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派遣サービスを利用する場合、受け入れる側の企業にも対処すべきことが派遣法では定められています。派遣先が講ずべき措置として、以下のようなことについて10の指針が出されています。
理解が難しいこの10の指針をわかりやすく解説した資料をご用意しています。ぜひご覧ください。
人材派遣サービスを利用する場合、派遣先となる企業は「派遣先苦情申出先の担当者」を設置する必要があります。
この記事では、派遣先苦情申出先の担当者の役割や選任条件、注意点などについて解説します。
派遣先苦情申出先は、派遣先で働いている派遣社員からの苦情を受ける担当者です。派遣社員自身が直接苦情を伝えることができる窓口として、派遣社員が仕事をする上で直面している問題を解決するために設けられたポジションです。
派遣先苦情申出先は、派遣先で設置する役割のひとつで、労働者派遣法によって定められた「派遣先が講ずべき措置に関する指針」において、「適切な苦情の処理のために、苦情の申出を受ける者」を「あらかじめ労働者派遣契約において定める」こととされています。
そのため、労働者派遣契約を締結する際には、派遣先苦情申出先の以下の情報が必要となります。
苦情申出先は、派遣先だけではなく、派遣会社でも担当者を設置する義務があります。
派遣先苦情申出先担当者の選任は、特に条件などはありません。ただし、役割を鑑みた場合、労働関係法令や人事・労務の知識や経験がある人材が適任ではあります。
また、業務に関する内容だけではなく、職場環境など就業状況に関する苦情も受け付けることができる人が望ましいです。
派遣先苦情申出先の担当者は、自社の社員だけではなく、顧問弁護士等の第三者の選任も認められています。
派遣先に設置義務がある役割は、以下の3つです。
派遣先苦情申出先の担当者が、他の2つの役割と兼任できるかどうかについて説明します。
派遣先苦情申出先の担当者と派遣先責任者の兼任は問題ありません。
派遣先責任者は、派遣会社との調整や抵触日の管理、派遣先管理台帳の作成・管理といった派遣サービスの正しい運用、派遣社員が安心して働ける就業環境の維持などが主な役割です。
誰でもなれるわけではなく、労働関係法令の知識を有している、人事・労務管理の経験者など、派遣先責任者の職務を適切に遂行できる人を選任するよう努めること、とされています。
また、派遣社員100名につき1名以上など、設置人数にも定めがあります。
派遣先苦情申出先の担当者と派遣先責任者は兼任が可能です。派遣先責任者については、「派遣先責任者とは|役割と選任基準をわかりやすく解説 」で詳しく解説しています。
派遣先苦情申出先の担当者と指揮命令者の兼任は、望ましくないとされています。指揮命令者は、派遣社員と密に関わる存在であるため、苦情の対象になる可能性もあるためです。
指揮命令者とは、派遣社員に業務指示を出す役割を担う担当者のことです。派遣社員が行う業務に精通している人が担うことが多く、派遣社員が所属する部署から選ばれるのが一般的です。
派遣社員への業務指示とは別に、勤怠管理や就業環境のチェックを派遣先責任者と協力しながら行います。
前述しましたが、派遣先苦情申出先の担当者と指揮命令者は、別であることが望ましいとされています。指揮命令者については、「派遣における派遣における指揮命令者とは?役割と選任条件、よくある質問を解説」で詳しく解説しています。
客観的な視点をもって、問題を解決するためには、指揮命令者と派遣先苦情申出先担当者は、別の人を選任しましょう。
人材派遣を利用する場合、派遣社員を受け入れる部門にもある程度派遣の仕組みを理解してもらう必要があります。
「忙しくてつい違う仕事を依頼してしまった」など、知らない間に契約違反をしていることも。
現場担当者にも簡単に理解できる基礎知識ブックをご用意しています。ぜひご活用ください。
労働者派遣法では、派遣社員の適正な就業を確保するために、派遣先企業には指揮命令で生じた苦情などを適切かつ迅速に処理することを求めています。
その上で、必要とされる派遣先苦情申出先担当者の役割を3つ解説します。
派遣社員からの苦情を受け付けるのが主な役割です。苦情を解決するために、指揮命令者や関係者に速やかに周知するなど、解決に向けた対応の中心は派遣先責任者が担います。
苦情の処理は初動が大切であるため、派遣社員から相談・苦情を受けた際は、しっかりと内容を確認することで、派遣先責任者は適切な関係者に連絡し、対応を検討することができます。
派遣先責任者については、「派遣における派遣における指揮命令者とは?役割と選任条件、よくある質問を解説」で詳しく解説しています。
派遣社員から苦情があった場合、速やかに派遣会社へ連携します。派遣社員の苦情の原因が派遣会社にもある場合、しっかりと連携を取り、調整する必要があるためです。
