
目次
求める人物像を設定し、複数の面接選考を経て迎え入れた中途採用者にもかかわらず、配属された現場から「期待外れ」という声が聞こえてきた、このような経験をしたことがある方もいるのではないでしょうか。
この記事では、中途採用者が入社後に期待されていたパフォーマンスを発揮できない理由や、マイナスのギャップを生じさせないための工夫について解説します。
中途採用における「期待外れ」が発生する理由について、採用する企業側から見た課題および社会的な背景について解説します。
中途採用では前職での経験と発揮してきた能力、そこで得たスキルや知見、新しい職場に何を求めるか、意欲といった評価ポイントを総合して「自社の業務で活躍してくれるイメージ」をもって迎え入れます。
しかし、これらの選考時のイメージと入社後のパフォーマンスに大きなギャップが生じると「期待外れ」という評価につながってしまいます。
具体例として次のようなことが挙げられます。
「昔は良い人が採用できていたのに、最近入社してくる人はうまく職場にとけこめない人が増えた気がする」このような声は、企業規模や業種、職種問わずここ数年増えてきています。
求人倍率が上がり、人材の確保が困難になっている状況で採用要件を下げざるを得ない影響で 、経歴や資格などの「マスト」条件以外のマッチングを後回しにせざるをえない、そもそも「マスト」条件を下げざるをえないと言ったことが重なり、 ミスマッチを引き起こす原因となっています。
中途採用の「期待外れ」問題をそのまま放置してしまった場合、4つのリスクが起こり得ます。
依頼予定だった業務を任せられないことで、仕事の負荷が偏り、忙しさが解消されず、現場の雰囲気が悪化する恐れがあります。その結果、士気の低下により業績やチームのパフォーマンスが悪化する可能性があります。
採用や教育にかけたコストが回収されないだけでなく、パフォーマンス不足をカバーする工数や代替の人員手配などのコストが余計に必要になります。
パフォーマンス不足の従業員に対する何かしらの施策を行わない場合、中途採用者本人はもちろん、影響を受けた周囲からも退職者が出てしまいます。
対外的な業務を担当していた場合、取引先やカスタマーなどからのクレームが増え、会社の評価や信頼性を損なう要因となることも懸念されます。口コミによる評判の低下が広がり、サービスや商品が継続的に利用されなくなる可能性もでてきます。
入社後、期待に応えられていないと感じる状況は、入社した中途採用者本人にとっても良いことではありません。なぜ入社前の採用選考で期待されていたパフォーマンスを発揮できないのか、応募者側からの要因について解説します。
「転職を成功させたい」という気持ちが先走ってしまったあまり、自分自身をよりよく見せようとして自分の実績や仕事への関わりについて誇張した表現をとってしまうことがあります。
マンパワーグループが行った入社前後のギャップに関する調査でも、自己アピールの際に「面接で期待させてしまった」という求職者からの回答が見られました。
一例
中途採用において、スキルや経験が十分であっても、社風に合わないことで採用が失敗に終わるケースは少なくありません。特に、企業文化や価値観が候補者の働き方やコミュニケーションスタイルと大きく異なる場合、入社後に双方で違和感を覚え、結果的に離職につながるリスクがあります。
一例
自由度の高い企業で自主性を重んじている環境を提供しているのに対し、候補者が指示を待つタイプだった。
どうしていいかわからず、ストレスを覚え、パフォーマンスが発揮できない。また既存のメンバーも自主的に動けない新入社員に不満を持つようになり、チームの雰囲気が悪化。
このような失敗をした企業の中には、スキルや経験よりも価値観や人柄を重視した採用を行うケースもあるほどです。特に小さい組織の場合、人間関係の軋轢が業務に与える影響は少なくありません。
採用が厳しく、スキルや経験を有する応募者を採用したい気持ちは理解できますが、長い目で見た場合、早期離職や現場の混乱をかえって招くこともあるのです。
「ギャップ」を生じさせる原因は、応募者だけに限りません。企業の採用活動や現場体制にも問題が隠れている場合があります。
例えば、求人広告で「かんたんな業務です!未経験者応募可能!丁寧に時間をかけて進め方をレクチャーします」とPRし、候補者に安心感を与えたにもかかわらず、実際には教育体制が整っておらず、本人任せの対応になっているケースです。
その結果、中途採用された従業員は与えられた役割をこなすことができず、成果を出すことができません。また、「聞いていた話と違う」「求められるレベルが高すぎる」と感じ、早期離職につながるリスクが高まります。
さらに、採用担当者と現場が求めるスキルや役割の認識にギャップがあることも問題の一因です。このようなすれ違いが、候補者への過剰な期待を生むだけでなく、現場の負担増や混乱につながる可能性があります。
