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「人生100年時代」として現役で働く期間が長期化しつつある現代、パラレルキャリアへの注目度が高まっています。同時に、副業を解禁する企業も増えています。
この記事では、副業のメリット・デメリットを紹介したうえで、副業を解禁するにあたり注意が必要なポイントについて解説します。
マンパワーグループが2020年に実施したアンケート調査によると、副業を認めている企業は全体の25.8%です。いまだ約75%の企業が副業を認めていない状況ではありますが、同アンケートには「副業をやってみたい」と答えた人は29.7%と、約3割の人は副業に興味があるようです。今後、副業を導入するうえで注目すべきキーワードは、「離職防止」と「社員の育成」です。
労働者が安心して副業や兼業に取り組めるようにすることを目的として、企業向けに副業や兼業を行う労働者の労働時間管理や健康管理等の在り方を示した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を、国が2018年1月に策定しました。
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、2020年9月の改定を経た後に、2022年7月に再度の改定が行われています。
2022年7月の改定内容は、企業が労働者の多様なキャリア形成を推進することを後押しする目的で、以下の内容をガイドラインに盛り込みました。
ガイドラインの改定によって公表対象となる副業・兼業は、他社に雇用される形での副業・兼業だけではなく、フリーランスという立場で請負・委任・準委任契約に基づいた業務を行う場合や、従業員自らが事業主になって独立・起業する場合も含まれます。
また、条件付きで副業・兼業を認めている場合は、条件内容を具体的に明示した上で、条件などに変更があった場合は速やかに公表内容を更新することが求められています。
出典:
副業・兼業の促進に関するガイドライン(令和4年7月改定)│厚生労働省(PDF)
副業・兼業の促進に関するガイドラインQ&A(令和4年7月改定)│厚生労働省(PDF)
副業を通じて「本業にも活かせるスキル」を身に付けるきっかけになる可能性があります。
例えば、副業を認めることで、社員が自分のWebサイトで売上を増やすためにWebマーケティングの知識が必要になり独自に学べる、といったように、本業では得られない知識・スキルが獲得できる場合があります。
社員が副業を通して社外から新しい知識や情報、人脈などを自社に持ち帰ることで、事業機会の拡大やイノベーションの創出が期待できます。例えば、自社に専門知識がないために、受注できていない案件も、社員が副業を通じて得た知識や情報から解決につながる場合もあります。
副業を認める、時短勤務制度を採用するなど、フルコミット以外の多様な働き方を認めることにより、優秀な人材の流出を防ぐことに繋がります。また、柔軟な働き方は自社の魅力にもなるため、結果として人材を雇用しやすくなる効果も期待できるでしょう。
もともと副業を禁止していた場合は、副業・兼業を認めることとあわせて、適切な労務管理を行うために、就業規則を見直す必要があります。安全配慮や競業避止義務、機密情報の漏えい対策など、明確に規定すべきポイントについては、後ほど詳しく解説します。
長時間労働により本業のパフォーマンスが低下する、本業・副業間の業務バランスを崩し(欠勤など)、労務提供義務を果たせないといったケースが生じる可能性があります。
副業を望む社員の動機を知ることも大切です。副業は、社員にとってもメリットだけではなくデメリットも生じることがあります。本人のモチベーションと業務への影響、両方を想定しておきましょう。
本業で安定した所得があることを活かして、収入を気にせずに自分のやりたいこと(社会貢献活動、文化・芸術的活動なども含む)に挑戦・継続できます。
残業時間の短縮による収入の減少、将来への備えなど、状況に応じて副業を行うことで収入を増やすことができます。
語学力やITスキルなど、社内では活かせないスキルを副業で活用したり、副業を通じて本業で役立つ実践的なスキルを身に付けたりすることができます。
本業以外の労働時間が増えるので、ライフワークバランスを保つことが難しくなります。また、労働時間が増えれば休息時間は減るので、健康管理もより難しくなります。
例えば、個人事業主として行うアフィリエイトや物販などは、収益化までに時間がかかってしまったり、なかなか収入が増えなかったりすることがあります。そうした焦りや金銭的なひっ迫が長時間労働につながる可能性があります。
副業が原因で、本業の会社の利益を損ねる行為をすると、罰則が生じてしまう恐れがあります。最悪のケースでは、懲戒解雇や損害賠償請求の対象となる可能性も考えられます。
一つひとつの企業の労働日数が少ない、雇用期間が短かいなど、本業と副業とのバランスによっては、どちらの企業でも社会健康保険に加入できないケースがあります。
副業での年間所得が20万円を超えると、確定申告が必要になります。申告漏れになると、脱税とみなされてしまいます。
本業の勤め先である企業と社員との規定において、最低限押さえておきたいポイントは以下の4つです。
安全配慮義務が特に問題となるのは、副業の負担による長時間労働やストレスの蓄積により社員が心身の調子を崩してしまうケースです。
対策としては、長時間労働により労務提供上の支障が生じる場合は副業を禁止する規定を設けておく、副業の状況を社員と定期的に話し合い、健康上のリスクが高いと判断した場合は適切な処置を取れるようにしておく、などが考えられます。
労働者は、企業の業務上における秘密を守る義務を負っていると解されています。副業で問題となり得るのは、労働者が業務上の秘密を他社で漏えいする場合や、他社の業務上の秘密を自社で漏えいする場合が考えられます。
企業側は就業規則で業務上の秘密が漏えいした場合に副業を禁止・制限できるようにしておく、また、秘密の範囲を明確にして、社員に対して注意喚起しておく必要があります。
