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少子高齢化による労働人口の減少、多様化する人材など社会は変化しています。さまざまな年齢の人が自分自身の状況にあった働き方を選択する時代です。一方、これまでの上司イコール年上といった固定観念が崩れる現象も多く起こり、戸惑いを感じる人も増えています。
ここでは、年下上司や年上部下との関係に悩む原因や、悩んでいる従業員に対して管理職が行うべき対応などについて解説します。
定年延長により企業の人員構成はシニア社員の占める割合が大きくなります。年上部下・年下上司における問題は、今後、解消しなければならないテーマです。
本セミナーでは、年上部下・年下上司における現状の問題点、そのために必要なアプローチ手法について解説しています。
マンパワーグループが2018年8月に「年下の上司と年上の部下」に関する調査を行いました。転職したミドル人材400人を対象に「年下の上司・社員とやりにくいことはなかったか」についての質問を行ったところ、約3割の人が年下の上司か社員もしくは両方とやりにくいと感じたという結果が明らかになりました。
また、2021年9月に管理職やリーダーポジションを務めている20代~50代の男女400名を対象に「年上の部下を持つ管理職者の実態」について調査をしたところ、年上部下がいると答えた人は68.0%であり、年上の部下について「業務上、やりにくい」と回答した人は21.3%でした。
上記の調査を踏まえて、年下上司や年上部下との関係性に悩んでいる人が一定数いるということがわかります。
年上の人が自分の部下として配属されたり、上司だった人が役職定年や再雇用制度で部下になったりするケースが多く起こる中、管理職はさまざまな悩みを抱えています。
年上部下の場合、上司よりも豊富な経験や知識を有していることも少なくありません。また、社歴が上司より長い場合もあります。そのため、上司は部下よりも経験や知識が少ないという負い目を感じ、年上部下に対して強く意見を言えないという悩みがあります。
年上部下との距離感の取り方が難しいと感じる人も多いようです。例えば雑談をしたり、褒めたりするというような、年下部下には比較的自然にできる関わりも、年上部下にはどのようにアプローチすれば良いのかといった悩みも起こります。また、何かを依頼する際にも、つい伝えやすい年下部下に偏ってしまうという傾向になりがちです。
年上部下の場合、これまでの経験が豊富であるため、自分自身の経験則や判断基準に基づいた業務の進め方を優先する人がいます。そのため指示をすると反論が返ってくることもあります。また、固定観念などから、「自分が知っているやり方とは違う」という理由から指示にしたがってもらえないことも悩みの一つです。
前述のような悩みを抱えてしまう年下上司が、マネジメントの際に行ってしまうありがちな失敗について解説します。
上司と部下を上下関係で考えてしまい、気負いから自分が強くあらねばならないという思考や行動になりがちです。その結果「きつい言葉で伝えてしまう」「年上部下の経験や知識を否定してしまう」といったマネジメントになり、年上部下のプライドを傷つけてしまい、関係性を壊してしまいます。
年上部下も、頭では年下上司の指示には従わねばならないことを理解していても、感情としては耐えられないということも起こり得るのです。
年下上司、年上部下ともに相手への遠慮や苦手意識があり、コミュニケーション量が減る傾向があります。そのため、報告・連絡・相談などが滞ることが、通常より多くなる傾向が見受けられます。
年下部下には報告・連絡・相談ができているかを注意して見ている上司も多いですが、年上部下には目を向けられていないケースもあり得ます。
年下上司・年上部下の関係性構築は難しい面もありますが、それらの多くは互いの固定観念が作り出しているともいえます。
ダイバーシティ推進が求められる今、年齢に限らず多様な人とのさまざまな関わりは増えていきます。ダイバーシティの考え方に基づき、年下上司・年上部下がどのように関係性を構築していけばよいのか3つの対策について解説します。
3つの対策
上司は上の立場であるという考え方や、部下よりも経験や知識が豊富であるといった固定観念に捉われると、年下上司は常に苦しい心理状態に陥ります。そのため、自身の役割やどのようなスタンスでいるべきなのかをしっかりと意識することが大切です。
フランクリン・アーンストの『OK牧場』という、心理療法で使われている人の態度を4つに分類する概念があります。
参考:人間力を活かす『TAマネジャー』になろう|日本交流分析協会
多様な人との関わりで求められるのは、互いを肯定する第1の立場です。
例えば上司が、第2の立場「自己否定・他者肯定」の場合は、「自分なんかが年上部下をマネジメントできない」と感じてしまいます。一方、第3の立場「自己肯定・他者否定」だと、「年上だから指示を聞いてくれないに違いない」など否定的に見てしまいます。
上司は第1の立場「自己肯定・他者肯定」のスタンスを保ち、マネジメントする役割をしっかり行うという意識を持つ必要があります。
