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障がい者雇用の計画と準備に
障がい者雇用の採用の流れは、一般的な採用と大きな違いはありません。ただし、依頼する業務や職場環境を踏まえた人材要件の設定、面接時に確認すべき事項や安定的な就業のためのフォローアップ施策を考える必要があります。
障がい者雇用をする上で知っておきたい情報を資料に纏めています。ぜひご覧ください。
障がい者を採用し入社するまでの流れは、一般的な採用と異なる点または考慮しておきたいポイントがあります。本コラムでは、障がい者雇用の流れについて解説します。
障がい者雇用の流れは、大きく4つのステップに分けられます。
など
大きな流れは、一般的な採用と大差ありません。ただし、法律による企業の義務や努力義務や配慮すべき事項があります。また、障がい者雇用で重要なのは「定着」です。せっかく苦労して採用したのにすぐに辞めてしまった、という悩みは少なくありません。障がい者雇用を考えるときは、“入社後”までの施策を考えておく必要があります。
企業が知っておくべき基礎知識は、大きく2つに分けられます。
「障害者雇用促進法」は、障がい者の雇用の安定を確保する目的で制定された法律で、「障がい者」と「企業」の両方を対象にしています。
主な措置は、企業を対象とした雇用義務制度と納付金制度、障がい者を対象とした職業リハビリテーションの実施の3つです。具体的には、障がい者の法定雇用率、差別の禁止、合理的配慮の提供義務などが制定されています。
障害者雇用促進法については、「障害者雇用促進法の概要とは?企業が対応すべきこと、罰則まとめ」で詳しく解説しています。
企業には、障害者雇用促進法で定められた雇用率以上の障がい者を雇用することが「障害者雇用促進法」で定められています。
障害者雇用促進法では「障害者雇用率」というのが定められており、従業員数に対する一定の割合以上の障がい者を雇用しなければいけません。
現在の障害者雇用率(法定雇用率)は、以下のとおりです。
2023年3月時点の障がい者雇用率 | |
一般的な民間企業 | 2.3% |
国、地方公共団体など | 2.6% |
都道府県などの教育委員会 | 2.5% |
民間企業の場合、常用労働者数が43.5人以上の企業が対象となります。
また、障がい者の雇用人数が法定雇用率に達しなかった場合、納付金を納める義務が発生します。尚、この納付金支払い義務が課せられているのは、常用雇用の労働者が100人を超える企業です。
一方で、法定雇用率以上の障がい者を雇用している企業には、調整金または報奨金支払われます。
常時雇用している労働者が 100人超 |
常時雇用している労働者が 100人以下 |
|
法定雇用率未達の場合に 支払うべき納付金 |
不足人数 一人につき 5万円(月額) |
なし |
法定雇用率より多く雇用 している場合の調整金 |
超過人数 一人につき 2.7万円(月額) |
ー |
法定雇用率より多く雇用 している場合の報奨金 |
ー | 超過人数 一人につき 2.1万円(月額) |
常用雇用の労働者が43.5人以上の企業は、毎年6月1日時点の障がい者雇用に関する状況をハローワークに報告することが障害者雇用促進法で義務付けられています。
法定雇用率が達成できない企業で、一定の基準を超えてしまうと「雇い入れ計画作成命令」の作成と提出がハローワークから命じられます。
「障害者の雇用の促進等に関する法律施行規則」により、5人以上の障がい者社員が在籍する事業所は、障がい者の職業生活全般における相談・指導を行う者を選任する義務があります。
障害者職業生活相談員は、安定した就労ができるよう業務内容や環境の整備、会社で働く上でのルールなどの相談や指導を行います。
雇用人数が5名に達した3か月以内に選任し、ハローワークへ届け出ます。
参考:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構
障害者職業生活相談員について
合理的配慮とは、「障害者差別解消法」などの法律で定められているもので、障がい者が必要とする援助を提供し、障壁となっているものを取り払うことを指します。合理的配慮は、障がい者と企業が話し合いを行い、合意した上で決定します。
障がい者の意思が確認でき、企業の負担が大きすぎない範囲で努力することが合理的配慮です。これは、雇用した後だけではなく、採用活動時にも求められます。
