に、若い世代や技術志向の人材を引きつける上で効果的です。また、競合他社との差別化にもつながります。
キャリア成長や自己開発を重視する求職者にとって、キャリア自律を奨励する企業は魅力的です。特に専門知識や特定スキルを持つ人材の採用に有利です。
人的資本への取り組みとして、従業員のキャリア自律を支援することは、長期的なビジネス成功へのコミットメントを示す強力なメッセージになります。CSR(企業の社会的責任)の一環としても評価されます。
企業がキャリア自律を推進する際には、次の点に注意が必要です。
キャリア自律のマインドをもっている社員は、現職では必要なスキルや経験が得られないと判断すれば、キャリアプランを実現するために、転職を選択することもあります
意欲が高まった結果ではありますが、突然の退職を防ぐため、キャリアについて定期的にコミュニケーションを取ることが重要です。
すべての従業員がキャリア志向とは限りません。一定数はキャリア自律を積極的に捉えないこともあります。キャリア自律を前向きに捉える人が少数派だと、効果が限定的になる場合もあります。
キャリア自律を一度だけの研修で理解し実行してもらうことは難しいため、管理職の理解促進や、定期的にキャリアを考える機会を設けるなどのサポートが必要です。
従業員のキャリア自律のキーパーソンになるのは、管理職です。管理職に対してどのような取り組みを実施していくのが有効なのか、事例を交えての解説動画を配信しています。
キャリア自律を進める中で、従業員が外部の勉強会への参加や副業への挑戦などに積極的に取り組むことが予想されます。
企業の機密情報や知的財産を外部に漏らさないよう、コンプライアンス遵守の研修も並行して行う必要があります。
従業員のキャリア自律を企業が促進するためには、以下のような取り組みが有効です。
キャリア自律に最も重要なことは、従業員がキャリアについて考える機会を持つことです。目の前の業務や短期的な課題に追われたり、家事や育児、介護など家庭の役割負担が大きかったりすると、キャリアについての内省が後回しになってしまいます。
特に、社内での役割も家庭内での役割も重複して大きくなる40代前後のミドル層では「立ち止まる時間もない」という感覚を持つ人が少なくありません。年代別や課題別の研修を設けたり、上長や客観的第三者であるキャリアコンサルタントとの面談を実施したりすることは、キャリアについて振り返り、今後のステップを考えるきっかけとして有効です。
近年はキャリア自律に焦点を当てた「キャリア自律研修プログラム」も開発されています。年代や目的、対象に合わせてプログラムを検討することが重要です。
従業員が自分自身のキャリアを考える際、自分の能力を活かせる機会やポジションだけでなく、新しい経験が必要だと考える場合もあります。企業側がキャリアに関する従業員の希望を聞き取らない環境では、従業員がキャリア自律を実感として得ることは難しいでしょう。
職務やポジションに就くためにはどのようなスキル・能力が求められるのかを開示し、今後のキャリアパスの選択肢をイメージできるような情報提供が必要です。また、ジョブローテーションや社内公募制度、社内FA制度など、自分の希望するキャリアパスが実現できる機会を設けることにも同時に取り組む必要があります。
経験豊富な先輩社員である「メンター」が後輩社員に対して、職場のロールモデルとなる将来像を見せつつ、コーチとしてかかわるメンター制度もキャリア自律に有効です。
メンター制度とは、新入社員や若手社員向けとして知られる制度です。メンター制度は上司部下など指揮命令関係のない「斜めの関係」で設定しましょう。評価される面談と異なり、メンター制度での面談では「自分の状況を理解しつつ、評価も指導もない」前提で仕事の相談ができます。安心して自己開示ができる状況はキャリア自律のきっかけを生むでしょう。
キャリア自律支援という観点からは、利害関係のない他者との交流が少なくなりがちな40代~50代の方向けの支援策でもあります。この場合、社内人材との交流に限らず、外部との勉強会を活用するなど人選に工夫が必要です。
キャリア自律の意欲が高い人材は、「高い学習意欲がある」という特徴があります。業務に必要な資格取得や語学スキルの向上、新しい分野の仕事への適応など、今後の選択肢の幅を広げるきっかけとして各種学習機会の提供が有効です。
会社が学習機会を支援する制度には、資格取得の費用を助成する資格取得支援制度やMBA派遣制度などがあります。内容や難易度、学習方法など多種多様なラインナップを揃えるとよいでしょう。
自身でキャリアを決める意欲が高い人だけでなく、意欲が低い人たちにも取り組んでもらいやすく、成功体験を得られやすいというメリットもあります。
キャリア自律は仕事だけでなく、「キャリアを中心とした人生そのもの」に対して自分が主体的にかかわろうとするものです。業務時間外の行動について、会社としてどこまでかかわるべきか、という点には細心の注意が必要ですが、プライベートでの学びが本業にも活かされるケースは多くあります。
副業やボランティア、異業種交流会など、会社と離れた外部との長期間の交流は新しい価値観に触れる機会です。会社としては、こうした活動のための資金提供をはじめ、場所や備品の貸し出しなどができるでしょう。
