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フレックス制や変形労働時間制などさまざまな勤務形態をはじめ、多様な働き方の広がりもあり、時間外労働のルールは複雑になっています。
従来型の就業する曜日や時間が決まっている固定労働時間制での管理ルールの知識だけでは対応が不十分になることも多いため、本記事では、時間外労働について労働形態ごとのルールも含めて詳しく解説します。
「法定労働時間」や「所定労働時間」など時間外労働に関する類似した用語は複数あり、意味が曖昧のまま使われがちです。雇用者と従業員の認識のズレなどにつながりますので、まずは定義を正しく押さえましょう。
法定労働時間 | 所定労働時間 | |
定義 | 労働基準法で定められた労働時間の上限原則1日8時間、1週40時間 | 就業規則や雇用契約で定められた従業員の勤務時間企業ごとに異なる |
※ | 従業員数10人未満の特例企業は1週44時間まで | 所定労働時間は法定労働時間を超えてはならない |
休日 | 法定休日は原則週1日、または4週間で4日以上 | 所定休日は企業独自に定める休日法定休日以外の休日 |
時間外労働 | 法定労働時間を超えた労働 | 所定労働時間を超えた労働 |
法定労働時間とは、労働基準法で定められた労働時間の上限です。
原則、1日8時間、1週40時間を超えて労働させることはできません。ただし、一定の業種のうち従業員数が常時10人未満の企業は、特例として1週の上限が44時間まで認められます。
所定労働時間とは、就業規則や雇用契約書等で定められた、従業員に働いてもらう時間です。
たとえば、勤務時間が9:00~17:00で休憩1時間であれば、1日の所定労働時間は7時間、この方が週3日勤務であれば、週の所定労働時間は21時間です。
所定労働時間は企業ごとに異なり、フルタイム以外の従業員がいる場合、従業員ごとに異なることも多いです。なお、所定労働時間は、原則として前述の法定労働時間を超えて定めることはできません。
法定労働時間と同じように、労働基準法では休日の日数も定められています。原則として、少なくとも週1日、それが難しければ4週間で4日以上の休日を与える必要があります。この休日を「法定休日」と呼びます。
これに加え、完全週休2日制であれば週2日の休日があり、年末年始や創立記念日等、法令で定められた日数以上の休日を定めている企業も少なくありません。このように法定休日以外に会社独自に定められた休日を「所定休日」と呼びます。
休日労働とは、これらの休日のいずれかに働くことを指し、法定休日に働くことを「法定休日労働」、所定休日に働くことを「所定休日労働」といいます。
「休日出勤」と一括りにされることも多いですが、割増賃金の支払いにおいてはこの違いが重要です。
「残業」は、法律用語ではありません。また、労務管理・給与計算上は「法定労働時間を超えた時間外労働」と「所定労働時間を超えた時間外労働」等も分けて考えないといけないため、すべてをひっくるめて「残業」「時間外労働」と呼ぶのはリスクがあります。
「残業」「時間外労働」という用語が出てきたときには、それがどこの時間を指しているのかは区分して考える必要があります。
時間外労働は自由に行わせることはできず、さまざまな手続きやルールが存在します。
法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えた時間や法定休日に働かせることは原則禁止されています。しかし、「時間外・休日労働に関する協定届」を労働基準監督署に事前に届け出れば、協定で締結した条件の下で勤務してもらうことが可能です。
「事前に」という部分がポイントで、事後に届け出ることは原則認められていません。なお、「時間外・休日労働に関する協定届」に関する内容が労働基準法第36条に定められていることから、この協定は「36協定」と呼ばれています。
36協定の締結・届出をしたとしても、無制限に働かせることはできません。「1か月45時間、1年360時間」が時間外労働の上限です。なお、ここでの「時間外労働」とは「法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えた時間数」を指します。
ただし、36協定で「特別条項」を定めることで、繁忙期などの臨時の場合に限り、この上限時間を超えて勤務してもらうことも可能です。その場合の上限は「1か月100時間未満、1年720時間以内、月45時間を超過できる回数は年6回以内」です。まとめると下表のとおりです。
期間 | 上限時間 | 法定時間外労働 | 法定休日労働 | |
原則 | 1か月 | 45時間以内 | 含む | 含まない |
1年 | 360時間以内 | 含む | 含まない | |
特別条項 | 1か月 | 100時間未満 | 含む | 含む |
1年 | 720時間以内 | 含む | 含まない |
また、原則と特別条項のいずれの場合でも、時間外労働と法定休日労働の合計時間は、「月100時間未満」かつ「2~6か月の平均は月80時間以内」としなければなりません。
注意点として、特別条項つきの36協定を締結・届出していない場合は、原則の上限時間が適用されます。原則の上限を超える可能性がある場合には、特別条項付きの36協定を締結・届出しておきましょう。
36協定の締結・届出をしていても、協定で定めた上限時間を超えて働かせた場合は、労働基準法違反として「6カ⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦」が科されます。36協定は就業規則と同様に周知義務がありますので、社内で上限をきちんと周知し、超過しないよう労働時間管理を徹底しましょう。
正しい残業代の支払いおよび従業員の健康管理義務の観点からも、労働時間管理は必須です。適切に把握するための方法として、厚生労働省からガイドラインが公表されています。
その中で、労働時間の把握方法として、各従業員のその日の労働時間数だけでなく、始業時刻・終業時刻を確認することを前提としています。
始業・終業時刻を把握するための原則的な方法として、下記の2点が紹介されています。
注意!
