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「契約書は業務委託になっているから大丈夫」——そう思って運用していた委託契約が、実態を理由に労働者と判断されることがあります。
契約締結時には双方が業務委託として合意していても、日々のやり取りが積み重なるうちに、指示の出し方や稼働の管理方法が社員とほとんど変わらなくなっていた、という話を耳にすることがあります。
フリーランスや個人事業主を含む業務委託の活用は、人手不足への対応やコスト調整の手段として広がっており、正社員採用に頼らない形で必要な専門性を確保できるという利点があります。その一方で、契約更新のタイミングや労災発生時に「実はこの方は労働者だったのではないか」と指摘され、対応に追われるケースは少なくありません。
契約書の作成自体は専門家のチェックを経て法的に問題なかったとしても、締結後の運用が契約書の建てつけから離れていってしまうことに、当事者が気づきにくいという難しさがあります。
今回は、業務委託契約を人材確保の一手段として活用している、あるいはこれから活用しようとしている経営者・人事担当者の方に向けて、契約形式と実態運用がどのようにズレていくのかを整理します。そのズレが招くリスクや、事前にどこを確認しておくとよいのかについても、判断基準や実際の裁判例をもとに解説します。

業務委託契約の運用面で、次のような状況に心当たりがある方は少なくないはずです。いずれも契約書を交わした時点では意識されておらず、日々の運用が積み重なった結果として、気づけば社員に近い関わり方になっていた、という共通の流れを持っています。契約書の文言を見直すだけでは気づけない部分でもあるため、まずは自社の運用実態をイメージしながら読み進めていただければと思います。
案件が立て込む時期に「明日の10時から18時まで常駐してほしい」という依頼が積み重なり、気づけば委託先の一日の稼働がほぼこちらの指定どおりに埋まっている、という状態です。契約書上は成果物の納品をもって報酬を支払う建てつけになっていても、実際の運用は時間で管理する働き方になっていないでしょうか。繁忙期だけの一時的な対応のつもりが、少しずつ常態化してしまう点にも注意が必要です。
社内の服務規律をそのまま委託先にも適用し、定例会議への出席や研修の受講を、当然の義務であるかのように求めてしまう状態です。情報共有や品質担保を目的とした善意の運用であっても、指揮命令の一部とみなされる要因になり得ます。欠席や不参加の理由を細かく確認するようになると、社員に対する管理とほとんど同じになってしまいます。
契約書に専属義務を明記していなくても、「他社の案件と並行されると困る」という理由から、稼働の大半をこちらに割いてもらうことを暗黙のうちに求めてしまう状態です。専属性が高まるほど、事業者としての独立性は薄れてしまいます。委託先の売上の大部分を自社との取引が占めるようになっている場合は、特に注意しておきたいところです。
成果物の完成度や納期ではなく、稼働した時間に応じて報酬を積み上げる契約になっている状態です。時間単価的な報酬体系は、労務の提供そのものへの対価と見なされやすく、請負や委託の建てつけとは相性がよくありません。稼働報告書の書式が、勤怠管理の様式とほとんど変わらない、という状態も良くありません。

労働基準法9条は「労働者」を、事業に使用される者で、賃金を支払われる者と定義しています。この定義に該当するかどうかは、契約書の名称ではなく実態によって判断されるというのが、行政・裁判実務を通じた共通の見解です。人事担当者としては、契約書の表題を「業務委託契約書」としておけば足りる、という理解では不十分だということになります。