「期待外れで、このままでは業務を任せることができない」という状況に至ってしまった場合でも、試用期間中に解雇できる条件は非常に厳しく、「期待外れ」という理由だけでは雇用契約を解除することは難しいでしょう。
残念ながら「期待外れ」が起こってしまった場合の対策方法について解説します。
「採用した方が期待外れだという声が現場から挙がっている」という問題が発生した場合、まずは「期待外れ」という抽象的な表現ではなく、その中途採用者のパフォーマンス、業務達成度、取り組み姿勢、入社後のレクチャー内容などを細分化して評価し、何が不足しているのかを特定します。
この時、できるだけ多くのメンバーから個別に意見を集めましょう。場合によっては、直接の管理者や一部のメンバーとの相性が悪い、管理者側のコミュニケーションに問題があるなど、中途採用者側だけの問題ではない場合があるためです。
不足している原因が知識・経験・スキルといった「身に付けることができるもの」である場合、できるだけ速やかに研修・トレーニングの実施を検討してください。
「経験者だと思って採用したから、トレーニングはする必要がない。自力で身に付けるべき」「しばらく経験すればそのうちできるようになるだろう」と放置しないよう、中途採用者、現場の責任者、人事採用担当者の三者でトレーニングの進捗管理を行います。
「期待外れ」の要因が遅刻やメンバーとのコミュニケーション拒絶など、マインドの方向にある場合は、現場のメンバーや上司に任せたまま改善を図ることは難しいかもしれません。
マインドセット研修など、外部研修を利用することも併せて提案した上で、改善を促しましょう。
「期待外れ」を改善するには、会社側が「期待していること」と「現時点で期待値に足りない部分」を中途採用者に伝える必要があります。
この時導入したいマネジメント手法に、ネガティブフィードバックがあります。
ネガティブフィードバックとは、良くなかった点を客観的・具体的に伝え、相手の主観による思い込みや誤った行動を改善する方向のフィードバックを言います。
いわゆる「褒めて伸ばす:ポジティブフィードバック」とは逆方向のアプローチであり、ハラスメントと受け取られないよう場所やタイミング、言い方などに配慮が必要なため、難しさを感じるかもしれません。しかし、マイナスの状況を改善するためにはお互いが事実をきちんと把握することが不可欠です。
ネガティブフィードバックの詳しい手順について知りたい方は、「失敗しないネガティブフィードバックとは?伝え方で部下は変わる」をご覧ください。
ネガティブフィードバックで事実を客観的に伝えるのと同時に、中途採用者の立場に立って職場に馴染めるようサポートする存在、メンター制度も検討してみてはいかがでしょうか。
メンター制度とは、「経験豊かな先輩社員」であるメンターが後輩(今回は中途採用者)であるメンティーとペアを組み、直接の上司や部署の先輩とは違った立場からいわば「ロールモデル」としてさまざまな相談にのるという仕組みです。
同じように中途採用者として入社した社員や、同じようにかつて「期待外れ」の時期があった社員など、中途採用者の気持ちに寄り添える人選がポイントです。
メンター制度についてメリットやデメリットをさらに詳しく知りたい方は、「 メンターとは?制度を導入するメリットや成功に導くポイントを紹介」をご覧ください。
前述の指導を行ったうえで、役割が適切でないと判断される場合には、他の業務やポジションへの再配置を検討するのもよいでしょう。
例えば、営業職として採用されたものの成果が思うように出せない場合、バックオフィス業務やサポート業務など、別のポジションに配置転換することで、その人の能力や適性を活かせる可能性があります。
また、役割を適切に再設定し、企業側が期待する内容を現実的な範囲に見直すことも重要です。達成可能な目標を設定することで、本人が成果を出しやすい環境を整えます。成功体験を積み重ねることで自己肯定感を高め、結果として成長を促進する効果が期待できます。
そもそも中途採用で「期待外れ」が起こらないように、選考の段階で対処するべき対策、また入社直後に導入することで効果的な対策についても解説します。
「期待外れの中途採用」を起こさないための最初の取り組みとして、部署や担当ごとにばらばらだった採用基準を明確化し、会社として最低限チェックすること、部署ごとにどのようなスキルや知識、能力が必要かを明確にするところから始めましょう。
チェック
中途採用の場合、面接から合否までを配属予定部署の上長、もしくは担当役員に一任していて採用基準の明確化・明文化は行っていないというケースも多いのではないでしょうか。
業務に必要なスキルや経験以上に「性格」や「キャラクター」といった曖昧な基準を設けていないか、過去の採用を振り返ることも大切です。なお、求人広告では「明るい性格の方」といった記載自体がNGです。
性格とは先天的なものであり、採用基準としては後天的に身に着けた職業的な能力で選考することが望ましいからです。例えば「能動的なコミュニケーションが取れる方」といった言い方ができます。
