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定年は70歳に義務化されるのか?改正高年齢者雇用安定法を徹底解説

掲載日2022年5月17日

最終更新日2024年4月16日

定年は70歳に義務化されるのか?改正高年齢者雇用安定法を徹底解説

目次

【資料】定年後を見据えた人事制度設計とは 5つのポイントを解説

定年後の人事制度は、定年前の制度(役職定年など)とも密接に関わってきます。本資料では、ケーススタディを交えながら定年後の人事制度設計のポイントについて解説しています。

⇒定年後を見据えた人事制度設計とは 5つのポイントを解説

2021年の高年齢者雇用安定法改正により、定年年齢の基準となる年齢はこれまでの65歳から70歳へ引き上げられました。

今回は、高年齢者雇用安定法の基本情報から改正に至った経緯、改正内容について解説します。

高年齢者雇用安定法とは

日本の平均寿命が伸び、一方で出生率が下がるという現象が、日本経済に大きな影響を及ぼしています。特に、若者の数が減り、介護が必要な高齢者が増えることで、働ける人の数が減ってしまっています。これは、社会全体にとって大きな問題となっています。

そこで、高齢者でも活躍でき、安定した雇用を得られるようにするために「高年齢者雇用安定法」が制定されました。この法律は、年齢に関係なく、「働きたい」と思うすべての人が、自分の知識やスキル、経験を最大限に活かして働ける社会を作ることを目指しています。

改正前までは65歳までの雇用義務確保

改正前(2021年3月以前)の高年齢者雇用安定法で主に定められていたのは、65歳までの人に対する雇用確保義務です。具体的には、主に以下の2種類の内容が挙げられます。

  1. 定年年齢の最低限度
    定年年齢は60歳以上で定めなければなりません。

  2. 65歳までの雇用確保
    定年年齢を65歳未満で定めている会社の場合は、次のいずれかの措置を講じる必要があります。
      • 65歳まで定年年齢を引き上げる
      • 定年制そのものを廃止する
      • 65歳までの継続雇用措置を導入する

継続雇用措置には、「再雇用制度」や「勤務延長制度」があります。

再雇用制度とは

再雇用制度とは、定年を迎えた社員をいったん退職させ、その上で再び雇用することで継続して勤務してもらうことです。定年退職扱いとした上で、嘱託社員やパート社員など、定年前とは異なる雇用形態や労働条件を結ぶケースが多くみられます。

再雇用制度については、「再雇用制度とは|65歳以上も努力義務に 基礎知識と注意点を解説」で詳しく解説しています。

勤務延長制度とは

勤務延長制度とは、定年を迎えた社員を退職させずに雇用延長して、継続して勤務してもらうことです。退職という区切りがないことから、雇用形態や労働条件、役職待遇などの大きな変更がないまま働き続けるという特徴があります。

継続雇用措置の場合は、制度の内容を問わず、原則として希望者全員を対象とする点も大きなポイントです。

ケーススタディ|定年後の人事制度

定年後を見据えた人事制度設計のポイント5つをケーススタディを交え解説した資料をご用意しています。

⇒「定年後を見据えた人事制度設計とは 5つのポイントを解説」をダウンロードする

【比較表】高年齢者雇用安定法改正の変更点

2021年4月に高年齢者雇用安定法は大規模な改正が実施され、「改正高年齢者雇用安定法」として生まれ変わりました。より多くの高年齢者が能力を活かして働くことができるよう、制度の対象となる年齢層が上がったことに特徴があります。

高齢者安定雇用確保措置 高年齢者就業確保措置
適用時期 ~2021年3月 2021年4月~
義務 65歳まで 65歳まで
努力義務 - 66~70歳まで
措置内容 ①継続雇用措置(再雇用制度・勤務延長制度)
 ・65歳まで定年年齢を引き上げる
 ・定年制そのものを廃止する
 ・65歳までの継続雇用措置を導入する
①継続雇用措置(再雇用制度・勤務延長制度)
 ・70歳まで定年年齢を引き上げる
 ・定年制そのものを廃止する
 ・70歳までの継続雇用措置を導入する
②創業支援措置
 ・70歳まで継続して業務委託契約を締結する制度を導入する
 ・70歳まで継続して社会貢献事業等に従事できる制度を導入する