この判断基準を示した代表的な裁判例が、横浜南労基署長(旭紙業)事件(最高裁平成8年11月28日判決)です。同判決は、仕事の依頼や業務従事の指示を断れるかという諾否の自由、業務の進め方についてどれくらい細かい指示を受けているかという指揮命令の程度、勤務の場所や時間がどれほど拘束されているかという時間的・場所的拘束性を中心に、本人以外が業務を代わりに行うことを認めているかという労務提供の代替性、そして報酬が仕事の成果ではなく労務の提供そのものに対して支払われているかという報酬の労務対償性を、主な判断材料としました。これに加えて、事業者としての実態があるか、特定の相手先への専属性が高くないか、社会保険の適用状況はどうか、という3点も補強的な判断材料として考慮されます。
ここまでは個人の業務委託契約者を想定してきましたが、委託先が会社や別の事業者のチームであるケースにも、同じ課題が起こりえます。俗に「偽装請負」と呼ばれる状態で、実態としては労働者派遣や労働者供給であるにもかかわらず、業務処理請負や業務委託という契約形式を装って行われているものを指します。
請負元の会社が雇用する労働者を委託先の事業場に常駐させながら、その労働者への指揮命令を委託先が行っている、あるいは形式的には請負元が指揮命令の責任者を置いているものの、実質的には委託先が指揮命令を行っている、というものが典型的な例です。
個人事業主への再委託や、複数の会社を経由する多重の請負関係でも、実態としての支配関係がどちらにあるかが問題になります。近年でも、再委託先の労働者と委託先企業との間の指揮命令関係や労働契約の成立が争われた裁判例があり、この課題は個人の業務委託契約に限らず、委託先が法人であっても注意しなければなりません。
たとえば、自社のオフィス内で常駐して働く委託先企業の担当者に、自社の社員が日々の業務指示を直接出しているような場合は、契約書上は企業間の業務委託であっても、実態としては偽装請負の構造に近づいていないか、あらためて点検しておく必要があります。
もっとも、これらの裁判例に共通するのは、契約の形式にかかわらず「労働者性が否定された」結論だけではありません。ソクハイ(契約更新拒絶)事件(東京高裁平成26年5月21日判決)では、メッセンジャーが自ら稼働日・稼働時間を決定でき、配送の依頼を拒否することもできたという実態から、労働基準法上の労働者性が否定されました。裏を返せば、稼働日・稼働時間の決定権や依頼の諾否の自由が委託先に実質的にあるかどうかが、判断の分かれ目になっています。契約書の文言そのものよりも、日々の運用のなかでどちらが裁量を持っているかが問われている、という点は、個人契約であっても法人契約であっても変わりません。自社の契約が労働者性を否定される方向にあるかどうかを見極めるうえでも、この2つの視点は実務上のポイントになります。

業務委託として運用してきた契約が、後になって労働者性を認定されると、次のようなリスクが生じます。契約締結時には想定していなかった負担が、まとめて発生することも珍しくありません。
労働者と判断されれば、委託期間全体にさかのぼって、時間外労働や休日労働に対する割増賃金を含む賃金の未払いを請求されるリスクがあります。未払い賃金の時効は3年ですので、委託期間が数年におよぶ場合、請求額が高額になる可能性もあります。
労働者として扱われる以上、各種保険の適用対象となり、事後的な加入手続きや、さかのぼっての保険料負担が発生する可能性があります。労災事故が起きてはじめて労働者性が問題になる、というケースもあります。
契約更新の見送りや契約解除が、実質的には解雇にあたるとして、解雇権濫用法理などの制限を受ける可能性があります。業務委託だからいつでも契約を終了できる、という前提が通用しない可能性があります。
委託先が法人であるケースで、実態が労働者派遣に該当すると判断されると、労働者派遣法40条の6が定める労働契約申込みみなし制度の対象となる可能性があります。これは、偽装請負にあたる状態が始まった時点で、役務の提供を受けていた企業がその労働者に対して、派遣元における労働条件のままで労働契約の申し込みをしたものとみなす、という重い効果を持つ規定です。想定していなかった相手と、労働条件も明確でないまま雇用関係が生じてしまう点で、実務上のインパクトは小さくありません。

業務委託契約そのものを見直す前に、まずは現在の運用を次の観点で棚卸ししてみることをおすすめします。