面接官が変わっても一貫性を保ちながら候補者を適正に評価できるように、明確で具体的な評価基準を用意することが重要です。
例えば、スキルについては業務に直結する技術や知識を明確に数値化したり、事前に用意した課題を通じて具体的な能力を測定する方法を取り入れると良いでしょう。
また、価値観や人柄に関しては、行動面接(Behavioral Interview)を活用し、過去の経験やエピソードをもとに候補者の思考や行動パターンを確認することが効果的です。
求人倍率が高止まりし、以前と比べて応募者の数やスキル・経験の幅が縮小してしまったため、求人要件を下げざるを得ない場合、現場の受け入れギャップは大きいものとなります。
求人要件を下げる場合は、まず受け入れ部門との合意が大前提です。このステップを省略した場合、返って現場に混乱が生じます。よくあるトラブルとして、人事と現場のマネージャーは要件緩和を合意したものの、メンバーには伝わっておらず、入社後にハレーションが起きてしまう、ことがあります。関係者にも話しておく方が、早期退職を防ぐポイントです。
そのうえで、人事採用部門での入職研修の実施、期間の延長、外部の研修サービスを活用するなどして、スキルギャップを埋める取り組みを策定しましょう。
採用基準を明確化したら、採用プロセスも基準に見合ったものか見直すのがよいでしょう。
適性検査のなかには管理職や営業職など職種・職能ごとに適性を測ることができるもの、組織にどのように適応をするかを測れるものなど、さまざまな種類があります。
また、適性検査の結果から面接時で確認すべき項目、また確認するために必要な質問例を提供するタイプもあります。自社の面接官の面接スキル向上に役立つだけでなく、面接の精度を高める役割も果たすものです。
適性検査について選び方や活用方法を詳しく知りたい方は、「採用で適性検査はどう活用する?種類や目的・業務別の選び方を解説」をご覧ください。
適性検査で成功した事例記事:チーム力を向上させるマネジメント手法とは?
自社に合う人材か、見極めの精度を高めるための面接手法であるコンピテンシー面接を導入することもおすすめです。
コンピテンシー面接とは、社内の優秀な人材に共通する能力・スキルなどの要素を洗い出し、成功モデルが持つ要素や特徴と中途採用者の過去の行動が合致するか、深く聞き出すことで確認する面接手法です。面接官の主観に左右されにくいという特徴があります。
コンピテンシー面接について、実施方法や質問例などを知りたい方は、「【質問例あり】コンピテンシー面接とは|基礎知識とやり方を解説」も参考にしてください。
中途採用者がスムーズに職場に受け入れられるためのサポートとして、会社の文化や業務プロセスに早く慣れるためのサポート体制を構築することも「期待外れ」解消につながります。
すべてOJTで配属先に任せてしまうのではなく、人事が主導して中途採用者向けの育成計画を立て、その必要性を社内に広めるところからはじめましょう。
このような組織順応を促進する取り組みを「オンボーディング」と言います。オンボーディングについては、「オンボーディングとは?効果と導入の5ステップについてわかりやすく解説」をご参照ください。
「期待していたパフォーマンスを発揮してもらえない」という声が上がる場合、面接で候補者に期待値を十分に伝えられず、見極められなかったことが原因として考えられます。
「何を期待しているか」を具体的に共有することは、こうした認識の違いを埋め、期待外れの採用を防ぐために非常に重要です。
4つの期待値のズレについて具体例を交えて解説します。
あいまいな業務説明では、候補者が「自分に合ったポジションなのか」を正しく判断できず、入社後のミスマッチにつながります。
営業職を例にします。
期待値を伝える質問や説明
「営業は、毎月10件以上の新規顧客を獲得することを目標にしています。積極的に訪問や電話営業を行うことになりますが、抵抗はありますか?もしくは、そのような経験はありますか?」
「顧客対応ではスケジュール調整が頻繁で、迅速で臨機応変な対応が求められます。」
避けたい曖昧な説明
「営業活動をしてもらいます」「お客様対応が中心です」
必要なレベルや具体的なスキルを明示しないと、候補者の期待と実力が合わない可能性があります。
エンジニアを例にあげます。
期待値を伝える質問や説明
「このポジションでは、システムの保守だけでなく、新規開発プロジェクトに参加していただきます。その際、JavaやPythonの実務経験が2年以上あることが理想です。」
「協力会社や他のエンジニアとの協力しながら進めるプロジェクトで、そのリーダー職を担ってもらいたいと考えています。」
避けたい曖昧な説明
「プログラムができればOKです」「経験があれば助かります」
どんな能力が必要な仕事なのか、業務上の特性なども伝えておくことで、入社後のギャップを抑えることができます。