【努力義務】65歳から70歳までの就業機会確保

この法改正により、65歳から70歳までの人々の雇用を確保するための措置が努力義務として導入されました。これは、企業が70歳までの雇用を確保するために、以下の5つの選択肢から一つ以上を実施することを求めるものです。

今回の法改正による大きな変更の一つは「70歳までの者の就業機会確保の措置」が、新たに定められた点です。

具体的には、次の5項目のいずれかの措置を行い、70歳までの人の雇用確保をすることが努力義務とされる運びとなりました。

①70歳まで定年年齢を引き上げる

②定年制そのものを廃止する

③70歳までの継続雇用措置を導入する

④70歳まで継続して業務委託契約を締結する制度を導入する

⑤70歳まで継続して社会貢献事業等に従事できる制度を導入する

雇用確保措置の拡大

上記の措置で、①定年年齢の引き上げ、②定年制度の廃止、③継続雇用措置の導入は、65歳までの雇用確保措置が70歳までに拡大されたものです。

継続雇用措置を導入する場合は、65歳未満に義務づけられているとおり、再雇用制度や勤務延長制度を活用し、引き続き70歳まで雇用できます。

新たに追加された創業支援等措置

④委託契約の締結や⑤社会貢献事業への従事は、新たに導入された措置で、これらは「創業支援等措置」と呼ばれます。これらの制度は、定年後に独立したり、社会貢献事業に参加したりする社員を支援するためのものです。

これは、継続雇用という方式を取らず、定年後にフリーランスとして独立したり、会社出資の団体へ所属し、地域ボランティアなどの社会貢献事業を行ったりする社員を応援する制度です。

社会貢献事業等とは、具体的には、会社の事業主自らが行う社会貢献事業や、会社の事業主が委託や出資をしている団体が行う社会貢献事業のことを指します。

これらの創業支援等措置を行うためには、まずは措置を行うための計画書を作成し、過半数労働組合や労働者の代表による同意を得る必要があります。その上で、計画の内容を社員に周知させ、導入する方法を取ります。

努力義務の対象となる事業主

改正高年齢者雇用安定法における努力義務の対象となるのは、以下要件のいずれかに該当する事業主です。

①定年年齢を、65歳以上~70歳未満に設定している事業主
②65歳までの継続雇用措置を導入している事業主

要するに、法改正前の高年齢者雇用安定法で義務づけられている65歳までの雇用確保措置を導入しているものの、65歳を越えた人に対する雇用措置を行っていない事業主が対象になるということです。

定年70歳はいつから義務化されるのか?

新たに改正された70歳までの雇用確保措置は、現段階では「努力義務」とされています。しかし、過去の高年齢者雇用安定法の変遷を見ると、努力義務が数年後に義務化されるケースがあり、義務化される可能性は否定できません。

なお、「努力義務」というのは義務化ではないという理由で無視することは適切ではありません。現段階で、定年後の雇用制度を見直すなど、具体的な対策を講じることが求められます。この「努力義務」については、次の章で詳しく解説します。

高年齢者就業確保措置の努力義務とは

次は就業確保措置の「努力義務」へスポットを当て、順に紐解いていきましょう。

努力義務なら何もしなくていいのか?

努力義務とは、何らかの対応をすることが当然であることから、努めなければならないものとして定められている物事をいいます。何らかの対応を強いられる「義務」とは定義が異なります。

義務ではないため、努力義務として定められている対応をしなかったとしても、法律違反として罰則を受ける対象にはなりません。しかし、努力を促すことを目的としていることから、一概に「努力をしなくても良い」と判断することはできないでしょう。あくまでも、努力の度合いは会社側の裁量にゆだねられている、というスタンスを取る規定といえます。

努力義務違反で行政から指導・助言を受けるケースがある

努力義務に反したからといって、法律上の拘束や罰則に処せられることはありませんが、ハローワークなどによる指導や助言を受けるケースもみられます。また、努力義務を怠ったことで、社員側から訴えられるリスクや、損害賠償を請求されるリスクについて念頭に置いておかなければなりません。