やむを得ず自己申告させる場合にも、入退室記録やパソコンの利用時間等と照らし合わせ、乖離がないかの調査を行うことが求められています。
最近では、外出先や自宅からでも打刻できる勤怠システムも多くあります。パソコンの起動やメール送信時間などを取得し、打刻時刻との乖離を通知してくれるシステムもありますので、客観的な労働時間把握ができる仕組みを作りやすい状況です。
労働基準監督署の調査が入った際には、どのような労働時間管理をしているかチェックされ、上記ガイドラインに沿っていない方法での管理だと指導の対象となり得ます。未払い賃金のリスクを防ぐためにも、適切な方法で労働時間管理を行いましょう。
参照:厚生労働省|労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
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36協定の対象となる労働をさせた場合には、その人の時間単価だけでなく、割増した賃金を支払う必要があります。
「割増賃金とは、時間外労働などを行った場合に、時間単価に上乗せして支払われる賃金のことです。どのくらい上乗せをするかは「割増率」と呼ばれ、時間単価に割増率を掛けた金額の支払が必要です。割増率は下記のとおり定められています。
対象時間 | 割増率 |
法定労働時間超 (1日8時間、1週40時間超) |
60時間まで: 25%以上 |
60時間超 : 50%以上 | |
法定休日労働 | 35%以上 |
深夜業(22時~翌5時) | 25%以上 |
法定休日の深夜勤務 | 60%以上 |
上表のうち、複数に該当する場合には割増率は合計されます。たとえば、法定休日の深夜時間帯に働いた場合、割増率は60%です。
所定労働時間が8時間ではない場合の扱いも紹介しておきます。
例えば、1日の所定労働時間が7時間で2時間の時間外労働をした場合、その日の労働時間は9時間です。このとき、割増賃金の対象となるのは8時間を超えた1時間のみで、25%上乗せした賃金を支払います。残り1時間は割増賃金が不要なので、通常の時間単価のみ支払えば足ります。
ここの理解が足りない場合、「2時間残業したはずなのに1時間しか割増賃金を支払われていない」と従業員の中には疑問を感じる人もでてきます。
「所定労働時間」と「法定労働時間」を一括りにして「残業」や「時間外労働」と表すのが危険であると説明したのは、このような理由からです。どこが割増賃金の対象なのか、「残業」「時間外労働」が何を指しているのかはきちんと確認しましょう。
実際に残業したかどうかにかかわらず、毎月一定の時間数分の残業代を支払う方法を「固定残業代」と呼びます。
たとえば、固定残業代が月20時間分と定められている場合、残業時間20時間までは固定残業代として定められた金額を支払い、20時間を超過した分は通常の計算方法で追加支給します。実際の残業時間が月20時間を下回った場合でも、手当は減額しません。
固定残業代は、雇用契約書や就業規則に正しく記載されていない場合、認められないこともあり、未払い賃金の請求や労使紛争が多く発生しています。 固定残業代を採用する場合には、以下の内容が就業規則や雇用契約書に明確に記載されている必要があります。
また、「固定残業代」であることがわかるような名称を使用したり、給与明細等で基本給・固定残業代・超過分の残業代が分かれて記載されていると、固定残業代として認められやすくなります。
労働形態ごとに、時間外労働の考え方や残業代計算の注意点を解説します。
フレックスタイム制とは、始業・終業の時刻を従業員個人に委ねる制度です。
1日や1週間の法定労働時間という概念はなくなりますが、その代わりに、労使協定で定めた期間の総労働時間を設定し、それを超えた時間数が割増賃金の対象となります。ただし、法定休日はフレックスタイム制の対象外です。
たとえば、1か月単位のフレックスタイム制で月の総労働時間が160時間と定められていた場合、法定休日労働を除いた1か月の総労働時間が160時間を超えた部分が割増賃金の支払い対象となり、法定休日労働の分は通常の休日労働と同様の割増率で賃金を支払います。
また、フレックスタイム制は、期間が終了しないと正確な残業時間がわかりません。そのため、気付かないうちに36協定の上限を超えてしまいやすい制度でもあります。従業員本人および上司が、現在の過不足時間をきちんと把握しておくことが重要です。
なお、深夜業の割増賃金は原則どおりです。
変形労働時間制とは、労使協定に基づき業務の繁閑に合わせて所定労働時間を調整できる制度です。
たとえば、月末が忙しい場合、月の最終週は1日の所定労働時間を10時間とし、その代わり閑散週は1日の所定労働時間を6時間にできます。
前述のとおり、原則1日8時間を超える部分は割増賃金の支払いが必要ですが、正しい手続きが踏まれていれば、1日の所定労働時間を10時間と定めた日は、1日10時間を超えた部分にのみ割増賃金を支払えば済みます。
