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アルムナイ採用とは、退職や転職したOB・OGなどを採用の対象とした手法です。在籍経験があることからパフォーマンスの予測がしやすく、信頼性も高いこの層を改めて迎える施策が今、注目を集めています。ここでは、アルムナイ採用のメリットや導入するためのポイントについて解説します。
アルムナイ採用とは退職もしくは転職したOB/OGを再雇用する採用手法です。
アメリカでは広く導入されている採用手法で、アメリカの大手ソフトウェア企業の調査では、全米企業ランキングTOP500の企業のうち、98%が何らかのアルムナイ制度を導入しているとされています。
日本でも人手不足や即戦力確保の難しさから、有効な採用施策策としてアムルナイ制度を採用する動きが見られます。
ジョブリターン制度とは、出産や育児、介護など個人的でやむを得ない理由で退職した人が復職を希望した場合に再雇用する制度です。転職や起業のように自ら新しい場を求めて退職した場合を含みません。
アルムナイ採用は、さまざまな理由で企業を去った人を対象とする点がジョブリターン制度と異なります。
マンパワーグループが行ったアルムナイ採用に関する調査で、採用の手段としてアルムナイ採用を取り入れている企業は約3割でした。
アルムナイ採用を導入している雇用形態は、正社員のほかにも契約社員などの有期雇用社員が多く見られました。少数ではありますが、役員や顧問といったポジションでもアルムナイ採用を活用している声も見受けられました。
アルムナイ採用の導入で感じている効果は以下のとおりです。
次のメリットで詳しく解説しますが、「一度働いていたことがある」という実績が大きなメリットを生んでいます。
アルムナイ採用には、5つのメリットが挙げられます
過去に勤務していたことで、人柄や能力について実証がある人材を即戦力として採用できるのが、アルムナイ採用の最大のメリット。
以前に働いていた下地があることから、募集の段階で詳しい業務内容を話すことができ、期待したパフォーマンスとのギャップも起きにくいのも特徴です。
経験や人柄などすでに企業側が知っていることが多く、ミスマッチを起こしにくいのもメリットです。また、採用するアルムナイも全く人間関係がないわけではなく、知っている社員も一定数いるため、業務やチームに早く慣れることができます。
一度働いていたことから、能力や人柄、働きぶりがすでに分かっていることが多く、少ない選考回数で採用することができます。
離職者とコミュニケーションを取りやすい仕組みを導入し、募集の告知や採用情報をすぐに伝えることができると、さらに短期間で採用することも可能です。
業界への理解や業務フロー、社内における部門の役割などを知っているため、一般的な中途採用と比べても育成コストを抑えることが可能です。
自社以外で働いた経験、外部で積み重ねられたスキルや知識が、自社の事業に新たな視点を見出す可能性があります。同時に新たなネットワークを築いていることも多く、そのネットワークを活かした仕事の展開にも期待がもてます。
アルムナイ採用には、デメリットもあります。
アルムナイ採用は、母集団が「元社員」となるため、比較的限られた範囲になります。採用率は高いかもしれませんが、そもそもの母数が少ないため、多くの人材を採用するチャネルとしては不向きです。
アルムナイ採用で再度迎え入れた社員にどのような待遇を与えるのか、はアルムナイ採用を成功させるポイントのひとつでもあります。
例えば、年功序列による報酬体系であった場合、在籍していない期間をどう扱うのか、永年勤続の表彰を行っている場合の算出期間をどうするか、といったように社内ルールを見直す必要がでてきます。
アルムナイ採用を導入することで、「退職しても戻ってこられるという」認識が広がるため、退職への心理的ハードルが下がってしまうこともあります。
誤解を生まないためにも、アルムナイ採用の条件や方針、再雇用までの流れについてきちんと説明しておきましょう。
一度自社を離れた人材の復帰スキームを制度として確立しておくと、社内外へのアピールや運用がしやすくなります。
戻ってくる人材の受け入れについて理解してもらう、あるいは離職した社員が将来的に転職や職場復帰を考えた際に選択肢として想起してもらうためにも、制度の認知度を高める活動は重要。
戻る意志のあるアルムナイが、躊躇なく復帰に踏み出せる環境を提供することで、アルムナイ採用をスムーズに進められます。