さらに、努力義務に関する状況が改善していないと判断された場合は、就業機会確保措置に関する計画書を作成するよう勧告を受ける可能性もあります。したがって、義務化されていないとはいえ、企業側には措置を確立させていくための姿勢が求められている点に変わりはないといえるでしょう。

【調査データ】約6割は「65歳以上の継続雇用」を導入済み

2022年8月にマンパワーグループが人事担当者に対して実施したアンケート調査では、「65歳以上のシニア就業確保を進めるために、どのような対応をしているか」という問いに対し、「70歳までの継続雇用制度の導入」(58.2%)と回答した企業が最も多い結果となりました。


次いで、「70歳までに継続的に業務委託契約を締結する制度の導入」(25.5%)、「70歳までの定年年齢の引き上げ」(24.5%)も対応済み企業の4分の1程度が実施しています。

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関連調査データ

約6割は「65歳以上の継続雇用」を導入済み。シニア雇用の取り組みや課題とは?

継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入ポイント

ここからは、70歳までの雇用確保措置の一つである「継続雇用制度の導入」にあたり注意すべきポイントを、順に解説をします。

賃金・役職の見直し

退職後に再度雇用契約を交わす「再雇用制度」を採用する場合、雇用契約の内容を定年前とは変更して交わすことが可能です。

企業側としては雇用契約内容の変更というと、真っ先に賃金面の見直しを実施しようと考えるかもしれません。しかし、労使トラブルを避けるためにも、役職や雇用形態、仕事内容や責任を負う範囲などの具体的な働き方についての見直しを行い、その延長線上で賃金面の見直しを行う、という手順が有効です。

具体的な仕事内容や役職については、現役世代との兼ね合いも考え、若い世代をサポートしつつ、該当の従業員の権限も取り上げすぎないというバランスの取れた働き方を提示し、社員と入念にすり合わせておくことが重要です。

勤務形態の見直し

定年直後の社員は、たいていが「まだまだ現役には負けない!」という気力と体力をともに持ちあわせているケースが多いものの、時が経るにつれて変化し、セカンドキャリアの形成やプライベートの生活を充実させたいと考える人も少なくありません。

フルタイム勤務で検討するよりは、勤務日数や時間を生活スタイルにあわせて柔軟に対応させることのできるパート勤務やフレックスタイム制を活用する方法が効果的です。

特殊関係事業主・他社での継続雇用

継続雇用制度を導入すると、これまで働いていた会社だけでなく、特殊関係事業主(会社のグループ会社や子会社・関連会社等)での雇用や、特殊関係事業主以外での雇用が認められる点も重要なポイントです。

自社でのポジションを設けることが難しくても、他社での就業を選択肢として加えることができるため、柔軟な対応ができるようになります。

ただし、社外での継続雇用を実施する場合は、これまで雇用していた会社と今後働くことになる会社との間で、継続雇用を実施することに関する契約書を結ぶ必要があります。

無期転換ルールの特例

継続雇用制度を導入する場合は、「無期転換ルール」に特例があることを覚えておきましょう。

無期転換ルールは、原則として、同じ使用者のもとで有期契約が通算5年を超えて更新されると、労働者側が申込みを行うことで無期労働契約に転換する制度のことです。

しかし、適切な雇用管理についての計画書を提出し、労働局の認定を受けた事業主のもとで継続雇用が行われる場合は、定年後の継続雇用期間については無期転換への申込権利が発生しないという特例があります。

この特例は、「無期転換をしなければならない」という縛りがない状況で、高年齢者に対して柔軟な対応をすることを可能にしました。つまり、より多くの就業機会を高齢者に提供できるよう定められたことを意味します。

ただし、特殊関係事業主以外のもとで継続雇用が実施されると、特例の対象外となります。この場合、労働者側に無期転換への申込権利が発生することを覚えておきましょう。

高年齢者雇用安定法改正で企業が準備すべきこと

この章では、高年齢者雇用安定法の改正を受け、企業側が実施すべき対応法について解説します。

適切な措置を検討・選択する

改正前の高年齢者雇用安定法の義務規定を受けて、すでに企業側では65歳までの雇用機会確保措置の体制が確立しているはずです。

まずは自社の現状を洗い出し、70歳までの社員に雇用機会を与えるために適した措置はどのような内容になるのかを入念に検討していく必要があります。

措置対象者を限定する(具体性・客観性への留意が必須)

