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自社にフィットする人材を採用するためには、「求める人物像」を明確に設定することが不可欠です。
最適な人材像を定めることで、採用活動の軸ができ、入社後のミスマッチも防ぎやすくなります。
とはいえ、「求める人物像をどう設定すればいいのかわからない」「自社に合う人材が集まらない・見極められない」といったお悩みをお持ちの人事担当者は少なくありません。
求める人物像が明確になれば、求職者とのギャップが生まれにくくなり、採用効率の改善や早期離職の防止につながります。結果として、組織力が高まり、企業の成長スピードを加速させることができます。
本記事では、求める人物像が重要な理由から具体的な作り方、設定時の注意点まで実践的なステップとともに解説します。採用活動をより効果的に進めたい方は、ぜひ参考にしてください。

求める人物像とは、企業が成長していくために必要とする人材の素質や要件を具体的に言語化したものです。
求める人物像は、単なるスキルや経験の羅列ではなく、自社の事業戦略や組織文化に基づいて「どのような特性を持つ人材が活躍できるか」を盛り込む必要があります。
たとえば、ソフトバンク株式会社は求める人物像として以下を挙げています。
ソフトバンクの変化を楽しみ、何事もチャンスと捉え挑戦する人
上記の求める人物像から、ソフトバンク株式会社が急速に進化する通信・IT業界において、挑戦を重視する企業文化を大切にしていることがうかがえます。
このように、求める人物像を明確に定義することで、企業と求職者双方の指針となり、採用活動におけるミスマッチを防げるでしょう。

ここでは、求める人物像と類似した用語との違いについて解説します。
採用基準は、選考に参加するための必須条件や最低限のラインを定めたものであり、特定の資格やスキルの有無などが該当します。
選考の初期段階で候補者を絞り込む役割を担い、客観的で明確な基準として活用されるケースが一般的です。
採用基準が「最低限満たすべき条件」であるのに対し、求める人物像は「自社に最もマッチし、入社後に高いパフォーマンスを発揮できる人材の理想像」を示します。
また、採用基準には、評価時にプラス要素となる「歓迎条件」という項目もあります。
一般的に歓迎条件とは、必要ではないが採用基準において評価される、スキルや経験といった追加要素のことです。
こちらも、採用基準の中に含まれるため求める人物像とは異なります。
ペルソナは、採用したい求職者を実在するかのように具体的な経歴、価値観など、詳細に設定した架空の人物モデルです。
求める人物像が「どのような特性を持つ人材か」という要件の集合体であるのに対し、ペルソナは「具体的にどのような人物か」をイメージしやすくしたものです。
たとえば、求める人物像では「チーム志向で協調性が高く、顧客対応経験がある人」と定義します。
一方、ペルソナでは以下のように具体的な人物設定をおこないます。
ペルソナを設定することで、訴求ポイントが明確になり、求職者の共感を得やすくなります。
コンピテンシーモデルとは、社内で高い成果を上げている社員の行動特性の共通項を洗い出し、理想像をモデル化することです。
たとえば、営業職で高い成果を出している社員を分析した結果、「顧客の潜在的な課題を引き出す質問力」が共通している場合は、コンピテンシーモデルとして定義できます。
「求める人物像」が、これから採用したい未来の理想像を描くものであるのに対し、コンピテンシーモデルは、すでに社内に存在する成功事例を基にした実績ベースの基準です。
コンピテンシーモデルを分析し活用することは、「求める人物像」を自社に即した形で設定するための有効な手段となります。