障がい者雇用促進法でいう障がい者とは、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。) その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」のことを指します。
採用計画を立てるときに考慮しておきたいのが障害の種類です。オフィス環境や業務内容などを鑑み、人材要件やペルソナを設定します。
障害はさまざまありますが、大きく下記の4つに分類されます。
身体障害
身体機能に障害がある人のことです。視覚・聴覚・内臓などの障害や肢体不自由などが該当します。先天的に障害がある場合と中途障害といって、事故などで障害を負うケースがあります。身体機能が制限されるため、バリアフリーや点字など物理的サポートが必要です。
最近では、在宅勤務を条件にした募集も増えています。
精神障害
精神機能の障害です。うつ病や統合性失調症、パニック障害、高次脳機能障害などが挙げられます。服薬や生活リズム安定が重要なポイントで、業務実施においては手順書やルール作成、余裕のある依頼といった配慮が必要です。
知的障害
知的障害は、知的能力や適応能力に制限が出るもので個人差が大きな障害でもあります。よくある特徴としては言語コミュニケーションや状況に応じた対応が苦手といったものがあります。
発達障害
先天的な脳の機能障害です。自閉症スペクトラム(ASD)や注意欠如・多動症 (ADHD)、学習障害(LD)などが挙げられます。業務指示を具体的・視覚的・端的にすると受け取りやすいといった傾向があります。
注意したいのは、障がい者といっても見た目で判断できるとは限りません。また、障害の程度によっては、少し話をしただけではわからないこともあります。
この「一見わからない」が障壁とならないよう、社員の理解も障がい者雇用には欠かせません。どんな特性があるのか、必要な配慮は何か、一緒に働く上で心得ておいた方がいいことは何か、このような知識が障がい者雇用を成功させるポイントでもあります。
障害の種類別に考慮すべきことについては、下記の資料で解説しています。
⇒はじめての障がい者社員受け入れガイド【採用前準備編】をダウンロードする
<資料内容>
企業が果たすべき義務や障がい者への理解を深めたところで、採用計画を立てます。
まずは、障がい者の受け入れ先となる配属先を決定し、どのような業務内容を担当するのかを決定します。そのうえで、「どのような能力を持った人材が必要か」という要件を決定します。
障がいに配慮した業務配分(時間や作業量、納期など)をすることで安定した勤務と能力を発揮することにつながります 。
障がいのある人が、業務を遂行できる環境を整えるため、求職者本人の希望に基づいて「合理的配慮」を提供します。配属先や業務内容を決定する場合は、こちらも考慮しておきましょう。
ただし、企業側の負担が重くなってしまう場合もあるため、どこまでなら対応可能なのかを面接の段階で障がい者本人と話し合い、配慮の範囲について合意を得ておく必要があります。
「合理的配慮」の具体例としては、以下のような例が挙げられます。
労働内容に基づいて、雇用時間、給与などの条件を決定していきます。
週の労働時間が「20時間以上」あるいは「30時間以上」で実雇用率としてカウントすることが可能になるため、雇用率についても意識しながら労働条件を設定することが大切です。
自社で採用すべき人数を確定し、募集人数や入社時期などを確定させます。雇用率の計算については、厚生労働省の障害者雇用率制度について(PDF)をご覧ください。
一般的な採用と同様に採用フローを構築します。
採用フローを立てる上で注意したいのが、障がい者への配慮です。
一例
前述しましたが、障がい者雇用は定着施策がかかせません。業務を指導する社員の選定から定期的な面談の実施など、入社後のフォローアップも考えてきましょう。
障害の特性は、ひとりひとり異なるものです。業務習得のスピードや業務量など事前の想定と違うことも起きます。また、思わぬところで障がい者社員がつまずいている可能性もあります。
採用した社員がその業務を無理なく行えているか、業務は問題なく進んでいるかなどのフォローアップを行い、業務内容の難易度や対応する範囲を社員の能力や健康状態に合わせて変えるといった柔軟な設定を心がけてください。