事務職を例にします。
期待値を伝える質問や説明
「ミスが大きなインシデントにつながりやすいので、スピードよりも正確性が求められる業務です。」
「月末月初には経理処理が集中し、残業が発生することがありますが問題ありませんか?」
避けたい曖昧な説明
「データ入力がメインの仕事です」「繁忙期は少し忙しいです」
業務に必要な能力があっても、協力的に仕事を進められない、社内文化の拒絶などが起きてしまうと、組織としてのパフォーマンスが低下することがあります。
ベンチャー企業を例に挙げます。
期待値を伝える質問や説明
「少人数のチームで運営しているため、1人で幅広い業務を担うことになります。特にスピード感と自己解決力が求められる環境ですが、問題ありませんか?」
「時には業務範囲外のタスクをお願いすることもありますが、それを楽しめる人が向いています。」
避けたい曖昧な説明
「アットホームな雰囲気です」「幅広い経験が積めます」
将来的に担ってもらいたい業務が明確である場合、しっかり伝えることで期待値を明確にすることができます。
販売職を例にします。
期待値を伝える質問や説明
「販売員をスタートとして、1年以内に店舗の運営管理もお任せしたいと考えています。」
「入社後3か月間は研修がありますが、その後は自主的に学び続けていく必要があります。」
避けたい曖昧な説明
「成長できる環境を用意しています」「キャリアアップのチャンスがあります」
中途採用者のパフォーマンスが期待を下回る要因として、候補者との期待値の違いだけでなく、現場と採用担当者の間での期待値の認識違いも問題です。採用の初期段階から現場と採用担当者が十分に連携を取り、共通理解を持つことが不可欠です。
※採用担当者とは人事だけを指すのではなく、採用を最終的に決定する管理職なども含まれます。
採用担当者が「十分な経験のある人の採用は厳しい。教育や研修を前提に採用してほしい」としているのに、現場が「1週間程度の研修で独り立ちできるだろう」と「経験がある」についての解釈に差がでることがあります。
例
採用担当者の期待:「経験は1年未満だが、研修を通じて成長し、即戦力として活躍してほしい」
現場の期待:「経験があるのだから、1週間程度の研修で早く独り立ちしてほしい」
採用担当者は「求人票に記載された内容」をもとに業務内容を説明しますが、現場ではそれに加え、細かな業務や暗黙のルールが存在することが多く、採用担当者がそれを十分に把握していない場合があります。
例
採用担当者の説明:「事務作業が中心で、データ入力などの簡単な業務です」
現場の実態:「ミスが許されない処理や顧客対応が頻繁に発生する」
採用担当者は「会社全体の基準や理想」で候補者を評価する一方、現場は「チームの即戦力や性格的な適性」を重視することがあります。
例
採用担当者の基準:「経験豊富な人なのでで、これまで当社にはない視点や知見を活かしてほしい」
現場の基準:「業務をしっかり遂行してもらいたい(大きな変化を起こしてほしいと思っていない)」
中途採用で期待外れを防ぐためには、スキルや経験だけでなく、価値観や社風への適応性を正確に見極めることが重要です。しかし、多くの企業では人手や時間が不足し、採用プロセスが十分に整備されていないケースも少なくありません。
また人事担当者や現場担当者が忙しく、要件の再定義する時間が取れない、課題はわかっていても着手できないこともあるでしょう。
こうした課題を解決する方法として、採用代行サービスの活用を検討してみてはいかがでしょうか。採用代行サービスでは、採用の専門家が課題の特定や改善提案を行い、また現場担当者との調整を代行してもらうこともできます。
採用代行サービスについては、「採用代行(RPO)とは?メリット・デメリットと業務例を解説」をご覧ください。また、お役立ち資料として「採用代行とは?」も御用しています。
マンパワーグループの採用代行・コンサルティングサービス
採用代行は、限られた採用担当者で採用活動を効率化し、規模を拡大する際に利用されるサービスです。
「担当者が不足していて手が回らない」
「採用活動が難航しているが、新しい施策に着手できない」
「現場からのプレッシャーが日に日に増している」
こうした悩みは、採用代行サービスを利用することで解決できる可能性があります。マンパワーグループでは、新卒・中途・パート・アルバイトなど、各雇用形態において採用代行・コンサルティングサービスを提供しております。
中途採用における「期待外れ」は受け入れる現場社員にも採用した中途入社社員にもマイナスの影響があります。採用計画から受け入れに至るまで、採用フローのなかでお互いの期待値ギャップを少しでも小さくするための対策を立てましょう。
採用環境によっては、期待値そのものを調整し、中途採用でも「育成する」という視点で受け入れる必要が生じることもあります。最新の採用マーケット情報を収集しながら、継続的に対処に取り組むことが大切です。
こちらの資料もおすすめです