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再雇用後のモチベーション低下 その背景にある制度設計・運用の課題

掲載日2026年10月23日

最終更新日2026年10月23日

再雇用後のモチベーション低下 その背景にある制度設計・運用の課題

目次

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本コラムは、企業人事として勤務する傍ら、開業社会保険労務士としても活躍されている土田真吾氏による寄稿コラムです。

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「再雇用後にモチベーションが下がる」という声は、企業規模を問わずよく聞かれます。

高年齢者雇用安定法(以下「高年法」)への対応が一巡し、65歳までの雇用確保措置はほとんどの企業で当たり前のものになりました。それでも現場では、再雇用者本人の意欲低下、消極的な働きぶり、周囲とのすれ違いといった悩みが絶えません。

多くの企業は、この現象を「賃金が下がるのだから仕方ない」「昔からこうしてきた」「本人の意識の問題」と受け止め、解決すべき課題として扱えていないのが実情です。再雇用者が増えるたびに同じ相談が人事に持ち込まれ、その都度対応している企業も少なくありません。ただ、複数の企業で再雇用制度の運用に携わってきた現役の人事担当者として見ると、原因の多くは本人の意欲そのものではなく、再雇用前後の制度設計・運用に生じている「ズレ」にあります。

本コラムでは、再雇用後のモチベーション低下がなぜ起こりやすいのか、その背景にある制度設計・運用上の課題を実務に沿って整理します。「どうせ毎年のことだから」と課題に目をつむるのではなく、次に定年を迎える社員が出る前に見直しておきたいポイントをお伝えします。

なお、対象は60歳定年後、65歳までの継続雇用の場面に絞ります。65歳以降の就業確保は別の論点となるため、今回は扱いません。

あるあるパターン

あるあるパターン

再雇用後の現場では、次のようなパターンがよく見られます。

賃金は下がっても、仕事は変わらない

仕事の量も責任も現役時代とほとんど変わらないのに、賃金だけが大きく下がる。「役割は変わらないのに、なぜ評価と処遇だけ下がるのか」という不満が生まれやすい典型的なパターンです。周囲の同僚から見ても業務内容の変化がわかりにくいケースでは、この不満はいっそう強くなります。

肩書き・権限の喪失

管理職から一般職に戻り、元部下の指示を受けて働くことになる。組織上は自然な流れであっても、本人にとっては急激な立場の変化であり、心理的な負荷は小さくありません。自分が育ててきた部下の指示を受ける場合は、なおさらです。

評価・フィードバックの形骸化

再雇用後は人事評価そのものが形だけになり、上司からのフィードバックもおろそかになりがちです。本来、目標は再雇用後の新たな役割に基づいて設定されるべきものです。ところが実際には、現役時代の延長で運用されているか、形式的なものにとどまっているケースが少なくありません。

「遠くない将来に辞める人」という扱い

本人にその気がなくても、周囲から「あと数年でいなくなる人」と見られ、短期戦力として扱われてしまう。悪意がなくても、この扱いが本人の当事者意識を弱めていきます。

守りの姿勢への切り替わり

期待されている実感がないまま雇用期間の終わりが近づくにつれ、指示された範囲の仕事を淡々とこなす働き方に変わっていくことが多くあります。これは本人の意欲が失われた結果というより、期待や役割が明確に伝えられていないことへの、ごく自然な反応ととらえるべきです。

シニア層の意欲低下はなぜ起こるのか

再雇用後のモチベーション低下は、本人の問題ではなくキャリア上の停滞感や役割変化が背景にある場合もあります。
ミドル・シニア層の意欲低下の原因と活性化の方法の解説資料もあわせてご覧ください。

>「ミドル・シニアはなぜキャリアに停滞感を覚えるのか?」を見る

モチベーション低下の背景にある制度設計・運用の課題

モチベーション低下の背景にある制度設計・運用の課題

これらのパターンに共通しているのは何でしょうか。事情は企業や本人によって異なりますが、多くの再雇用制度の設計・運用に関わってきた経験から見えてくる代表的な論点は、次の3つです。いずれも制度そのものの不備というより、制度と運用の間に生じる「ズレ」から生まれています。

賃金と業務内容のギャップ

賃金減額そのものより、「仕事の中身・裁量が変わらないのに評価だけ下がる」というギャップが不満の核になっています。高年法は事業主に65歳までの雇用確保措置を義務づけていますが、この対応が「制度を作れば義務は果たした」という発想にとどまっている企業は少なくありません。