まず、先に挙げたあるあるパターンを踏まえて、稼働時間の指定、服務規律の適用、専属性、報酬の決め方という4つの切り口で、契約ごとの実態を確認します。契約書の文言は業務委託であっても、運用の実態がこれらの要素を満たしていないか、年1回など定期的に点検する運用ルールを整えておくことが重要です。
次に、委託先が法人である場合には、指揮命令が実際にどちらから発せられているかを確認します。委託先の事業場に常駐させる形をとっている場合は特に、偽装請負の構造に近づいていないかを意識しておく必要があります。委託先の管理者を通さずに、現場で業務に従事する労働者へ直接指示を出していないか、という点も確認が必要です。
最後に、判断に迷うケースについては、早めに社会保険労務士や弁護士等の外部専門家に相談し、見直しの優先順位をつけておきます。すべての契約を一度に見直すのは現実的ではないため、稼働時間や専属性が特に高い契約から着手するという考え方が有効です。
判断基準に沿ったチェックリストを用意していますので、自社の契約の棚卸しに活用してください。契約ごとに状況を書き出してみるだけでも、見直すべき優先順位が可視化されるはずです。
| No. | 確認項目 | 確認のポイント |
| 1 | 業務の依頼を、委託先が断れる状態になっているか | 特定の案件や日程を断っても、契約上・実務上の不利益がない運用になっているか(諾否の自由) |
| 2 | 稼働日・稼働時間を委託先自身が決定できているか | 「何時から何時まで常駐してほしい」といった時間指定が常態化していないか |
| 3 | 業務遂行の方法について、細かい指揮命令を行っていないか | 作業の手順や進め方まで逐一指示しておらず、委託先の裁量が残っているか |
| 4 | 業務の場所を、委託先の裁量で選べる状態になっているか | 常駐を求めている場合、その必要性・合理性を説明できるか |
| 5 | 労務提供の代替性が認められているか | 委託先本人以外が業務を行うことを、契約上・実務上認めているか |
| 6 | 報酬が成果物・業務の完了に対する対価になっているか | 時間単価的な報酬体系になっておらず、稼働時間と報酬が直結していないか |
| 7 | 委託先が事業者としての実態を持っているか | 他社との取引実績、独自の屋号・設備、自己の危険負担の有無を確認しているか |
| 8 | 他社の業務を受託することを制限していないか | 契約上・運用上、暗黙にでも専属を求めていないか |
| 9 | 社会保険の適用状況が、実態と整合しているか | 社会保険に加入させていないことの根拠が、実際の働き方と矛盾していないか |
| 10 | 委託先が法人・チームの場合、指揮命令が実質的にどちらから発せられているか | 委託先の労働者を自社事業場に常駐させている場合、指揮命令の責任者が実質的に機能しているか(偽装請負に該当しないか) |
業務委託を検討する際の「最初のステップ(棚卸し〜判断基準)」が1冊に
業務の棚卸し方法、委託に向く業務の見極め方、委託後の運用設計などを整理したホワイトペーパーをご用意しています。現行の運用状況を棚卸しする際の視点整理にもご活用ください。
業務委託契約の活用そのものをやめる必要はありません。大切なのは、契約形式と実態運用の両輪を意識し、事前に、そして運用が始まった後も定期的に、どこを確認しておけば安心して運用できるのかという視点を持つことです。
「導入すると面倒なことになる」ではなく、「事前に、そして定期的にここを確認しておくとよい」というスタンスで、委託先にとっても自社にとっても納得感のある関係を築いていきましょう。契約書を整えて終わりにするのではなく、日々の運用を振り返る仕組みを持っておくことが、結果として双方を守ることにつながります。
なお、委託先が少人数や個人事業主であるほど、日々のやり取りのなかで社員に近い関わり方になりやすい傾向があります。委託先の規模にかかわらず、実態を振り返る機会を意識的につくっておくとよいでしょう。
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