70歳までの人の雇用確保措置として努力義務が課せられている内容のうち、③継続雇用措置、④業務委託契約の締結制度、⑤社会貢献事業等に従事できる制度、の3種類については、対象者を限定してルール化することが認められています。

対象者の基準は、過半数労働組合または労働者代表との話し合いを重ねた上で、会社の状況に応じた形で定めていきますが、具体的かつ客観性の認められる内容にしなければなりません。

例えば、「会社が要する者」と定める際、対象となる人・ならない人の基準が分からず、あいまいな内容として不適切として判断されるケースがみられます。

男女で区別する方法や、労働組合に従事しているか否かを理由とした基準についても、平等性に反するとして適切ではないと判断されることがあります。

つまり、対象者の基準を定める場合、働きたいという要望やスキルを具体的に判断できる内容でなければなりません。

また、現在基準を満たしていない労働者も能力開発などを経て、対象者になれる可能性があると認められるような、具体的な内容にしなければならない点を覚えておきましょう。

基準として定められる能力に客観性があり、特定の社員が主観で選ぶことのできない内容にすることで、無用なトラブルを避けるように配慮が必要です。

段階的に措置を講ずることもできる

70歳までの就業機会確保は、段階的な措置導入が認められています。例として現状で定年年齢を65歳に定めている会社を挙げると、まずは66歳まで、その次は67歳、と年齢の引き上げを順次実施していくことが可能です。

これは、今まで65歳までの雇用機会確保が義務づけられていた中で、突然「70歳までの就業機会を確保するように」と法改正が行われたことによって、急な対応ができず戸惑う事業主も少なくないためです。

社内のルールを変更する際に必要となる手順や労使間での協議に時間がかかることや、そもそも会社の現状が70歳までの労働者を受け入れる体制を整えられていない場合が想定されています。

ただし、あくまでも目指すべき到達点は70歳であることを念頭に置き、企業側には70歳までの就業機会確保を実現するために、段階的に制度を導入していく姿勢が求められている点に注意が必要です。

役職定年制度も見直す

見直すべき制度は、これまで述べてきた再雇用制度や継続的制度だけではありません。今回の定年制度の改正には、「役職定年制度」も密接に関わりがあるため、役職定年制度の見直しも必要となります。

というのは、役職定年制度は、定年を引き上げた場合に役職をいつまで維持するのか、役職任期制度に切り替えたほうが組織の新陳代謝につながるのか、などの「定年」が関わる制度であるためです。

役職任期制度については、「役職定年とは?制度の基礎知識とデメリットの対策を解説」で詳しく解説しています。

契約条件・就業規則の変更に関連する手続きを行う

次は、制度内容の概要や対象となる労働者の基準、継続雇用時に適用する労働条件の内容を、就業規則などで定める必要があります。

就業規則で定める具体的な内容については、厚生労働省よりモデル文章が提供されていますので、参考にしてください。

参考:高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)|厚生労働省(PDF) 外部リンク

70歳未満での退職を希望する高年齢者への対応

70歳未満での退職を希望する高年齢者に対しては、企業側には今後の労働者の生活のため、再就職をサポートするための措置を取ることが努力義務として定められています。

また、「多数離職届」の届け出が必要になる場合があります。多数離職届とは、1ヶ月以内に5人以上の労働者(45歳以上70歳未満の者)が離職する際、前もってハローワークへ提出しなければならない書類です。

書類には、労働者ごとに再就職を希望するか否か、再就職の予定があるか否かを記載する部分がありますので、退職社員一人ひとりに対するリサーチと支援が求められます。

雇用以外の対応(業務委託・起業支援など)