高年法の枠組みは、段階的に強化されてきました。1986年に60歳定年が努力義務となり、1994年の改正で義務化。2004年の改正では65歳までの雇用確保措置が義務となり、2012年の改正では継続雇用の対象者を限定できる制度が廃止され、希望者全員の継続雇用が原則となりました。しかし、法が求めているのはあくまで「雇用機会の確保」であり、「役割・評価の再設計」までは義務づけていません。ここに、多くの企業が見落としがちなズレがあります。

役割・目標設定の断絶

再雇用後の役割や目標が、定年前から連続して設計されていない企業が多く見られます。再雇用前の面談は形式的なものにとどまり、目標管理の仕組みも内容も現役時代のものをそのまま流用しているだけ、というケースが目立ちます。役割が変わったのに目標や評価軸が作り直されなければ、本人にとって「何を期待されているのか」が見えなくなるのも当然です。面談を担当する側からも「特に話すことがなくて、事務的に終わってしまう」という声をよく耳にします。

期待されている実感の有無

「戦力として期待されている」という実感の有無が、賃金以上にモチベーションを左右します。前述した「守りの姿勢への切り替わり」や「遠くない将来に辞める人」という扱いは、いずれも賃金そのものへの不満というより、「自分はもう戦力として見られていない」という感覚から生まれているケースが多く見られます。だからこそ、賃金面の手当てだけでモチベーション低下に対処しようとしても、根本的な解決にはなりません。賃金以外の要素にどれだけ丁寧に向き合えるかが、再雇用制度の運用の成否を分けます。

現役人事の立場から言えば、再雇用者から実際によく聞かれるのは「もう一度頼りにされている実感が欲しい」という声です。賃金への不満として語られていても、突き詰めると「役割が曖昧なまま放置されていること」への不満であるケースが少なくありません。

定年後を見据えた人事制度設計とは 5つのポイントを解説

再雇用後のモチベーション低下は、制度そのものよりも運用とのズレが原因になることが少なくありません。本資料では、高年齢者雇用安定法への対応を踏まえながら、人事制度をどのように見直すべきかを整理しています。

定年後を見据えた人事制度設計とは 5つのポイントを解説

リスク・落とし穴

リスク・落とし穴

この状態を放置すると、次のようなリスクが顕在化します。

技能承継の停止

モチベーション低下は、そのまま生産性低下・離職に直結します。再雇用者が培ってきた経験・技能が組織に承継されないまま退職してしまえば、現場にとって大きな損失です。

同一労働同一賃金のリスク

業務内容が変わらないまま賃金だけを引き下げると、法的リスクも抱えます。同一労働同一賃金ガイドラインは、定年後に継続雇用された有期雇用労働者であることが、待遇差を判断する際の事情の一つにはなり得るものの、それだけで待遇差が不合理でないと認められるわけではない、という考え方を示しています。

定年後再雇用者の待遇差が争われた名古屋自動車学校事件(最高裁令和5年判決)では、嘱託職員と定年前の正職員との基本給・賞与の相違について、最高裁が、それぞれの待遇の性質・目的を踏まえ、労使交渉の経緯なども含めて不合理性を判断すべきだとして、原審の判断を破棄し差し戻しました。「再雇用だから待遇を下げてよい」という単純な理由づけは、法的にも通用しにくくなっています。この事件で争われた賞与や、令和8年の改正ガイドラインで新たに記載が加わった退職手当についても、待遇の性質・目的に照らした説明が求められる点には注意が必要です。

若手・中堅社員への影響

「頑張っても最後はこうなってしまう」という将来への不安が、再雇用者本人だけでなく組織全体に広がっていきます。再雇用者の働きぶりを日常的に間近で見ている若手・中堅社員ほど、影響を受けやすい傾向があります。自社のキャリアの「行き着く先」として、無意識に映ってしまうためです。

上司・元部下側のマネジメント負担

再雇用者本人だけでなく、直属の上司・元部下側のマネジメント負担も見落とされがちです。元部下が上司として指揮命令を行い、評価する側に回る状況は、双方にとって扱いにくさを伴います。本音では「扱いにくいから、その分若手を採用してほしい」と感じている管理職も少なくありません。この感情を放置したまま「本人が頑張ればよい」という前提で制度を運用しても、現場の摩擦は解消されません。

