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労働者派遣法は、過去に何度も改正が行われています。
その中には、派遣社員を受け入れる派遣先に関する事項もありました。
派遣先に求められる講ずべき措置について、わかりやすく解説した資料をご用意しています。ぜひご覧ください。
企業の人事担当者にとって関連する法律の知識は欠かせません。さらに毎年のように法改正が行われるため、情報のキャッチアップも大切です。
2022年も多くの改正が行われましたが、引き続き2023年も改正が予定されています。本記事では、人事担当者にとって必要となる法律の改正情報や企業が求められている対応について解説します。
2023年に予定されている改正として、賃金に直接影響を与えるものがあります。この場合、就業規則や賃金規程などの変更が必要となると考えられるため、できる限り早めの準備が肝要といえます。早速、法改正をチェックしていきましょう。
大企業では2010年4月から改正が行われている時間外労働の割増賃金率の引き上げについて、2023年4月以降は中小企業に対しても義務化されます。
そもそも労働基準法(以下、労基法)においては、1日8時間・1週40時間などの「法定労働時間」を超過して労働をさせた場合、会社が賃金を割増して支払うことを義務付けています。
2010年の法改正により、すでに大企業においては「1か月60時間以下の超過時間は25%以上の割増、1か月60時間を超える超過時間は50%以上の割増」が必要とされています。ただし中小企業においては適用が猶予され、割増率は一律に25%以上と定められていました。
この割増率について、2023年4月1日以降は中小企業においても60時間を超える超過時間では50%以上が必要となります。
出典:月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省(PDF)
賃金の計算方法は、労基法により就業規則に必ず記載しなければならない項目(絶対的必要記載事項)とされているため、就業規則または賃金規程などに割増率が記載されています。
今回の改正により、多くの中小企業ではその割増率を50%に変更しなければならないため、就業規則または賃金規程などの記載の変更が必要になるでしょう。
その場合、常時10人以上の従業員がいる会社では、変更後の就業規則を所轄の労働基準監督署に届出しなければならず、従業員の意見書を添付する必要がありますので、あわせて早めに手配することをおすすめします。
また従業員を採用する際、労基法により労働条件を書面で明示することも義務付けられているため、労働条件通知書のフォーマットなどを作成している会社もあると思います。その場合は労働条件通知書のフォーマット変更も忘れずに行いましょう。
実際の賃金計算においては「賃金計算ソフト」の設定変更などが必要です。誤って適用前の割増賃金率で支払ってしまった場合、賃金の未払いが発生することになり、労基法第119条により「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」の対象となることも考えられますので十分注意してください。
参考:
採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。|厚生労働省
就業規則を作成しましょう|厚生労働省(PDF)
今回の改正は「法定労働時間」を超過した場合の割増賃金率の引き上げです。
例えば、週に1日しかない「休日(法定休日)」に労働した場合は含まれません。法定休日に労働した場合は、以前と変わらず35%以上の割増率とされているため、時間外労働とは別に考える必要があることに注意しましょう。
出典:月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省(PDF)
割増賃金率の引き上げは、長時間労働をできる限り防ぐための措置と考えられます。時間外労働に対する割増賃金を支払えば済むということではなく、体を休める措置を講じることも大切です。
今回の改正では、長時間労働の代わりに「休暇」をとることができる制度(代替休暇制度)も設けられています。代替休暇制度は義務ではありませんが、従業員の健康を確保するための制度として設けることも考えてみる価値はあるでしょう。
代替休暇制度を導入する場合は以下の事項について労使協定を結ぶ必要があるため、早めの準備が必要です。
残業過多の状態は、人件費・社員のモチベーション低下・健康不安など様々な問題を引き起こしやすくなります。
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2023年4月から、賃金のデジタル払いが解禁されることになりました。
「賃金のデジタル払い」についてざっくりとお伝えすると「賃金が○○PAYなどで支払われる」と考えるとわかりやすいでしょう。
そもそも労基法第24条第1項では、賃金は「通貨(現金)」で支払うことが原則とされています。ただし、これまでも労働者が同意した場合には例外として、銀行口座などに振り込みで支払うことが認められていました。
その例外に、○○PAYなどの「資金移動業者」の口座があらたな選択肢として加えられることになりました。
なお、現金化できないポイントや仮想通貨などでの振り込みは認められていません。
参考:
資金移動業者の口座への賃金支払について|厚生労働省(PDF)
資金移動業者登録一覧|金融庁(PDF)
※資金移動業者登録一覧に記載のある業者の全てが厚生労働大臣の指定を受けるとは限りません
賃金のデジタル払いを行うためには、労使協定の締結を行ったのちに個々の労働者の同意を得ることが求められています。
厚生労働省から同意書の様式例が案内されているため、参考にすると良いでしょう。
参考:資金移動業者口座への賃金支払に関する同意書(参考例)|厚生労働省(PDF)
厚生労働大臣の指定を受ける資金移動業者には、以下のような要件が課せられています。
法改正は2023年4月に行われると決定しましたが、資金移動業者が厚生労働大臣の指定を受けるための申請が可能となるのも2023年4月からとされているため、実際に賃金のデジタル払いが可能となるのは、少なくともその数か月後になると見込まれます。それまでの間に会社として、労働者の意向を確認しておくなど対応を検討しておくとよいでしょう。
参考:資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について|厚生労働省
育児介護休業法は、2022年4月1日から大きく3段階に分けて法改正が行われてきました。
