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採用活動において「求めているような人の応募が来ない」「面接官の選考基準が揃わず採用につながらない」というような課題がよく聞かれます。そのような場合には、採用のペルソナ設計に取り組んでみてはいかがでしょうか。
本記事では「採用のペルソナ」について、設計方法を含めて解説します。
ペルソナとは、よくマーケティングで利用される概念で、商品やサービスを届けたい相手を具体的に設定することで、ニーズや動機、期待などを深く理解しやすくする手法です。
理解を深めることで、「どんなメッセージに反応があるのか」「どんな媒体をよくみているのか」「いつ、どんなデバイスで情報収集をするのか」などを想定することができ、ターゲット層に対してより効果的な販売戦略を立てるために使われます。
「採用ペルソナ」とは採用したい人材の典型的な人物像のことを指し、自社が採用したい人材を具体的な人物像に作り上げていくことを、「採用のペルソナ設計」と呼びます。
採用の現場では「採用ターゲット」という言葉が使われることが多いですが、ペルソナとターゲットには違いがあります。ターゲットは採用したい対象の人材層を表しますが、ペルソナは採用したい人材の具体的な性質を細かく作り込んでいきます。
例えば、ターゲットであれば「20代、法人営業経験3年以上、コミュニケーション力の高い人」のように設定します。
一方でペルソナは「28歳、男性、独身、都内在住、メーカーでの法人営業5年、年収500万円、趣味はマラソンなど」のように、物語のキャラクターを設定するようにパーソナリティを作り上げます。
採用においてペルソナ設計が必要な理由は、採用手法や市況、仕事に対する考え方の変化が背景にあります。
例えば、中途採用の場合、ひと昔前までは多くの選考者を集め、その中から自社に合う人を選ぶといった「頭数を揃える」採用手法が一般的でしたが、近年は事業計画に基づいた「人員補強」のために必要なポジションごとに候補者を見つける手法に変化しました。
新卒採用の場合は、情報を得る手段や目にする情報量が昔とは比べ物にならないほど多様化しており、有名なナビやホームページにだけ新卒採用情報を掲載さえすれば、優秀な人材が獲得できる状況ではなくなってきています。
採用ペルソナとして理想の人物像を細かく作り上げることで、ポジションや年代ごとに適切なアプローチを行え、質の高い母集団を形成することができ、また面接官の間での見極めも揃いやすくなります。
採用ペルソナを設計することでどんなメリットがあるのか解説します。
ペルソナは設計することが目的ではなく、ペルソナをいかに採用活動に反映していくかが重要です。
特定の人物像をもとにすれば、その人物がどのような採用応募ツールを使い、どのように転職活動を行うのかが浮かび上がってくるでしょう。
よって、求める人材に対してどのような採用ツールやアプローチで働きかければいいのかがはっきりし、的確な採用活動を実施しやすくなるのです。
幅広い層の候補者を対象に画一的な言葉でアピールする求人内容では、汎用性はあっても求める人材からの反響は期待できません。ポジションごとにアピールする部分も違えば、ペルソナごとに魅力的に感じるポイントも異なります。
求める人材に魅力的に感じてもらうために、どのようなアピールポイントを押し出せばいいのかを洗い出し、具体性のある求人票や求人原稿、スカウト文を作り上げていきましょう。
採用ペルソナを設計することで、求める経験はもとより、人物イメージまで明確になり、従来は感覚で判断していた選考基準や重視するポイントを具体的に言語化できるようになります。
例えば、現場や人事は評価しているのに、役員面接に進むと通過率が低いという事象が起きることがあります。これは、採用したい人物像に面接官によってズレがあり、選考基準や重視するポイントの違いが出てしまった結果によるものでしょう。このような事象を防ぐためにも、採用ペルソナを面接官が共有することが有効です。
具体的なペルソナの設計方法を、その構成要素とともに解説します。
まず、どういう目的の採用を行い、どのような役割を担うポジションが必要なのかを明確にします。
例えば「●●事業の新規立上げにおいて、現時点の課題である▲▲を解決させ、この事業を加速させるミッションを担うポジション」というところまで明確にしておくとよいでしょう。
これは経営視点からだけではなく、現場の状況や視点を踏まえて具体化していかなければなりません。
求める要件を洗い出す際には、次の観点ごとに考えていくとよいでしょう。
次に、上記で挙げた要件を「MUST(必須)要件」「WANT(歓迎)要件」「NEGATIVE(不要)要件」に分け、優先順位を付けます。
まずは、人事担当者で「仮の採用ペルソナ」を設定します。洗い出した要件をもとに、具体的な人物像に落とし込んでみてください。
その人材はどこに住んでいて、どのような年齢や学歴なのか、年収はいくらくらいなのか。また、どのような企業に在籍していて、どんな仕事をしているか、これまでどのような経験を積んできたのか。なぜ転職したいのか、どのような悩みを持っているのか、好きなことや趣味は何か、などまで具体化します。
採用ペルソナ設計における項目は、次の章で具体的に解説します。
できあがった仮の採用ペルソナが、経営層や現場が求める人材のイメージに合うか、実態に即しているかを確かめていきます。
