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これまで採用は主に人事の職務とされており、他の部門は求める人物要件に対するリクエストや面接への立ち合いは実施しても、採用活動自体に深くは干渉しないのが一般的でした。しかし昨今では、採用活動に経営陣がコミットし、現場の社員を巻き込んで取り組む企業も増えてきています。
これを「スクラム採用」といい、今注目されている採用手法のひとつです。本記事では、スクラム採用とはどのような手法なのか、なぜ今スクラム採用が必要とされるのかなどを解説します。
スクラム採用という言葉は、採用管理プラットフォームを運営する株式会社HERPが提唱した手法で、「採用担当だけではなく、現場の社員が積極的に採用に参画することで採用成果の創出を狙う採用手法」を指しています。
引用:【Scrum Recruiting Workshop レポート】明日からの採用活動に活かせるスクラム採用の実践方法とは|株式会社HERP
スクラム採用の「スクラム」とは、ソフトウェアの開発スタイルである「スクラム開発」に由来します。スクラム開発とは、少人数のチームで役割やタスクを分散し、コミュニケーションを重視しながら複雑な課題に取り組む手法です。
転じて「スクラム採用」は、採用目標の達成のために現場に裁量権を与え、課題に柔軟に対応していくことや、現場を含む社員が一丸となって採用活動に取り組むことを意味しています。
「リファラル採用」も、昨今話題の採用方法のひとつです。
リファラル採用とは社員紹介採用を意味しており、自社の社員から友人・知人を紹介してもらい、採用につなげる手法です。
かつては自社の特定のルートからの紹介で採用する「縁故採用」というものがありましたが、リファラル採用は在籍社員から広く紹介を募る手法という特徴があります。
リファラル採用も、採用活動に社員を巻き込んで行うスタイルなのでスクラム採用の手法のひとつと位置付けられます。
スクラム採用が注目されている背景は、人材難から優秀な人材の確保の難易度が上がっていることにあります。以下にさらに詳しく説明します。
以前であれば、求人広告に掲載すれば人材を採用できましたが、現在は求職者が求人情報を得る方法が多様化し、また個人の価値観が多様化したことで転職活動の方法(活用するツールや活用の仕方)も選択肢が増えました。それに伴い、企業側にも多様な採用手法が求められるようになっています。
エンジニアなど専門性の高い職種は、人事だけで採用を成功させるのは難しくなりつつあります。
総合職採用と同じ採用方法を専門職採用でも行っていると、チャネルの選択や訴求ポイントがずれてしまい母集団形成がうまくできない、人材要件の設定が配属部門とはマッチしていなかった、人事担当者だけではスキルの見極めが困難などの問題が生じます。
ジョブ型雇用も注目が集まり、専門性の高い人材を採用する場面はより一層増えていくでしょう。ミスマッチを起こさないためにも現場を巻き込みながら採用活動を行う必要が出てきたのです。
転職に対する意識は変化していて、一社で勤め上げるといった価値観は薄れつつあります。転職へのハードルは下がり、自己実現やよりよい環境を得るために転職を考え情報収集をすることは珍しいことではありません。
そのため、求職者は、仕事内容だけではなく社風や組織風土、働く社員はどんな人なのかなど、さまざま情報から総合的に判断します。
見られているのは、企業規模や業績などのいわゆる「基本情報」だけではなく、自分が活躍できる環境なのかどうかなど「現場の生の情報」なども求められるようになってきたのです。
実際にスクラム採用を取り入れる主なメリットを5つ紹介します。
エンジニアやPMなど高度なスキルが必要な人材を採用する場合、もとより希少性から獲得のための競争率が高い上に、採用活動を行う人事担当者にも専門知識が求められ、担当者に大きな負荷がかかりやすくなってしまいます。
専門的な知識を持つ現場の人材が採用活動に参画すれば、スキルセットをはじめとした要件設定にまつわる人事の業務負担が減ります。