逆に、1日の所定労働時間を6時間と決めた日は、6時間を超えた部分が割増賃金の対象となります。
フレックスタイム制と異なり、従業員が好きに働く時間数を決められるのではなく、労使協定で日ごとの所定労働時間数を定める必要があります。
なお、深夜業や休日労働の割増賃金は原則通りです。
裁量労働制とは、実際に働いた時間に関係なく、労使協定で定められた1日の労働時間を働いたものとみなす制度です。
この場合、1日のみなし労働時間が法定労働時間を超える場合には、その分の割増賃金の支払いが必要です。
たとえば、1日のみなし労働時間が9時間と定められている場合、毎日1時間分の割増賃金の支払いが求められます。
なお、深夜業や休日労働の割増賃金は原則通りです。
年俸制とは、年間の給与が決められている制度です。年俸制の場合でも、月給制の場合と同様、法定労働時間を超えた部分、深夜業、休日労働に対する割増賃金の支払い義務があります。
「管理職は残業代の支払いが不要」」と言われることがありますが、正しく運用しないと大きなリスクを負うことになります。そもそも「管理職」とは法律用語ではなく、「管理職」が指す役職は企業によって異なります。法律用語では「管理監督者」と呼ばれることが多いです。
この「管理監督者」と認められた場合には、労働時間や休日などの規制の対象外となるため、法定時間外労働と休日労働の割増賃金の支払いは不要です。ただし、深夜業は対象外にならないので、深夜勤務があった場合にはその分の割増賃金の支払いが必要です。
また、「管理監督者」とは、役職ではなく、実際の職務内容などの実態に基づいて判断します。厚生労働省の資料では、4つの判断基準が紹介されています。
要するに、経営者と同じように、経営に関する決定権を持ち、時間や日に関係なく働く必要のある立場の従業員ということです。
役職がついていても、他の従業員と給与が同程度以下だったり、何かを決定する際には毎回上の指示を仰いでいるようでは、管理監督者とは呼べません。実際に、支店長であっても管理監督者ではないと判断された裁判例もあります。
管理監督者ではないと判断されると、支払い不要と判断していた法定時間外労働・休日労働の割増賃金は未払いの扱いとされますので、管理監督者かどうかの判断は正しく行いたいところです。
関連記事:時短ハラスメントとは?具体例と企業が行うべき対策について解説
派遣社員についても、基本的なルールは変わりません。ただ、「派遣先」と「派遣元(派遣会社)」の2社が関わってきますので、それぞれの役割を理解しておく必要があります。
まず、派遣社員が時間外労働・休日労働を行うためには、「派遣元(派遣会社)」が36協定を締結・届出している必要があります。
時間外労働の上限時間も、派遣元(派遣会社)の36協定の内容が適用されます。就業規則も「派遣元(派遣会社)」のものが適用されます。
一方、実際の労働時間管理は「派遣先」が行います。時間外労働・休日出勤の命令も「派遣先」が行えます。ただし、派遣先と派遣元(派遣会社)で締結する派遣契約書に、時間外労働についての定めが必要です。
そして、実際の労働時間に基づき割増賃金を支払うのは「派遣元(派遣会社)」です。期間内の労働時間が一定の時間を超えた場合に、派遣単価が上乗せされるような契約が一般的です。
時間外労働・休日出勤の指示を出す企業と、その分の賃金を支払う企業が異なりますので、契約で定められている時間数を超えたり、範囲外の業務の依頼はトラブルのもとです。
派遣社員に時間外労働を依頼する可能性がある場合は、事前に派遣会社へ36協定について確認するようにしましょう。
労働者派遣法は、過去に何度も改正が行われています。
その中には、派遣社員を受け入れる派遣先に関する事項もありました。
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従業員にとって休日・給与に関する関心は高く、だからこそ企業が誤った対応をするとトラブルに発展しやすい領域です。
2020年4月1日以降に支払期日が到来する未払い残業代の時効は、当面の間は3年とされており、今後5年へ延長される見通しです。適切な労務管理を怠ると、長期間を遡っての未払い金が発生するリスクがあり、対象者が複数になるとさらに企業に与えるダメージは膨らみます。
働き方が多様化するなかでも、36協定の締結・届出・周知、客観的な勤怠管理の必要性、「法定時間外労働」「法定休日」「深夜業」が割増賃金の対象となる原則のルール・考え方は変わりません。しかし、雇用形態や勤務形態ごとに異なる注意点が存在するため、それぞれに応じた正確な残業代計算の方法を理解し、適切に対応することが重要です。
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