競業避止義務において、一般に、在職中、企業と競合する業務を行わない義務を負っていると解されています。
ただし、競業避止義務は、自社の正当な利益を害する可能性がある場合にのみ認められるため、同業種であるからといって必ずしも認められるわけではありません。従って、企業側は自社の正当な利益を明確にし、社員に対して注意喚起しておく必要があります。
社員は、秘密保持義務、競業避止義務を負うほか、使用者や企業の名誉・信用を損なわないように、誠実に行動するよう要請されます。そのため、自社の名誉や信用を損なう、信頼関係を破壊する行為があった場合に、副業の禁止・制限ができるよう就業規則で定めます。また副業の届出があった際に、これらの恐れがないか確認しましょう。
社員の行っている副業が上述した4つの例(安全配慮義務、秘密保持義務、競業避止義務、誠実義務)に反する場合、企業は副業・兼業に関する裁判例において、例外的に労働者の副業・兼業を禁止又は制限することができるとされています。
副業許可の線引き、働き方への規定については、企業側と社員側の円滑なコミュニケーションが不可欠です。双方が納得し、不満が残らないようにコミュニケーションを取る必要があります。社員は規則を自ら確認したうえで、規則に沿った行動が求められます。
最後に、副業解禁における管理方法について具体的に解説します。
本業のパフォーマンス低下など、先述のような従業員が副業を行うことによる企業側のリスクを防止するために、副業に関するルールを就業規則上で規定化し、秩序のなかで副業を行うことを従業員に求める必要があります。
そのために、以下のような規定を就業規則に盛り込むかを自社の考えや状況、ガイドラインと照らし合わせて入念に検討し、盛り込んだ項目について従業員に周知を徹底しましょう。
例:
従業員が副業をしている場合、会社は原則として副業と本業を通算して管理するため、副業・兼業の内容を確認する必要があります。就業時間外の時間の使い方は、基本的に社員の自由です。ただし、前述した4つの事項に該当する場合、企業は社員の副業について制限を設けることが許されています。
従業員が副業を行っている場合、会社は原則として副業と本業を通算して労働時間の管理を行う必要があります。
この労働時間の通算において重要なのが、残業時間の計算と残業代の支給です。
法律上、実労働時間が一日8時間および一週40時間を超えた時間外労働に対して割増賃金を支給、残業時間に関しては36協定の範囲内で運用する必要があります。
この「労働時間の通算」の対応が必要となるのは、副業先の雇用主です。なぜなら、副業として雇い入れる労働者の本業に関わる労働時間を承知した上で雇用しているという解釈によるものだからです。
例えば、本業で一日8時間勤務をした後に副業で3時間勤務をした場合、副業先の雇用主は、その日の労働に対して3時間分の割増賃金を支給しなければなりません。
36協定の運用においても、「時間外労働と休日労働(週一日の法定休日の労働)の合計時間が月100時間未満かつすべての2~6ヵ月の平均が80時間以内となるようにする」という要件を満たせるように副業者を受け入れる必要があります。
ただし、本業にあたる企業においても安全配慮の観点から、副業の就業時間を把握しておき、社員が副業によって長時間労働にならないように注意を払っておくことが好ましいです。
副業の有無にかかわらず、企業は社員の健康状態を管理しなければなりません。ストレスチェックを行い、その結果に基づいて健康確保措置(配置転換、労働時間の短縮、作業環境の改善など)を実施する必要があります。
社員の本業・副業を通じた業務量やその進捗状況、それに費やす時間や健康状態を把握できるよう、社員に心身の不調があった場合、都度相談が受けられるような体制を整えておくとよいでしょう。
一人でも労働者を雇っていれば、その労働者が副業を行っているか否かに関わらず、企業は労災保険に加入しなければなりません。
なお、「雇用保険法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第14号)により、非災害発生事業場の賃金額も合算して労災保険給付を算定することとしたほか、複数就業者の就業先の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定を行うように規定されています。
ガイドラインによると「雇用保険制度において、労働者が雇用される事業は、その業種、規模等を問わず、全て適用事業(農林水産の個人事業のうち常時5人以上の労働者を雇用する事業以外の事業については、暫定任意適用事業)である」と規定されています。
また、「社会保険(厚生年金保険及び健康保険)の適用要件は、事業所毎に判断するため、複数の雇用関係に基づき複数の事業所で勤務する者が、いずれの事業所においても適用要件を満たさない場合、労働時間等を合算して適用要件を満たしたとしても、適用されない」とも規定されています。
つまり、社員が副業先で社会保険の適用要件に満たしている場合は副業先でも加入義務が生じます。そうなった場合の社会保険料は、自社での賃金と副業先の賃金を合計し、各企業で按分して計算することが必要です。
副業の解禁にはいくつかのリスクが存在します。特に「副業と本業を合わせた労働時間」の長時間化による社員の健康状態への悪影響、社員による職務専念義務や秘密保持義務、競業避止義務に反した行動への懸念など、リスクは非常に大きなものです。
しかし、多様な働き方を認めることで社員個人の可能性を広げる、雇用を維持しやすくなるなどの大きなメリットが存在することも確かです。これらの大きなメリットを享受するには、リスクに対する回避・軽減策および企業と社員の双方の納得感を兼ね備えた規則やルールを整備することが必要です。
参考:
副業・兼業の促進に関するガイドライン|厚生労働省(PDF)
給与所得者で確定申告が必要な人|国税庁
労働安全衛生法 第七章 健康の保持増進のための措置|安全衛生情報センター