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最低賃金は、最低賃金法によってその枠組みと原則が定められています。
毎年、都道府県ごとに10月1日以降を目途に見直されるため、更新の見落としや複数拠点での発効日の違いによる給与マスタの更新漏れなど、ごく小さな運用ミスがきっかけで最低賃金割れが発生する例も少なくありません。
また、最低賃金法の理解が不十分だと、所定内賃金の取り扱いを誤り、結果として最低賃金を下回る法令違反を招く可能性があります。労働基準監督署からの是正勧告や50万円以下の罰金、さらには過去3年分の差額を支払うといった大きな問題に発展する場合もあるため、正確な運用が必要です。
本記事では、最低賃金法の基本的な仕組みから具体的な計算方法、よくあるトラブル事例などを解説します。

ここでは、最低賃金法の基本事項を整理します。
最低賃金法とは、賃金の最低限度を定め、使用者に対しその金額以上の賃金を支払うことを義務付けた法律です。
最低賃金法の第一条には、目的として以下のように記載されています。
第一条 この法律は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
本法律は雇用形態を問わず、すべての労働者に適用されます。
例:
仮に労働者と使用者が合意の上で最低賃金より低い金額を設定したとしても、契約は法律上無効となります(強行規定)。無効となった場合、使用者は最低賃金額との差額を支払う義務が生じます。
なお、最低賃金の対象となる賃金は、所定内給与の基本給と通勤手当や家族手当などを除いた諸手当をあわせた額です。

最低賃金に含まれるもの・含まれないもの
| 含まれる | 含まれない |
| 基本給 | 通勤手当 |
| 職務手当 | 家族手当 |
| 役職手当 | 時間外手当 |
| 賞与 |
最低賃金は、公益代表・労働者代表・使用者代表で構成される「中央最低賃金審議会」において目安が示されます。
この審議会で示された目安の最低賃金は、次に各都道府県にある「地方最低賃金審議会」に持ち込まれ、地域の実情にあわせて慎重な審議がおこなわれます。
審議を経て、最終的には各都道府県の労働局長の判断によって最低賃金額が確定するのが一般的です。
近年では毎年更新されており、多くの地域で10月に発効されていますが、地域によっては11月や12月に発効される場合もあるため、自社の事業所が所在する都道府県の発効日を必ず確認しましょう。

最低賃金には、大きく分けて「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類があります。
企業は、自社の事業所や従業員がどの最低賃金の対象になるのかを正確に把握し、適切な賃金設定をおこなわなければなりません。
ここでは、2種類の最低賃金の違いと実務上の留意点について解説します。
地域別最低賃金とは、産業や職種に関係なく、各都道府県内のすべての労働者と使用者に適用される基本的な基準です。
毎年10月以降に金額の改定がおこなわれるため、企業はこの時期にあわせて全従業員の時給や給与が基準を下回っていないか確認します。
仮に改定後の金額を下回っている場合は、直ちに賃金の引き上げをおこなわなければ法律違反となるため注意が必要です。
なお、最新の地域別最低賃金を把握したい方は厚生労働省のホームページを参照してください。
引用:令和7年度 地域別最低賃金 全国一覧|厚生労働省 ![]()
最低賃金制度|厚生労働省
特定最低賃金とは、特定の産業に対して設定される最低賃金です。
これは地域別最低賃金よりも高い水準の賃金が必要と判断された産業に適用され、より高い金額が設定されています。
ただし、18歳未満や65歳以上の方、雇入れ後間もない技能習得中の方などは、例外的に適用除外となる場合があります。
まずは、以下の厚生労働省のホームページから、自社が特定の産業に含まれるかを確認しましょう。
地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される労働者の場合、高い方の金額以上の賃金を支払う必要があります。
これは労働者を保護する観点から、より有利な条件を適用するという原則にもとづいています。
また、派遣社員の場合は、派遣会社の所在地ではなく、派遣先の最低賃金が適用される点に注意が必要です。派遣会社は派遣先の地域ごとに異なる最低賃金を把握し、適切な時給設定をおこないましょう。
また、一部の労働者については、都道府県労働局長の許可を受けた場合に限り、特例的に最低賃金の減額が認められるケースがあります(精神・身体の障がいにより業務遂行に著しい支障がある方など)。
関連記事:障がい者雇用の助成金・給付金一覧|金額と条件を紹介
地域によって最低賃金が異なる理由は、地域ごとの物価や賃金水準、企業の標準的な賃金支払い能力を考慮して決定されるためです。
東京や大阪などの大都市圏では、家賃や物価などの生活コストが相対的に高いため水準も高くなります。
最低賃金審議会では、地域の実情を踏まえて、各都道府県の適切な最低賃金額を決定しています。
関連記事:派遣料金の相場はどうやって決定する?影響する項目を解説