経営層や現場とイメージをすりあわせていくことで、互いの採用の目線が揃い、採用基準のズレを埋めることにつながります。十分に意見を出し合い、議論して進める必要があります。
ペルソナ設計に採用担当者だけ、または一人で取り組むと、無意識にバイアスがかかってしまう可能性があるため、できれば複数人で意見を出し合うようにしましょう。
現場の状況とかけ離れた採用ペルソナを設定してしまうと、リアリティショックが起き、早期離職に繋がりかねません。
ペルソナは自社が採用したい人物像であり、いわゆる理想の一人をイメージしたものですが、その人物に近い人材が転職市場にいないこともあります。この場合は、求人募集に落とし込む際に求める要件の優先順位をもとに、ペルソナを見直していく必要があります。
経営層や現場とすり合わせをした上で決定した採用ペルソナが転職・新卒市場や求職者の傾向・特徴と乖離がないかを確認します。
例えば、業界経験者の優先順位を高くしていた場合、転職市場で同業他社経験がある求職者が少ないと思われるときは、優先順位を下げるなどの第三者視点でのチェックが必要です。
ペルソナ設計に一人で取り組むと、無意識にバイアスがかかってしまう可能性があるため、できれば複数人で意見を出し合い、経営層や現場へのヒアリングを行いながら進めるとよいでしょう。
採用ペルソナを設計するときの項目を3つに分類してみます。
社会的な特徴としては、以下のような項目が考えられます。
など
パーソナリティの部分にあたります。
など
上で経験・実績を想定しておくとペルソナをイメージしやすくなります。
など
名前:〇〇 〇〇
年齢:29歳
性別:男性
学歴:〇〇大学 経済学部 経済学科
住居:東京都中野区(一人暮らし)
趣味:フットサル、スポーツ観戦、英会話
性格:
学生時代のスポーツで培った忍耐力と負けず嫌いな性格。フットワークは軽く、営業時のクレームもお客様のところに足を運び関係を構築してきた。
資格:TOEIC 640点
年収:600万円
仕事内容:
社員数50名規模の電子部品の専門商社での法人営業
ルート営業で既存顧客への深堀がメイン
1年前よりリーダーとしてチームメンバーの育成にも携わる
現職での悩み:
新卒で入社した会社で7年目に入り仕事は一通りこなせる半面成長がない
年功序列の風土の強い会社で課長になるには早くてあと5年はかかる
大学時代の友人と先日会った際にスタートアップ企業で役員として活躍している話を聞き自分のキャリアに焦りを感じ始めた
転職で大事にしたい軸:
成長できる環境(実力主義で評価がされる、成長意欲の高い社員がいる)
提案型営業(有形の商材を扱う企業でより提案要素の高い営業職)
英語力を伸ばしたい(趣味の英会話を実務で磨きたい)
ペルソナは設計して終わりではなく、それをどう生かしていくかが重要です。本章では、設計した採用ペルソナを中途採用に活かすためのポイントを解説します。
ペルソナを設計しても、実際に現場で活躍する人材とかけ離れていたら意味がありません。そのため設計する際には、配属先の上長や現場で働くメンバーへのヒアリングは重要です。
また、適性検査などを用いて、実際に活躍している人材がどのような要素を持っているのかを調査する、直近の入社者の傾向(属性、経験、スキル、人物タイプなど)を分析し客観的なデータにするなどして、ペルソナ設計に入るという手段もあります。
ペルソナができあがったら、その人材にどんな採用媒体を活用しどのようにアプローチするのか、どのように魅力をアピールしていくのかなど、採用方法を設計します。
採用ペルソナを活用できる場面の一例をあげてみます。
例えば、先述のペルソナ例のとおり20代後半、専門商社の法人営業経験で、「提案型営業」「成長」「実力主義」などをペルソナのキーワードに設定した場合、下記のような採用方法を具体的に落とし込んでいきます。
活用媒体
20代~30代前半までの若手層が多く登録している転職サイト、メーカーや商社などに強い人材紹介会社を選定
アプローチのポイント
提案営業の内容や提案事例、社内の評価制度や入社後のキャリアステップ、中途入社者の経歴や活躍の現状などをアピール
また、選考においても、ペルソナに近い人物かどうかを見極めるために選考基準や質問内容まで詳しく設計する場合もあります。
ペルソナは作りあげたら変えてはいけないものではありません。あくまでその時点での求める人物像であり、それを社内の採用関係メンバーで共有できていることと、そのペルソナを採用するための適切な採用手法がとれていることが重要なのです。
採用ペルソナを設計した上で、母集団形成や評価基準を決めたが、「応募者が少ない」「通過率が悪い」「辞退者が想定より多い」などの問題が起きた場合は採用ペルソナを見直し、母集団形成方法や評価基準も改めましょう。
ペルソナを細かく設定しすぎている可能性もあれば、不明瞭な人物像となってしまっていることも考えられます。
採用ペルソナの設計が必要になった背景には、採用活動において「広く告知し応募を待つ」という時代から、求める人材にアプローチしていくという「攻めの採用」の時代に変化してきたことがあります。
採用においても、マーケティングの観点からの分析やアプローチが広がってきています。このような難易度の高い採用市場の中でも理想の人材を獲得するために、採用ペルソナの設計を検討してみてはいかがでしょうか。
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