1段階目として、2022年4月1日施行では、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備や、育児休業制度などの個別周知および意向確認の義務化のほか、有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和が行われました。
2段階目として2022年10月1日施行では、産後パパ育休の創設や、育児休業の分割取得が可能となりました。
そして3段階目として2023年4月1日施行では、育児休業取得状況の公表が義務化されることになります。
参考:
育児・介護休業法 改正ポイントのご案内|厚生労働省(PDF)
育児・介護休業法 令和3年(2021年)改正内容の解説|厚生労働省(PDF)
義務化される公表内容とは、男性の「育児休業の取得割合」または「育児休業などと育児目的休暇の取得割合」です。
育児休業の取得割合や、育児休業などと育児目的休暇の取得割合は、下記の計算式に基づき算出します。
今回の改正で対象となるのは常時使用する労働者が1,000人を超える会社に限られるため、1,000人以下の会社については対応が不要です。ただし、今後人数要件が変更されることも十分に考えられますので、準備をしておいても良いでしょう。
公表方法は、自社のホームページなどのほか、厚生労働省が運営するWEBサイトである「両立支援のひろば」にて公表できます。
なお、年1回公表することになるため、毎年集計が必要です。
労働人口は不足しています。企業の人材採用難は続いており、これまで以上に女性が活躍できる環境の整備がキーとなります。
特に女性管理職の少なさは、諸外国と比べて日本は突出しており、対策が求めらています。
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今回は2023年に施行が確定している法律について解説しましたが、その後も法改正が予定されているため、簡単に解説します。
これまで猶予されていた建設事業・自動車運転の業務・医師についても、時間外労働の上限規制が適用される予定です。
例えば建設事業においては、災害の復旧・復興の事業を除き、原則として上限規制がすべて適用されます。その場合、2024年4月1日以降に締結する36協定においては、原則として時間外労働については月45時間・年360時間が上限となり、臨時的な特別の事情(以下、特別条項)に該当しても、「年720時間」および「1か月の時間外労働と休日労働の合計が100時間未満」などの上限が適用されることになります。
また自動車運転の業務の場合は、特別条項に該当した場合の上限が年960時間とされているなど、それぞれの事業により猶予後の取り扱いが異なります。上限を超えることのないように、今からでも働き方を変える準備が必要になるかもしれません。
参考:
自動車運転者の労働時間等の改善のための基準の一部を改正する件案の概要|厚生労働省(PDF)
準備は進んでいますか?2024年(令和6年)4月1日から自動車運転の業務にも上限規制が適用されます!!|千葉労働局(PDF)
医師の時間外労働規制について|厚生労働省(PDF)
出典:時間外労働の上限規制わかりやすい解説|厚生労働省(PDF)
社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金保険)に関するパート・アルバイトなどの加入について、2022年10月から「従業員数101人以上の企業」に適用範囲が拡大されたばかりですが、2024年10月からは「従業員数51人以上の企業」にさらに拡大されることが決まっています。
これまでは加入対象ではなかったパート・アルバイトの方々も、以下の要件に該当する場合、2024年10月以降は社会保険に加入しなければなりません。
特に、これまで配偶者の扶養として保険料を負担することのなかった方々にとっては、加入するメリットについて理解はできるものの、保険料の負担をデメリットに感じる場合もあるでしょう。社内で周知を行うなど、今のうちから準備しておくことをおすすめします。
雇用保険の給付である「高年齢雇用継続給付」についても改正が予定されています。
現在の高年齢雇用継続給付の支給要件は「被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の労働者が、60歳以後に支払われる各月の賃金が原則として60歳時点の賃金額の75%未満の場合、65歳になるまでの期間は各月の賃金の最大15%を支給する」というものです。
この給付が2025年4月以降「15%→10%」に縮小されます。
給付率 | 補足 | |
---|---|---|
2003年改正以前 | 賃金の原則25% | 賃金と給付額の合計が60歳時賃金に比して └ 80-85%:給付額は逓減 └ 85%以上:支給しない |
2003年改正 | 賃金の原則15% | 賃金と給付額の合計が60歳時賃金に比して └ 70.15-75%:給付額は逓減 └ 75%以上:支給しない |
2020年改正 (2025年4月施行) |
賃金の原則10% | 賃金と給付額の合計が60歳時賃金に比して └ 70.4-75%:給付額は逓減 └ 75%以上:支給しない |
少子高齢化の進展などもあり、これまで高年齢雇用継続給付は働き手を確保するための給付としての意味もありましたが、近年では65歳以降まで働くことが珍しくなくなったことで、その役割も変わろうとしています。
国は助成金の支給などにより高齢者の活躍を後押しする制度を設けています。今後は、定年の引上げや廃止なども含め、さらに高齢者が活躍できる会社作りが求められているといえるでしょう。
参考:
高年齢雇用継続給付の見直し|厚生労働省(PDF)
高年齢者雇用安定法の改正の概要|厚生労働省(PDF)
今後予定されている法改正は、賃金をはじめとして会社の方針や経営に影響を与える改正が多いといえます。
割増賃金率の増加は、長時間労働の削減を含めた働き方そのものの改革が求められるかもしれません。賃金のデジタル払いは、特に外国人や若年層を採用したいと考えた場合、導入する価値は十分にあるでしょう。高年齢雇用継続給付の縮小については、高齢者雇用における賃金設定について根本から見直す必要があるでしょう。
各改正に対応するためには、まず自社の方針の検討が必要です。その上で、就業規則や賃金規程などの社内ルールの整備を行うことになります。各改正の施行日を確認した上で、早めに準備に取り掛かることをおすすめします。
法律の改正は人事担当にとっては頭の痛いことだと思います。ただ、変化に対応することで、採用や雇用継続において大きなチャンスになることも考えられます。重要な情報を早めにキャッチし、専門家への確認を挟みながら、必要な対応を行っていきましょう。