マンパワーグループの特例子会社であるマンパワーグループ プラス株式会社では、多くの障がい者社員がさまざまな業務に従事しています。
マンパワーグループ プラス株式会社では、直属の上司との毎月の1on1ミーティングを実施しています。また、上司とのミーティングのほかに、入社後半年間は研修チームによるフォローアップ面談をおこなっています。
全ての障がい者社員が支援機関のサポートを受けており、何かあった際には人事や現場担当者が支援機関担当者に相談や当事者への第三者的フォローを依頼するなど連携することで定着率の向上を図っています。
フォローするのは障がい者社員だけに限りません。一緒に働く社員も悩みを抱えることがあります。重要なのは、受け入れ側の社員が障がい者に対して理解を深めることです。
見た目だけでは障がいがあるとわからない人もたくさんいます。障がいにはどのような種類があるのか、どのようなサポートが必要なのか、といった基礎知識は知っておきたいところです。
特に業務で接する社員は、一緒に働く障がい者社員の障がいの特徴を知っておく必要があります。知らないがために不要なストレスを抱えてしまい、双方が苦しい思いをしてしまうケースは実際に起こっています。任せっぱなしにせず、定期的に状況を確認する場を設けて、課題があれば解決に向けて一緒に動きます。
知識があれば避けられることもたくさんあるため、就業前や定期的な社員教育を積極的に行い、障がい者に対する理解を深めていきましょう。
障がい者採用の母集団からフォローアップまでのポイントまとめた資料をご用意しています。
⇒「はじめての障がい者社員受け入れガイド【採用~フォローアップ】」をダウンロードする
採用フローに沿って、募集の開始を行います。
募集にあたり求人票を作成しておきます。雇用条件や業務内容、選考方法などを明記します。
応募者が自身の障がいと業務や環境がマッチするかを判断する材料となるため、具体的に書くことを意識します。また、同じ業務に携わる障がい者社員がいるかどうかも示しておくとよいでしょう。
障がい者採用の母集団形成には、次の4つの方法が挙げられます。応募の状況を鑑みながらチャネルを選んでいきます。
民間の求人媒体(Webサイトなど)やハローワークで、障がい者採用枠として募集を行う方法です。求人媒体にもよりますが、一般採用とほぼ同様の募集内容になるため、「障がい者採用」とわかりやすく記載しておく必要があります。
自社サイトに「障がい者採用ページ」を掲載しておく方法もあります。他の方法と異なり、採用コストがほとんどかからないのが利点です。
「就労移行支援事業所」は障がい者の社会参加をサポートする国の社会制度、「特別支援学校」は心身に障がいのある子どもが通う学校です。これらの機関と提携し、人材採用に協力してもらうこともできます。
障がい者採用に特化した転職エージェントサービスを利用することで、障がい者採用を成功させている企業もあります。 転職エージェントを利用した場合、求職者の能力を客観的かつ正確に判断でき、求職者に対して直接質問しづらいポイントをエージェント経由で質問できる、などのメリットがあります。
ポイントは、応募者の障がいの特徴と配慮事項を確認し、業務とマッチしているかを見極めることです。同じ障がいでも個人ごとに異なる点が多いので、面接でのコミュニケーションは重要です。
また、面接時にも以下のような「合理的配慮」は求められます。
一例
面接官側もアイスブレイクを行う、回答するまでに時間がかかることがある、など理解した上で面接に臨みます。
企業側と求職者側に業務内容や労働条件、求職者側の身体機能に対する認識の食い違いが生じてしまうと、円滑な業務遂行が困難になるだけでなく、障がい者本人の心身、健康に支障が生じてしまうリスクがあります。面接の際は、「障がいの状況や特性、通院の頻度、服薬状況、家族や支援機関などサポートしてくれる人が身近にいるか」などを必ず確認するようにします。面接での確認事項、合理的配慮などについては下記の資料をご確認ください。
採用選考も業務に適した人材を見極めていくことになりますが、面接時に何が得意なのか、何が難しいのかを丁寧にヒアリングしていきましょう。
障がい特性により、集中力が保てる時間や集中できる環境、PCの入力スピード、理解できるまでの時間など、さまざま特徴があります。業務内容や職場環境を鑑みながら、丁寧にマッチングしていくことがポイントです。