「直属の上司や同僚には相談しにくいキャリアの悩みがあるとき、社内の事情や職業環境について理解がある人に相談したい」というケースは少なくありません。近年、学校の相談室に常駐カウンセラーを置き、進路から人間関係などの相談を、プロのカウンセリングを受けられる学校が増えています。「企業版」ともいえるキャリア相談窓口を設置するのもキャリア自律に役立ちます。
社内常駐が難しい場合は、オンライン面談を利用して外部のキャリアコンサルティングサービスと連携する選択肢も良いです。専門のコンサルタントが対応することで、メンタル不調などを早期に治療に繋げられる効果も期待できます。
日本で導入している企業は多くありませんが、キャリア自律に繋がる施策のひとつとしてアルムナイ制度は有効です。アルムナイ制度とは、離職者と退職後も繋がりを保ち、離職者が希望した際には会社に再就職できるという制度です。
他社の知見や新しい職務経験を得て、自社の「良いところ」を外から実感した上で復帰する従業員は、キャリア自律の観点からほかの従業員にも良い刺激や影響を与えるでしょう。
全社でキャリア自立推進の取り組みを導入する場合は相応の時間がかかります。そのため、まずは人事担当者が手を付ける取り組みを4つ解説します。
直属の上司や同僚先輩と異なり、人事担当者は「斜めの関係」が作りやすいポジションです。就職活動からの関係性であれば信頼関係もつくりやすいでしょう。
社員数や拠点数によっては全社員への対応は困難かもしれませんが、キャリア自律を推進したい年代や役職、職域などを絞ってコミュニケーションの機会を増やす方法もあります。
コミュニケーションを増やす前に、キャリア自律についての講演会や研修を実施し、個別面談を人事スタッフが引き継ぐ方法もおすすめです。
従来型の終身雇用を前提としたキャリアパスでは、配属や転勤は企業側の都合でなされるものでした。
特に従来型会社では、組織のニーズに対応することが社員にとっての「キャリア自律」に直結していましたが、スキル重視のジョブ型雇用などの場合は必ずしも直結しません。
社員の希望にあわせて調整を行う、配属決定の検討過程を隠さずポジションごとに公募して、組織のニーズと社員個人の希望をバランスよく調整することが大切です。
調整に必要な社員の能力・スキルの可視化は社員にとっては「職務経歴の棚卸」の機会となり、会社にとっては「戦略的な人材管理」の必須情報となります。
キャリア自律の第一歩は「キャリアについて自分自身のこととして考えること」です。
例えば、野球選手の活躍をテレビで見て「自分も高い目標をもって頑張ってみよう」と思うことも、立派なキャリア自律の第一歩といえます。
キャリアに関する情報提供を充実させる手段として、以下の方法があります。
キャリア勉強会を開催する際、はじめはごく少人数での任意参加からスタートするのがよいでしょう。
「キャリア自律が必要な人を動かすか」という視点だけでなく、経営者や役職者に対して現在の「キャリア考(今世の中で求められるキャリア論)」を広めていくことも重要です。人事担当者が発するメッセージと、マネジメント層のメッセージが異なれば混乱の元にしかなりません。
人事制度が経営に与える影響は甚大です。長期的にどのような人材戦略を取るべきなのか、キャリア自律を推進する必要性についてマネジメント層へ啓蒙し続けることが求められます。
1on1ミーティングに組織的に取り組み始めたものの、「現場が乗り気ではない」「人によって上手/下手の差が大きい」など課題を感じている企業向けに、1on1ミーティング定着に向けた施策の考え方を解説しています。
動画セミナー:「1on1ミーティングを組織に定着させる処方箋」を見る ![]()
最後に、キャリア自律の促進に取り組む企業の事例を2つ紹介します。
電子部品・自動車部品製造やソフトウエア開発を行うA社は、人材が育たない悩みを減らすために取り組んだ以下の施策がキャリア自律を推進しました。
施策の結果、平均勤続年数が増加し多機能工化も進み、生産性が向上しています。また、女性管理職の比率が2.4倍に増え、意欲的に高いレベルに挑戦する従業員が増えています。
通信販売事業を行うB社では、非正規雇用の従業員が半数以上を占めています。複数社が合併して現在のB社になったことをきっかけに、雇用形態が多種多様なメンバーが増え、働きやすい職場環境づくりに取り組んだ内容がキャリア自律を促進しました。
従業員同士の協働性が向上した結果、新規事業やイノベーション創出が行われただけでなく、メンター制度導入以降に入社した新卒採用社員の3年以内離職率は0%を保っています。
全社的そして中期的にキャリア形成意識を醸成させるための戦略立案について解説する動画セミナーを配信しています。
動画セミナー:「成功事例から学ぶ自律的キャリアの意識醸成と定着」を見る ![]()
デジタルマネーや、文章や画像などの自動生成AIなど、新しい技術やプロダクトが生まれ、さらに性能のよい新技術に入れ替わっていくサイクルが早まっている現代、キャリア自律が進行することで、爆発的な技術革新が生じた際に、従業員が素早く新技術に注目し、自身の仕事に適応できるか考える状況が生まれます。
変化し続ける環境に対して自らキャリアに責任をもってコミットメントする企業風土とは、事業に責任をもって、課題にコミットメントすることです。
キャリア自律推進企業として、変革の一歩目を踏み出してみてはいかがでしょうか。
こちらの資料もおすすめです