ここでは、採用に求める人物像が必要な理由について4つの観点で解説します。
「求める人物像」を明確に定義することで、採用戦略全体に一貫性が生まれ、活動を効率化させることが可能です。
ターゲットとなる人材がどのような層に属しているのかが明確になるため、どの採用媒体を選び、どのようなメッセージを訴求すべきかという戦略を立てやすくなるためです。
たとえば、求める人物像に「チーム志向で協調性が高い人材」を掲げる場合、 説明会で強調することで、価値観に共感する人材からの応募が期待できます。
結果として、自社にマッチする可能性の高い母集団が形成され、選考プロセスがスムーズに進み、採用の全体的な効率が向上するでしょう。
求める人物像を設定する過程で、経営層が考える事業戦略と、現場が必要とする人材の具体的なスキルや特性について擦り合わせが可能です。
もし、擦り合わせをしていない状態では、社内で以下のような方向性のズレが発生してしまう可能性があります。
| 立場 | 求める人物像 |
| 経営層 | 自ら課題を見つけ行動できる革新的な人材 |
| 現場 | 確立された手順を丁寧に実行できる着実な人材 |
このような認識の違いは、採用が円滑に進まなくなるだけでなく、入社後の評価基準のブレや配属先でのミスマッチを引き起こし、社員の混乱や不満につながります。
求める人物像の策定を通じて社内の意見を擦り合わせることで、採用のミスマッチを防ぎ、入社後のギャップを最小限に抑えられるでしょう。また、社内で擦り合わせておくことで市場との乖離を確認できるため、現場や経営陣が求める人材と自社が提供する給与・待遇のバランスが取れないケースを事前に防げます。
求める人物像を明確に定義して採用活動をおこなうことで、社員の短期離職の防止や定着率の向上が期待できます。
求める人物像を活用することで自社の価値観や社風に合致した人材を採用でき、従業員が入社後に感じるギャップを最小限にできるためです。
また、採用難の時代では、応募者を確保するために採用条件を緩和するケースも発生しており、スキルや経験が現場の期待に及ばないこともあります。
しかし、事前に求める人物像を明確にしておけば、スキルが不足していても、人柄を現場に正しく伝えられ、円滑な受け入れと育成計画につなげられます。
結果としてスキルが不足していても丁寧に育成ができるため、社員の満足度につながり、定着率の向上が実現できるでしょう。
採用ターゲットが明確になることで、より効果的な採用手法にリソースを集中させられ、結果的に採用コスト全体の削減につながります。
たとえば、求める人物像が「若手育成の経験が3年以上あるマネージャー」であれば、新卒向けの求人媒体ではなく、管理職経験者が集まる転職サイトに絞って、効率の良い採用活動が可能です。
また、自社にマッチした人材からの応募が増えることで、採用活動が円滑になり、面接官の工数削減にもつながります。
結果として、採用活動全体の費用対効果を高められるため、コストの削減が可能です。

ここでは、求める人物像の作り方を4つの手順で解説します。
求める人物像を作る際に、今回採用する人材にどのような役割を担ってもらい、具体的にどのような成果を期待するのかを明確に定義します。
役割と成果を考えることで、企業の現在の課題や今後のビジョンにあわせた求める人物像を設定でき、効果的な採用活動につなげられます。
定義する際には抽象的な表現ではなく、具体的な役割と数値目標を含めた成果を明確にしましょう。
たとえば、「営業部で新規顧客を年間20社開拓できるポテンシャルを持った人材が2名必要」といったレベルまで具体的に落とし込むことが理想的です。
定義した役割と成果から逆算し、必要な特性をリストアップしましょう。
採用要件を定義するときは、「どの局面で成果を出してほしいのか」を起点に考えると、実務に即した人物像を描けます。
たとえば同じ営業職でも、役割によって求められる特性は以下のように大きく異なります。
| 役割 | 成果 | 特性 |
| 新規営業職 | まだ関係性のない顧客にアプローチし、受注へとつなげること |
|
| 既存営業職 (ルートセールス) |
既存顧客との信頼関係を深め、契約継続やアップセルを促すこと |
|
特性を洗い出す際は、経営層や人事部だけでなく、配属予定部署のマネージャーや現場の第一線で活躍する社員からヒアリングをおこない、リアルな意見を収集することが重要です。
続いては、リストアップした多数の特性に優先順位をつけ、採用において特に重視する項目を具体的に絞り込みましょう。
その際、特性を「MUST(必須条件)」「WANT(歓迎条件)」「NEGATIVE(求める人物ではない条件)」の3つに分類すると、選考基準がより明確になります。
3つに分類する際は、数値を用いて特性を具体化することで、面接官による評価のばらつきを防ぎ、一貫性のある選考を実現できます。
| 分類 | OKな具体例 | NGな抽象例 |
| MUST | 法人向けの新規開拓営業の経験が3年以上ある | 営業に関する何らかの経験があると望ましい |
| WANT | 5名程度のチームマネジメント経験 | リーダーシップがあるといい |
| NEGATIVE | 他責傾向が強く、失敗を自分事として捉えられない | 協調性に欠ける人 |
また、設定した条件が市場の動向や給与水準と乖離していないかを確認し、現実的に採用可能な人物像にしましょう。
最終的に完成した「求める人物像」を、経営層や人事部、配属予定部署の現場社員など、採用活動に関わる関係者に共有します。
社内での共有プロセスを怠ると、作り上げた人物像が形骸化し、選考の各段階で評価基準にズレが生じてしまう原因となるためです。
共有会などを実施し、なぜこの人物像を設定したのかという背景や意図まで含めて丁寧に説明することで、関係者全員が同じ方向を向いて採用活動に臨めるでしょう。