定年を迎える高年齢者の中には、これまで培ってきた経験や能力を活かし、起業を試みる人もいます。

このような人に対しては、起業側は労働者が起業をする際のサポートや、業務委託契約を締結する方法を用いるのが効果的です。

多様な手段で社会活動を試みる高年齢者のサポートを行うことが、高年齢者雇用安定法では求められています。

高年齢者雇用状況等報告を作成・提出する

事業主には「高年齢者雇用状況等報告書」の提出が求められています。

これは今まで義務づけられていた65歳までの人に対する雇用確保措置や、法改正により努力義務として規定された70歳までの人に対する就業確保措置をどのように行っているかを把握するための書類です。

報告書に記載すべき内容は、毎年6月1日現在の定年制や継続雇用制度、創業支援等措置などの導入状況です。7月15日までに書類を提出する必要がありますが、昨今はペーパーレス化の導入により、電子申請による提出も認められています。

高年齢者雇用状況等報告書は、労働保険料の申告書類や社会保険の算定基礎届と同時期に記載・提出が求められる書類のため、6月に入る前には届け出の準備を進めておくと良いでしょう。

【調査データ】企業がシニア社員に対して行っている課題と施策

マンパワーグループが人事担当者に対して実施したアンケート調査では、シニア雇用の取り組みにおける課題として多く挙げられたのは「モチベーション」「健康上の配慮」「マネジメント」でした。

また、対応策として「給与体系の適正化」「勤務時間や日数のフレキシブルな対応」「定年前の役職に応じた配置や異動」などが実施されています。

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調査データ:「約6割は「65歳以上の継続雇用」を導入済み。シニア雇用の取り組みや課題とは?

定年後を見据えた人事制度設計とは 5つのポイントを解説

65歳までの雇用義務、70歳までの努力義務など、定年後の雇用期間は長くなっています。本資料は、役職定年など関連する制度を踏まえた上で、人事制度設計のポイント5つを解説しています。ケーススタディで具体的にイメージしやすくしていますので、ぜひダウンロードください。

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70歳定年の成功事例

70歳になっても生き生きと働く高年齢者が活躍する企業の事例を2つ紹介します。自社のヒントになる部分もあるかと思いますので、ぜひ参考にしてください。

事例① ~70歳を越えても働ける環境づくり~

自動車部品製造業を営むA社では、すでに2011年の時点で定年年齢を60歳から70歳へ大胆な引き上げを実施しています。この引き上げは「年齢にとらわれず、体力や就労意欲を持つ者には、できるだけ長く働いて欲しい」との思いから導入されました。

全国的な労働力不足の流れは製造業にも影響しており、豊富な知識や経験を持つベテラン社員の存在は、会社にとっても大きな戦力となっています。

A社では、定年年齢である70歳を越えても働き続けることができるよう、2020年には再雇用契約に関する詳細を就業規則に定め、明確なルールとして打ち出しています。

再雇用では、会社と再雇用した社員の双方が納得できるように、3ヶ月ごとの契約更新時に社長と社員が体調や業務内容について話し合い、契約を延長するか、退職するかを決める面談を実施しています。

また、定年により他社を退職したシニア層についても受け入れる体制を整えており、質の高い仕事を進めることができるよう、職場環境の整備にも注力しています。

事例②~定年延長と業務効率化を同時進行で地域貢献~

地方でコンビニエンスストアを営むB社は、年齢に関係なく多くの人が安心して働くことができるような環境を整え、地域貢献を目指す企業です。2019年に定年年齢を70歳とし、73歳まで継続雇用を行うことが就業規則で定められていますが、73歳を超えても働き続けることを可能としています。

多様なニーズ、ライフスタイルに合わせた就労形態を選択できるように、夜間専門の「ナイター社員」、原則として4時間勤務の「ハーフ社員」、社員が就労可能時間を登録し同僚の急な欠勤等にも対応する「ほっとスタッフ」といった就労形態を整備しました。

高年齢社員に活躍してもらう工夫として、若手社員への指導役を高年齢社員が行う「ペア就労」を実施し、若年層の定着が促進されているようです。

参考:70歳雇用事例サイト|独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 外部リンク

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高年齢者雇用で活用できる助成金

高年齢者雇用安定法の改正に対応する際、活用できる助成金があります。

代表的な制度として、「65歳超雇用推進助成金」と「特定求職者雇用助成金」を取り上げます。助成金を効果的に活用することで、人件費の負担を抑えながら、よりスムーズに法改正に対応できます。