ミスマッチ防止のために、事前に職場を見学してもらう方法もあります。障害によっては、光や音に敏感なケースもあります。実際に働く場所を知ってもらった上で、選考を進めるかを検討してもらうことで早期離職を防ぐ効果があります。
また、障がい者にとって通勤は大きく負荷がかかるものです。通勤経路に問題はないか、トイレは問題なく利用できる環境が整っているかなど、直接業務に関わらないが職場生活では必須な事項もチェックできます。
内定がでたら受け入れに向けた準備を開始します。
所属する部門長をはじめ、メンバーに事前に周知します。障がい者社員の同意を取った上で、障がいの状況や特性を伝え、配慮が必要な点などの認識合わせを行います。また、職場環境も整えていきます。
一例
障がい者社員が安心して働けるように緊急連絡先や災害などの緊急時の対応なども確認しておきましょう。
策定しておいた定着支援を実施します。所属部署と人事担当者が協力し、定期的な面談やそのフィードバック、課題の解決などを行います。また、就業後の数か月間は、ジョブコーチ(職場適応援助者)が職場に適応できるようサポートする制度もあります。(後述します)
外部のサポートなども活用しながら、障がい者社員の定着にむけて環境を整えていきましょう。
障がい者雇用を促進するにあたり、企業はさまざまなサポートを受けることができます。
障がい者採用に対しては、国や自治体から助成金などのサポートが受けられます。
代表的な助成金として以下のようなものがあります。
各助成金の詳細については、「【障がい者雇用】企業向けの助成金・給付金を紹介」で解説しています。
ジョブコーチ(職場適応援助者)とは、障がい者が職場に適応できるよう支援する有資格者です。ジョブコーチは、障がい者と職場の架け橋となり、企業に掛け合って働きやすい環境を整えたりするのが役割です。
障がい者自身には、業務習得からコミュニケーションのコツ、健康管理などをアドバイスします。企業に対しては、障がい者との関わり方や指導法、障がい特性を知った上での業務調整などアドバイスを行います。
ジョブコーチ支援は、無料で利用できるサービスで地域障害者職業センターに問い合わせを行います。
障がい者雇用を支える各種支援機関の一例をご紹介します。
「なかぽつ」「しゅうぽつ」と呼ばれる障がい者雇用全体の支援を行う機関です。問題が起きたときの相談を受けてくれ、然るべき支援機関を紹介してくれます。また、雇用管理のアドバイスなども行います。
就労を希望する障がい者に対し、必要な知識や技術を身に付けるためのトレーニングを行う施設です。企業側は、就労移行支援事業所と連携することで、自社にあった人材の要件設定などを相談しながら、マッチした人材を受け入れることができます。
地域障害者職業センターは、障がい者に対する専門的な職業リハビリテーションを提供する施設で、全国47都道府県に設置されています。ジョブコーチの派遣のほか、企業に対しては、雇用管理上の課題を分析し、事業主支援計画を作成、雇用管理に関する専門的な助言、援助などを行います。
障がい者を採用したいが依頼する業務の選定に難航している、募集を開始したが希望する層から応募がない、定着に課題がある、支援機関とどう連携していいかわからない、など障がい者雇用に関する課題をサポートしてくれるサービスがあります。
業務選定のポイントから法定雇用率達成に向けた施策、助成金の活用法、支援機関との連携サポートなど、障がい者雇用に特化したコンサルティングを行います。
障がい者に特化した人材紹介サービスを利用するのもおすすめです。障がい者に対する専門知識があり、業務に適した人材を紹介してもらえます。
専門知識をもった担当者が人材要件設定のアドバイスから入社までの採用活動をサポートしてくれます。合理的配慮を考慮した選考方法や面接で確認すべきことなど、専門家の意見を確認しながら採用を進めることが可能です。
障がい者雇用は、法令遵守の観点のみならず、企業のダイバーシティ、インクルージョンへの取り組みの一環と捉えて進めることが大切です。障がい者と一緒に働くことは、社員の考え方・価値観の幅を広げ、また障がい者への配慮が業務に対する工夫に繋がり、社会貢献だけではなく生産性の向上にもつながります。ぜひ積極的に障がい者雇用に取り組んでみてください。
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