ここでは、求める人物像を作成する際の注意点を5つ解説します。
求める人物像を作成する際は、人事部の意見だけで進めないよう注意しましょう。
採用は全社的な活動であり、入社した人材はさまざまな部署のメンバーと関わりながら成長していくため、多角的な視点を取り入れることが必要です。
経営層からは事業戦略や将来のビジョン、配属予定部署からは実務に必要なスキルや日々の業務で求められる特性など、多様な視点を集約することで、バランスの取れた人物像が完成します。
特定の視点に偏ってしまうと、結果的に採用のミスマッチや早期離職につながるリスクを高めてしまうため、人事部だけでなく社内全体の意見を取り入れましょう。
求める人物像が抽象的になりすぎていないか注意しましょう。
もし、応募者を増やす目的で抽象的にしすぎると、本来求める人物に当てはまらない人まで応募してしまう可能性があるためです。
抽象的な例として「やる気がある人」「素直な人」といった表現があります。このような場合、人によって解釈が異なるため、本来ターゲットとしたい層に自分のことだと感じてもらえず、応募を躊躇させてしまう可能性があるでしょう。
「チームで協力し、顧客の課題解決に真摯に向き合える人」のように、具体的な行動や姿勢を示す言葉で定義することで、求める人材に的確にメッセージを届けられます。
理想を追求するあまり、求める条件を過度に厳しく設定しすぎると、該当する候補者が少なくなり、母集団形成が困難になる恐れがあります。
洗い出した要件には必ず優先順位をつけ、「これだけは譲れない必須条件(MUST)」と「持っていればなお良い歓迎条件(WANT)」に明確に分けることが重要です。
また、「いずれかの条件に該当する方はご応募ください」といった形で複数の選択肢を提示し、間口を広げる工夫も、優秀な人材と出会う機会を増やす上で有効な手段となるでしょう。
他社の成功事例や一般的なテンプレートをそのまま模倣するのではなく、必ず自社の企業理念や事業戦略、社風にあわせた人物像を設定することが重要です。
企業が置かれている事業フェーズや組織文化によって、必要とされる人材のタイプは異なるためです。もし、他社の条件を模倣してしまい、自社にあわない状態になっていると入社後のギャップにつながり短期離職につながる恐れがあります。
たとえば、急成長中のスタートアップ企業であれば変化に対応できる柔軟性や自走力が求められる一方、安定期の企業では既存の仕組みを維持・改善できる着実性が重視されるため状況にあった条件を見つけましょう。
スキルや経験といった条件だけでなく、自社の文化や価値観、働きがいといった「社風」に候補者が合うことも重要な選考基準です。
社内の雰囲気を伝えきれていないと、入社後のミスマッチにつながり、早期離職の大きな原因となる可能性があるためです。
実際に、マンパワーグループが2020年に実施した調査では、入社後にギャップを感じた経験がある人は約半数にのぼり、その中で「社風や風土」について入社前にさらに詳しく聞いておけばよかった、と後悔している人が28%もいることがわかっています。
入社後のギャップが大きいと満足度や定着率に影響するため、事前に社内の雰囲気や価値観を十分に伝えましょう。
参考:入社前の期待と入社後の現実に、5割以上が「ギャップ」を実感。入社前に聞いておけばよかった!と思ったこととは? | 人材派遣・人材紹介のマンパワーグループ
採用活動において、関係者の認識の相違は採用の遅れや無駄なコストの発生につながります。
このチェックシートは「求める要件・人物像」を具体的にし、関係者の認識を合わせるためのツールです。
ミスマッチ防止にぜひご活用ください。
求める人物像は、採用の成功を左右する重要な要素です。
単なるスキルや経験の羅列ではなく、自社の事業戦略、組織文化、配属部署の特性を踏まえて、具体的かつ現実的な人物像を設計することが求められます。
明確化された人物像を社内で共有し、採用活動全体の軸とすることで、効果的で一貫性のある人材獲得が可能になるでしょう。
本記事で解説した手順と注意点を参考に、自社にとって最適な人物像を設計し、採用活動の成功につなげてください。
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