運用のヒント

運用のヒント

ここまで見てきた課題は、いずれも再雇用が始まってから対処するのではなく、事前の設計段階で手当てできるものです。

面談で期待を言語化する

再雇用前の面談で「何を期待するか」を具体的に言語化し、目標設定に反映することが出発点になります。「今までと同じように頑張ってください」ではなく、期待する役割・成果を具体的に伝えることが重要です。可能であれば、面談は再雇用が始まる直前ではなく、定年の数か月前から複数回に分けて行うと、本人の意向も含めてすり合わせがしやすくなります。

面談を形骸化させないために

再雇用前後のすり合わせや期待の共有には、キャリア面談と日常的な対話の両方が重要です。

>「1on1とキャリア面談のハイブリッド化」をダウンロードする

権限・裁量を再設計する

役割変更に応じた賃金設計だけでなく、権限・裁量の再設計もセットで行うことが大切です。賃金を見直すのと同時に、「もう管理職ではないから」という理由で裁量や役割まで一律に取り上げてしまうと、本人にとっては賃金と裁量の両方を失う二重の喪失感につながります。一方、賃金だけを調整して役割や権限をそのままにしておくのも、前述したようなギャップを残す原因になります。管理職としての評価・処遇は見直しつつも、特定の顧客対応や技術的な最終判断権など、一部の裁量・役割を意図的に残す設計にできれば、賃金が下がったことへの納得感は大きく変わります。

フィードバックを維持する

定期的なフィードバックの仕組みを再雇用後も維持し、評価制度の対象から外さないことも欠かせません。評価がなくなること自体が「期待されていない」というメッセージとして伝わってしまいます。

多様な働き方の枠組みを用意する

本人の働き方の希望に添えるよう、短時間勤務など多様な働き方の枠組みを準備しておくことも有効です。フルタイムでの再雇用だけを前提にせず選択肢を持たせれば、本人が働き方を自ら選んでいるという納得感につながります。体力面や家庭の事情など、定年前とは異なる事情を抱える再雇用者は少なくありません。画一的な制度より、幅を持たせた設計のほうが実態に合いやすいでしょう。

後進育成の役割を付与する

再雇用者に「後進育成」としての役割を明確に付与し、経験を承継する意義を言語化することも効果的です。「今までの経験を、次の世代に引き継いでほしい」という位置づけは、本人にとって新たな存在意義になります。単なる業務の肩代わりではなく、育成という明確な役割を与えることで、本人の自己認識も変わっていきます。

上司・元部下側へのフォロー機会を設ける

直属の上司・元部下側にも、再雇用者との関わり方についてフォローの機会を設けることを忘れてはいけません。指揮命令や評価のしづらさは、上司側の率直な悩みでもあります。「扱いにくいから若手に置き換えたい」という本音を頭ごなしに否定するのではなく、関わり方の具体的なコツや相談窓口を用意することで、現場の負担感を和らげられます。本人への働きかけだけでなく、周囲の理解を育てることも、制度設計の一部です。

シニア人材の活躍を支えるには

シニア人材の活躍を支えるには、本人の意識だけでなく上司側の関わり方も重要です。

人事担当者向けにミドル・シニア人材の活性化施策として「上司」「本人」へのアプローチ方法を解説しています。

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まとめ

再雇用後のモチベーション低下は、「本人の意欲」の問題ではなく、多くの場合、制度設計・運用の課題が原因です。賃金・役割・評価のギャップを事前に把握し、再雇用前から設計しておくことで防げます。加えて、本人への働きかけだけでなく、受け入れる側の上司・同僚の理解を育てることも、同じくらい重要な設計要素です。

「再雇用すると、どうしてもモチベーションが下がってしまう」とあきらめる前に、事前にここを想定しておくとよいというポイントを、ぜひ今回のコラムからつかんでいただければと思います。

著者プロフィール

土田真吾 (チューンズ社会保険労務士事務所 代表)

土田真吾 (チューンズ社会保険労務士事務所 代表)

特定社会保険労務士(企業勤務)、キャリアコンサルタント(国家資格)、チューンズ社会保険労務士事務所 代表

学習塾を母体とする総合教育会社にて講師として勤務したのちに人事部へ異動。その後、人事の専門性を追求するため転職を重ねる。通常の人事業務に加え、人事制度企画や労務管理全般等、様々な業務経験を積む。現在は金融機関にて人事制度企画や法改正対応等に従事。2024年11月「チューンズ社会保険労務士事務所」を副業開業。現役人事担当者の強みを活かし「経営者・人事部・社員の気持ちがわかる社労士」として活動中。