最低賃金の引き上げに対応する企業を支援するため、国は業務改善助成金を用意しています。
業務改善助成金とは、事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げ、かつ設備投資などをおこなった中小企業に対して費用の一部を助成する制度です。
事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が一定の範囲内にある事業所が対象となります。
支給を受けるための要件は、以下の5点です。
支給を受けるには、賃金引き上げ計画と生産性向上投資の計画を策定し、交付決定後に計画どおり実施のうえ実績を報告する必要があります。
助成額は、賃金引き上げ額や対象労働者数によって異なるため、詳細は厚生労働省のWebサイトなどを確認してください。
働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)は、中小企業事業主の団体やその連合団体など、3社以上で構成される事業主団体が対象となる助成金です。労働者の労働条件改善を目的に、労働時間短縮・賃金引き上げのための取り組みを実施した場合に助成金を受けられます。
この助成金の特徴は、個別企業ではなく事業主団体を対象としている点です。業界団体や商工会議所などが主体となって、傘下の中小企業の労働環境改善を推進する際に活用できます。
申請期間は例年4月から11月となっており、予算の関係上、締め切りが早まる可能性があるため注意が必要です。
働き方改革推進支援助成金は、毎年実施されているため、今後も実施される可能性は高いと考えられます。
ただし、支給要件や助成額など内容に変更がある可能性も考慮して、申請を検討する際は厚生労働省のウェブサイトで最新情報を確認しましょう。
関連記事:採用・雇用時にもらえる助成金の各支給要件・支給額を解説

最低賃金は毎年10月1日から適用されることが多いため、そのタイミングで確認することが重要です。
賃金形態によって計算方法が異なるため、自社の賃金制度にあわせた正しい確認方法を理解しておく必要があります。
以下、主な賃金形態ごとの確認方法を解説します。
日給制の場合、以下の計算式で最低賃金を下回っていないか確認します。
日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額
日給制の場合は、「日給 ÷ 1日の所定労働時間」で算出された金額が、最低賃金の時間額以上かを確認します。
具体的な計算例は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
| 日給 | 8,000円 |
| 職務手当 | 家族手当 |
| 役職手当 | 時間外手当 |
| 1日の所定労働時間 | 7.5時間 |
| 時間単価(日給 ÷ 所定労働時間) | 約1,067円 |
この金額が、適用される最低賃金額を上回っているかどうかを確認します。
もしシフト制などで日によって所定労働時間が異なる場合は、原則としてその日の時間数で計算します。
週給制の場合、以下の方法で計算しましょう。
週給 ÷ 週の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
週給制の場合は、「週給 ÷ 週の所定労働時間」で算出された金額が、最低賃金の時間額以上である必要があります。
具体的な計算例は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
| 週給 | 40,000円 |
| 週の所定労働時間 | 40時間 |
| 時間単価(週給 ÷ 所定労働時間) | 1,000円 |
この計算により導き出された時給換算額が、地域別最低賃金の金額を下回っていないかを必ず確認してください。
月給制の場合は、以下の計算式です。
月給(対象とならない手当を引いた額)÷1ヶ月の平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
たとえば年間休日が120日、1日の所定労働時間が8時間の場合、具体的な計算例は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
| 年間休日 | 120日 |
| 1日の所定労働時間 | 8時間 |
| 1ヶ月の平均所定労働時間 | 約163.3時間 |
| 1日の所定労働時間 | 7.5時間 |
| 月給(対象にならない手当を除く) | 200,000円 |
| 時間単価 | 約1,225円 |
月給が20万円(対象にならない手当を除く)の場合、時間単価は約1,225円となり、この金額が最低賃金を上回っているか確認します。
ここで重要なのは、「対象にならない手当を引いた額」で計算するという点です。対象にならない手当には、以下の内容が含まれるため注意しましょう。また、結婚祝金などの臨時に支払われる賃金や、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)も計算の対象から除外されます。
| 最低賃金の算出に含まれる手当の一例 |
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| 最低賃金の算出に含まれない手当の一例 |
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出来高制の場合、以下の計算式で最低賃金を下回っていないか確認します。
出来高払制その他の請負制によって支払われた賃金の総額 ÷ その期間の総労働時間 ≧ 最低賃金額
歩合給や請負制などの出来高払い制の場合でも、労働時間に対する最低賃金の保障は必須となります。もし、成果が上がらなかった場合でも、労働時間に応じた最低賃金は保障しなければなりません。
たとえば、1ヶ月の歩合給が15万円、総労働時間が160時間の場合、以下のような計算になります。
| 項目 | 内容 |
| 歩合給 | 15万円 |
| 週の所定労働時間 | 160時間 |
| 時間単価(週給 ÷ 所定労働時間) | 約938円 |
この金額が最低賃金を下回る場合、差額を別途支払う必要があります。
関連記事:年俸制導入のポイント|給与支払い時の誤解や、トラブル防止策を解説