65歳超雇用推進助成金

働くことに対する意欲と体力を持つ高齢者が、年齢にとらわれることなく働き続けることができる社会づくりのため、65歳以上への定年年齢引き上げや雇用管理体制の整備、高年齢者に対する無期雇用形態への転換などに取り組む事業に対して一定額の助成を実施する制度です。

65歳超継続雇用促進コース

65歳を超えても働くことができるような環境づくりの一環として、下記のうちいずれかをルール化し、就業規則などで明文化した企業に対して一定の助成が行われるコースです。

  • 65歳以上へ定年年齢を引上げる
  • 定年制を廃止する
  • 希望する者全員に対する、66歳以上までの継続雇用制度の導入
  • 定年後や継続雇用後に他社で継続して働くことができる制度の導入

高年齢者無期雇用転換コース

50歳以上で、定年年齢に達していない有期雇用者を、無期雇用での雇用契約に転換させた事業主に対し、一定の助成が行われるコースです。上限は、1年度内の1事業所あたり10人までです。

申請方法として、まずは「無期雇用転換計画」を作成し、認定を受ける必要があります。その上で、計画内容に沿って無期雇用転換を実施し、支給申請を行うという流れで進みます。

支給額は、対象となる労働者一人あたり48万円(中小企業以外は38万円)で、生産性要件を満たした場合は一定額が上乗せされます。

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

高年齢者の雇用推進のため、賃金や人事処遇、労働時間や健康管理などの雇用管理制度を整えた事業主に対し、一定の助成が行われるコースです。

申請方法としては、「雇用管理整備計画」を作成し、認定を受けた上で計画に基づいた措置を実施します。

支給額は、雇用管理整備計画を実施するにあたり、現制度の見直しをするためにかかった経費の60%(中小企業以外は45%)で、生産性要件を満たすと一定額が上乗せされます。

特定求職者雇用開発助成金

一定要件を満たす求職者を新たに社員として迎え入れた事業者に対して一定額の助成を実施する制度です。

特定就職困難者コース

60歳以上65歳未満の高年齢者を、ハローワークを通じて雇用保険の一般被保険者としての加入が必要となる働き方で雇い入れた際、一定額が支給されます。

中小企業のケースを例に挙げると、短時間労働者以外の要件で継続雇用をする場合は「30万円×2期=合計60万円」、週あたりの所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者として継続雇用をすると「20万円×2期=合計40万円」が支給されます。

生涯現役コース

雇用する時点での満年齢65歳以上の高年齢離職者を、ハローワークを通じて雇用保険の高年齢被保険者としての加入が必要となる働き方で雇い入れた際、一定額が支給されます。

中小企業のケースでは、短時間労働者以外の要件で継続雇用をする場合は「35万円×2期=合計70万円」、週あたりの所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者として継続雇用をすると「25万円×2期=合計50万円」が支給されます。

前述の「特定就職困難者コース」と比較すると、対象となる高年齢者の年齢層が高くなっていることもあり、特定就職困難者コースよりも支給額が高額となっている点が特徴です。

まとめ

人生100年時代といわれるように、最近は充実した気力・体力をもつ高年齢者が増えています。経験や能力が豊富な彼らを雇用することで、現役世代への技術継承や人材育成など会社にとってメリットとなる面も非常に多いといえるでしょう。今回の高齢者雇用安定法の改正を機に、エイジダイバーシティによる世代を超えた組織力強化を目指した 企業体制を整えてみてはいかがでしょうか。

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著者プロフィール

加藤知美(社会保険労務士)

加藤知美(社会保険労務士)

愛知県社会保険労務士会所属。総合商社、会計事務所、社労士事務所の勤務経験を経て、2014年に「エスプリーメ社労士事務所」を設立。 総合商社時では秘書・経理・総務が一体化した管理部署で指揮を執り、人事部と連携した数々の社員面接にも同席。会計事務所、社労士事務所勤務では顧問先の労務管理に加えセミナー講師としても活動。

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