また、「業務内容を伝える」ということだけでも、人事が現場からヒアリングした情報を間接的に伝えるより、現場の社員が生の情報を伝えることでより仕事の魅力が伝わり、候補者の関心を高めやすくなります。
欲しい人材を採用するには苦労をいとわない企業が増えてきたからこそ、全社を巻き込み知恵を結集させて採用活動にのぞむことが、採用成功への重要な要素と言えます。
採用チャネルが多様化する中では、複数のルートから応募者を獲得できるよう対応する必要があります。
求人広告や人材紹介の活用以外にも、社員のネットワークや口コミ・SNSなどを活用し、転職市場に出てこない層へのアプローチも積極的に検討しましょう。幅広い採用ルートを持つことで、優秀な人材に出会える可能性が高まります。
現場が採用に関する責任をもつことで、採用後の人材育成に対する意識向上にもつながります。それまでは「人事が採用したのだから......」と他人事だった現場でも、「採用に関わった以上、活躍できる人材に育成しなければ」という意識につながるでしょう。
採用にかかわるには、社員自身が自社の理念やビジョンを理解して魅力を見出し、応募者を口説かなければいけません。これは自社の良い部分も悪い部分も客観的に考える機会になります。そして、これから会社をともに作っていくメンバーの採用にかかわることで、「一緒に会社を作り上げる」意識が芽生え、組織へのエンゲージメントが高まります。
現場の社員が採用に関わることにより、現場が必要としている人材のニーズをすばやく汲み上げ、採用活動に反映させることができます。また、選考フェーズで現場の生の声を応募者に伝えることは、入社後のミスマッチを減らすことにもなります。
マンパワーグループが2020年に行ったアンケート調査では、採用面接時や入社前に、もっと詳しく聞いておけばよかったと思うことのトップは「仕事内容」(45.0%)で、「社風や風土」(28.0%)、「働いている人の共通点」(19.8%)が続いています。
一方で、スクラム採用を取り入れることで次のようなデメリットが発生する恐れもあります。
現場の社員は、通常の業務に加えて採用の業務が加わるため、業務負担が増えることは一番わかりやすいデメリットです。
現場から不満の声が上がる恐れもありますし、場合によっては本来の業務がおろそかになったり、遅れたりするリスクもあります。スクラム採用の導入と同時に、現場の工数管理やマネジメントが必要です。
人事以外の複数の部門・複数の社員が採用に関する情報を扱うことで、情報が分散しやすくなるため、情報を一元化して管理する必要があります。
また、個人情報を扱うため取り扱いルールやセキュリティ強化なども求められます。そのため管理ツールの導入、情報管理の仕組みの整備、採用に関わるコンプライアンス研修の実施などが必要になるため、一定の管理コストの発生が想定されます。
スクラム採用で重要なのは、採用の役割やタスクを複数人で分担することです。どこまで現場に役割を担ってもらうかを明確にし、どれぐらいの負担になるかを算出して、さらに、ゴールをどこに設定するのか、採用ミッションを評価に組み込むのか、など多くのことを事前に計画しておかなければなりません。
実際に採用活動がスタートしても現場任せにせず、人事がプロジェクトマネージャーとして採用プロジェクトを管理する必要があります。
全社員を巻き込むといっても、実際に採用活動などまったくしたこともない社員もいれば、会社へのエンゲージメントがそれほど高くない社員もいるでしょう。
スクラム採用の成功に向けて、採用活動に全社員で取り組む意義や、目的、採用目標の共有が重要です。社員の意思統一に加え、採用のスキルやノウハウの浸透が必要になるので、全員がしっかり採用にかかわれるようになるまでには時間がかかります。
スクラム採用を成功させるためには、主に5つのポイントがあります。
「採用=人事の仕事」と考えている社員に対しては、価値観の転換と理解を得ることが必要です。メリットもデメリットもある中で全社員の理解に働きかけるには、経営陣から「会社の方針として採用が重要である、そのため全社をあげて取り組むのだ」という強い意志を表明することが効果的でしょう。