ただし、自社内の問題であり、解決が容易で即時に処理できる場合は、あえて派遣会社に連絡する必要はありません。
派遣先の義務として、派遣先管理台帳の作成があります。派遣社員から苦情があった場合、以下の内容を派遣先管理台帳に都度、記録を残します。
<記載例>
申出を受けた日:〇月○日(金)
苦情内容、処理状況:
同一の部署内の男性労働者が、顔を会わせると必ず容姿や身体に関して言及するとの苦情。当該部署内にセクシュアルハラスメント防止に関する啓発用資料を配布するとともに、説明を行ったところ、以後、そのような不適切な発言はなくなった。
引用元:派遣先の講ずべき処置|厚生労働省
派遣先管理台帳の全体的な管理は、派遣先責任者の役割ですので、連携しながら対応を進めましょう。
派遣先管理台帳については、「派遣先管理台帳とは?通知必須の6項目・記載必須の17項目を解説」で詳しく解説しています。
派遣社員から苦情を受けた場合のプロセスを解説します。
派遣法では、派遣先は派遣社員に対し、説明会等を実施して、苦情の申出を受ける担当者や派遣先において苦情の処理をする方法、派遣会社と派遣先との連携を図るための体制等を説明することが派遣先の講ずべき処置として記されています。
苦情の受け付け方については、特に定めは無く、書面でも口頭でも構いません。派遣社員が困った際に相談しやすい環境を整えておくことが望ましいです。
社内の関係者や派遣会社と連携し、派遣社員に苦情があった際の適切な申し出フローを構築しておきましょう。
派遣社員から受けた苦情について、派遣先責任者へ報告し、派遣先責任者を中心に苦情へ対応します。
2021年1月の派遣法改正により、派遣先企業も派遣社員からの就業に関する苦情に対して、誠実に主体的に対応すべきということが、派遣先の指針に明記されました。
派遣法で定められた講ずべき処置については、ダウンロード資料「派遣先の講ずべき措置とは? 10の指針について解説」で詳しく説明しています。
派遣会社に苦情があったこと、その内容を伝えます。内容によっては、派遣会社側での対応や協力が必要なケースもあるため、速やかに連絡を入れましょう。双方が協力し、遅滞なく問題を解決することが大切です。
連絡先は、営業担当者、派遣元責任者、派遣元苦情受付担当のいずれかがよいでしょう。派遣会社の各担当については、労働者派遣契約書(個別契約)に記載されています。
問題解決への対処法や方針が決定したら、派遣先責任者や派遣会社と相談し、派遣社員にも状況を伝えるようにします。解決までに時間がかかりそうな場合も、適切なフォローアップを行うことは重要です。「放置されている」「何もしてくれない」という印象にならないように注意しましょう。
先にも説明しましたが、派遣社員からの苦情は派遣先管理台帳への記載が義務付けられています。派遣先責任者と相談し、都度記録を残すようにしましょう。
派遣先苦情申出先の担当者が気を付けたいのは、以下の4つです。
順番に解説します。
苦情を理由として、派遣社員を不利益に取り扱うことは派遣法で禁止されています。
対応が派遣社員の不利益とならないかを確認しつつ、関係者にも同様の認識をもってもらうようにしましょう。
派遣社員は、雇用主とは別の企業で働くという不安定な立場にあります。苦情を伝えに来た際、多くの派遣社員は不安を持っているものです。まずは、派遣社員の話を否定せずに聞き入れ、状況の把握に努めましょう。
特にハラスメントの問題は、精神的に痛手を抱えていることが少なくありません。派遣社員の気持ちを尊重し、傾聴の姿勢で苦情の聞き取りを行います。
苦情の内容は、派遣社員を含む関係者の個人情報や企業情報など、プライバシーに関わる情報が含まれることがあります。苦情申出先の担当者は、このような情報を適切に管理し、漏洩しないように注意することが必要です。
解決のために関係者と連携は必要ですが、情報の取り扱いや情報提供する範囲は慎重に検討しましょう。
苦情を受け付けたら終わりとせずに、派遣先責任者や派遣会社と相談して決めた処置やいつまでに解決するのかなど、解決に向けて動いていることを伝えていきます。
また、苦情の解決後もフォローアップを行うことが望まれます。問題が再発しないか、苦情申し出者の状況を確認することで、再発防止策の検討や改善点の把握につながります。
人材派遣サービスを利用する場合、派遣社員を受け入れる企業にも講ずべき処置が法律により定められています。それは、雇用先とは違う環境で働く派遣社員が不利益を被らないよう、就業の安全を考えて設置されているものです。派遣先苦情申出先の担当者は、客観的な立場で問題解決を行う、大切な役割を担っています。
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