前項でもお伝えしたとおり、マネジメントはチームをまとめていくための「役割」です。多様な人々が共通の目標に向けて互いに関わり合い、結果を出していくというのが組織やチームです。その運営がうまく行われるように管理するのが上司の役割です。
筆者が管理職の方から、年上部下との関わりでよく聞く悩みの一つに「部下よりも専門知識が不足している」というものがあります。しかし、部下はその専門知識を発揮して活躍するためにチームにいるので、上司がすべて上回るスキルを持っている必要はないのです。
上司が考えるべきことは、部下がその専門知識を発揮できるチーム運営を行うことだといえます。仕事にあわせて特定の専門知識を持っている人材を採用する「ジョブ型雇用」が増えている中で、このような思考は年上部下のみならず、さまざまな場面で必要になるでしょう。
年上部下にかかわる際、従ってもらうのではなく、協力者になってもらうという気持ちで接すると良いでしょう。そのためにも、次の3つは鉄則です。
長く歩んできたキャリアや人生の歴史を否定するのではなく敬う気持ちを持ち、それを言葉で伝えることも必要です。
関わりを避けたり、依頼しにくいからと役割を与えなかったりすることで、相手の存在そのものが否定されてしまいます。その結果、年上部下とチームの関係にも溝ができてしまい、年上部下は孤立してしまいます。また、パワハラ行為の一つに「過小な要求(業務状の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)」があります。場合によってはパワハラ行為になる可能性もあるので注意しましょう。
参照:厚生労働省|職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告
年上部下からしてもらったことに対してお礼の気持ちを伝える際に、主語を「私は」にすることで相手は受取りやくなります。例えば、「〇〇さんが、~をしてくれて私は(もしくはチームは)とても助かりました」など、しっかり伝えるようにしましょう。
組織として、社内外の研修を取り入れて関係性の構築を行っていくことも必要です。
例えば、チームビルディングの研修では、上司と部下が参加し、ワークなどを通してチームメンバーの良好な関係性を体感しながら構築することができます。また、研修を受講することにより、チームのあり方への気づきや、互いの距離を縮める意識につながる効果も期待されます。
アンコンシャスバイアスなどの研修も役立ちます。アンコンシャスバイアスとは無意識の偏見のことを意味します。私たちはさまざまな点で自分でも気づかない無意識の偏見を持ってしまうものです。だからこそ自分自身の無意識の偏見について気づく機会が必要です。
例えば「年齢」に対して、上司も部下も気づいていない偏見を持っている可能性もあります。その偏見がダイバーシティ経営を妨げる要因になっていたり、ときにはハラスメントになってしまったりすることを、体系づけて学び、気づく機会にもなります。
また、キャリアの価値観に関する研修も効果的です。人それぞれ、仕事をする上で大切にしたいことは異なります。お互いの異なる価値観を知り、違いを間違いではなく、違いであると気づくことで、相互理解やチームの相乗効果につなげることができます。実際に、チームで自分の「働きがい」や「価値観」を語る場をつくることは、心理的安全性の構築にもつながります。
人事が主体となって、それぞれのメンバーの活躍する場や、役割を設定するなどの取組みも必要です。
年上の社員が部下になると上司も身構えてしまうことがあるかもしれませんが、同じ目標に向かって進むチームメンバーであることを互いが認識することが重要です。
ダイバーシティ経営を進めていく中でも、個々が持つ特性を活用する場を作っていくことは必須といえるでしょう。
管理職はなかなか周囲に相談する相手がいないということもあり、一人で年上部下との関係構築に悩んでいる上司も多くいます。それにより、管理職自身がつぶれてしまうということがないように、メンター制度を導入するという方法も効果があります。
メンター制度とは、相談受ける人をメンター、相談する人をメンティーと呼び、通常は業務などの接点がない人をマッチングさせて月1回程度の面談を行います。上位の役職をメンターとして、面談を行う機会を設けるのです。メンター制度を導入することによって、管理職は一人で悩まずにメンターに相談することができます。
多くの企業で見られるようになった「年上部下」「年下上司」という構図。
マンパワーグループは、この構図の中で起きる問題に対処できるようeラーニングを提供しています。
<特徴>
▽サービス詳細についてはこちらから
https://mpg.rightmanagement.jp/tm/development/career/e_learning/toshiuebuka.html
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多様な人材が活躍する組織になればなるほど、年下上司・年上部下というケースは増えていきます。さまざまな年齢の人が働くことで相乗効果が起こる組織にするためには、互いを尊重し理解するという関係性は必要不可欠だといえるでしょう。
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