採用にかかわる一連の業務を小人数のチームで回すことができるよう、タスクの割り振りや役割分担を行い、素早くPDCAを回すことでプロジェクトの改善がスムーズになります。
そのためには、現場に裁量を与え現場主導で業務を動かしていくことがポイントです。「やらされ感」で業務を担うのではなく、現場が主体的に取り組むことで、現場にとってもメリットがあると実感してもらいましょう。
現場に裁量は与えつつ、全体を見てマネジメントする役割として人事がプロジェクト管理を行いましょう。人事は各部門・チームの進捗状況を把握し、課題の吸い上げと対応の検討、進捗管理、採用ノウハウの提供など、現場の状況にあわせた対応が求められます。
現場の主体性を引き出すためにも、あらかじめ採用の全体像を示し、目標とゴール、成果の内容まで明らかにしておきましょう。それに沿って、進捗状況の確認や定期的な振り返りを行い、フィードバックをしていくことが重要です。場合によっては、採用プロジェクトでの取り組みを評価項目に組み込むのもよいでしょう。
現場に裁量を与える場合、進捗状況などの情報が人事の手を離れてしまい、現場の限られたメンバーだけが情報を知っている状態でブラックボックス化、あるいはコントロールのきかない状態になってしまう恐れがあります。それを防ぐには、採用プロジェクトの進捗状況や、選考基準・選考結果情報などを可視化し、人事が情報を一元管理する必要があります。
採用活動においては、情報共有のタイムロスによって採用の機会を逃してしまう可能性がありえます。採用プロジェクトにかかわる全員が、リアルタイムに情報を得られる仕組みづくりがポイントです。
例えば、面接前に得た情報、面接時のジャッジポイント・懸念点、面接後に得た情報などを都度メールや紙ベースで共有・保管している企業もありますが、探すにも時間がかかり、共有者の抜け漏れが生じたりします。そのため採用システムなどを導入し、選考者の氏名を入力するだけで応募から内定受諾までのすべての状況と情報を取得できる体制が理想的です。
実際にスクラム採用を導入している企業の事例を紹介します。
リファラルからの採用が採用比率の5割以上を占めるというフリマアプリ運営企業では、会社のバリューを採用活動に落とし込み、経営陣から定期的に採用に関するメッセージを発信しており、スクラム採用の意識が高いことがうかがえます。
社内外交流ができるMeetupを定期的に開催したり、採用につながるような会食には簡単な報告で全額会社負担をしたりと全社で採用に取り組む意識が根付いているといえるでしょう。
ネットショップ作成サービスを提供する企業では、社員数の増加に伴い、採用関係者だけでは多階層にわたる現場のニーズや状況を把握できなくなり、求める人物像にもズレが生じるようになっていました。
採用計画未達の年もでてきた状況を打開するため、採用活動を現場主導にシフトするスクラム採用への取り組みを開始しました。
現場担当者には、面接や面談への参加からスタートし、業務を理解したころに前段階のスカウト送付などの業務にも取り組んでもらうなど、採用業務への理解度に応じた業務移管を行い、採用担当者は、採用方針や企業理念を社員全体に共有・浸透させる施策や現場の採用実務サポート、採用活動全体の管理に注力しています。
スクラム採用に取り組むようになってからは、計画人数の達成だけではなく、入社決定率も向上しています。
スクラム採用は、多様化・困難化した採用市場に対応するための採用手法のひとつです。尚且つ、組織全体の採用力の向上に繋がるほか、既存社員のエンゲージメント向上や入社後のミスマッチの軽減・育成力の向上など、組織にも良い効果をもたらします。
採用を人事だけの仕事にしているのは少しもったいなく感じた方もいるのではないでしょうか。より強固な組織作りを目指し、全社で採用活動に取り組むスクラム採用の導入をぜひ検討してみてください。
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