また、定年後の再雇用制度とは別だということも、しっかり認識してもらう必要があります。
アルムナイ採用を行う前提として、出口管理(イグジットマネジメント)は大切です。円満退職ができていなければ、「また戻ってきたい」とは思えないでしょう。
転職への意識は変わっており、特に若い世代では転職に対してネガティブな印象は少ないものです。どのように送り出すか、送り出した後にどうコンタクトを取るかが重要。
離職者に向けた「アルムナイネットワーク」づくり、アルムナイ同士の交流の場の提供、アルムナイへの定期的コンタクトなど、海外などの先行事例を参考に、自社に合わせたリレーションシップ保持の施策が有効です。
アルムナイ自身からのコンタクトを待つ消極的な姿勢では自社の採用ニーズに応えられませんので、しっかりと対策を立てましょう。
古い体質の組織では残る社員が、離れていく人に対して、裏切り者・離脱者といった視線を向ける場合があります。旧時代的な体質ではアルムナイ制度がうまく働きません。再雇用の受け入れの際に、周囲との軋轢を生じさせないためにも、離職者に対して既存の社員は意識を変えていかなければなりません。
一般的な採用よりも短い回数で選考を行うなど、アルムナイ採用独自の採用フローを導入しておくとよいでしょう。
気を付けたいのは、評価基準と公平性の確保です。アルムナイだからと不透明な選考プロセスとならないようにしましょう。また、安心しきってギャップを起こさないよう、確認したいスキルや新たに得たスキル・経験も確認しておくようにします。
退職者は、さまざまな理由で自社を去っています。個々の事情に柔軟にこたえられるよう、プロジェクトの立上げのために期間限定の契約社員として採用する、フリーランスの業務委託として必要なタイミングで業務を依頼するといった関係性も視野に入れると、必要時に適切な人材を迅速に見つけることができます。
アルムナイ採用を成功に導くためには、退職者といかにつながりを保てるかということがカギになります。アルムナイ制度を積極的に取り入れている企業では、さまざまな工夫をしながら施策を進めています。
アルムナイが自社に対する興味を失わずにいるために、企業として何ができるのかを考えていかなければなりません。例えば、最新の情報を提供するセミナーや勉強会の開催、SNSを使った情報発信などが考えられます。
さらに、現在どのような人材を求めているのかを、キャリア形成サポートの体制などと併せながら伝えていくといった施策が必要です。アルムナイが「戻りやすい」道筋をつける意味で、アルムナイ同士の交流会を企画するのも有効です。
最後にアルムナイ採用を取り入れている企業の事例を3つご紹介します。
世界120カ国に顧客をもつ同社では、約30万人の元社員が登録する専用ポータルサイトを運営。求人情報の検索やアルムナイ同士が交流できる場を提供しています。
アルムナイは、サイトで最新の採用情報を知ることができ、企業としても優秀な元社員との接点を増すことに成功しています。
こちら企業では、「育自分休休暇制度」を設け、退職後6年以内であれば復職できる制度を設けています。
35歳以下の若年層を対象とし、外の世界で学びたい、留学したいなどの要望を尊重しつつ、また戻ってくることができるという安心感がエンゲージメントにも繋がっています。
大手飲食チェーンでは、エンゲージメントの一環として退職者に「バーチャル社員証」を発行し、職場を卒業後もつながりが持てる制度を設けています。
卒業も店舗での飲食が割引になったり、試食会、社内イベントなどにも参加できるという特徴があります。こうした関わりが、「また働きたい」に繋がり再雇用へとつながっています。
日本国内でもすでにアルムナイを活用し、優秀な人材採用の強化を進めている企業があります。
ポイントとなるのは、自社を離れる人材と継続的なリレーションを保っておくことができるか、という点です。離職する人材を完全に手放すのでなく、退職後にどのようなベネフィットを提供しつづけることができるのかについて考えてみましょう。アルムナイに対する働きかけ方法、戻りたい気持ちを起こさせる企業としての魅力の発掘、発信など、検討課題は数多くあります。
しかし、即戦力として充実したスキルをもつアルムナイは、企業運営にとって貴重な人材候補です。人材採用に悩んでいる企業にとっては、検討する価値のある採用施策であるといえるでしょう。
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