最低賃金法に関するトラブルは、意図的な違反だけでなく、計算ミスや制度理解不足によって発生することも多くあります。
ここでは、企業で発生しやすい最低賃金に関する3つのトラブル事例と対策について解説します。
地域別最低賃金は原則として毎年10月頃に改定されますが、都道府県ごとに発効日が異なるため、更新を見落としてしまうケースがあります。
とくに、給与計算ソフトの設定変更漏れや、現場の店舗責任者に改定情報が伝わっていないといった事態が発生しやすいでしょう。
もし、改定前の時給のままで給与計算をおこなってしまい、最低賃金よりも1円でも下回っていれば法律違反となり、遡って差額を支払わなければなりません。
毎年秋の改定時期には、必ず最新の情報を入手し、社内の給与マスタや雇用契約の内容を一斉に見直すフローを確立しましょう。
最低賃金の対象にならない手当を誤って含めて計算し、法的には基準を下回っている状態になってしまうミスもよく見られます。
たとえば以下のような手当は最低賃金の計算からは除外されます。
所定内給与の部分だけで最低賃金をクリアしている必要があるため、手当の仕分けには十分注意しましょう。

正しく計算するためには、該当する手当の種類を正確に把握し、チェックリストを作成して確認するとよいでしょう。
固定残業代(みなし残業代)は、あくまで時間外労働に対する対価であり、最低賃金の計算に含められません。
たとえば、基本給18万円+固定残業代2万円で月給20万円という設定の場合、最低賃金の計算には基本給18万円のみを使用します。
固定残業代を除いた金額が最低賃金を下回っている場合、その制度自体が無効と判断される可能性があります。無効と判断されると、罰則や未払い残業代請求のリスクにもつながるため、十分な注意が必要です。
固定残業代制度を導入している企業は、固定残業代や対象外の手当を除いた金額で最低賃金を上回っているかを必ず確認してください。
関連記事:みなし残業制度とは?メリットや違法リスク、適切に導入するポイントを解説

ここでは、最低賃金法に関するよくある質問について解説します。
派遣社員も最低賃金の対象となりますが、派遣社員の給与を決定するのは派遣会社です。適用されるのは派遣会社の所在地ではなく就業先都道府県の最低賃金です。
たとえば、派遣会社が神奈川県にある派遣会社が、東京都の企業に派遣社員を派遣した場合、東京都の最低賃金が適用されることになります。
最低賃金の上昇により、派遣社員の時給を変更する必要が出てきた場合、派遣会社より派遣料金の改定を相談されることはあります。
関連記事:正社員・パート・派遣の違いを徹底比較|業務や人件費に応じた最適な雇用形態の選び方
原則として、試用や研修の期間中であっても、最低賃金以上の金額を支払う義務があり、勝手な減額はできません。
ただし、都道府県労働局長の許可を受けた場合に限り、最大20%の減額率が適用できる「最低賃金の減額の特例」制度があります。この特例が適用されるのは、精神または身体の障がいにより著しく労働能力が低い方や、試用期間中の方などが対象ですが、実際に許可が下りるケースは限定的です。
基本的には研修期間中、安易に最低賃金以下の時給を設定することはできないので注意しましょう。
関連記事:試用期間とは|待遇・保険・解雇など設定の注意点をわかりやすく解説
最低賃金改正に伴う給与変更は、賃金が下回っていないかの確認も含め、以下のような対応が求められます。
パート・アルバイトが多い企業では、対象者が多数となることが多く、早めに準備を始めることが重要です。
最低賃金を下回っていたことが判明した場合、労働者との合意があったとしてもその賃金契約は無効となり、差額を支払う義務が生じます。
速やかに不足分を計算し、過去に遡って差額を精算・支給することで、コンプライアンス違反の状態を解消しなければなりません。
次に、なぜ違反が発生したのか原因を分析し、再発防止策を策定しましょう。
もし、最低賃金を下回っていた状態が悪質な場合や是正勧告に従わない場合は、50万円以下の罰金等の罰則が科される可能性があるため、迅速かつ誠実に対応しましょう。
最低賃金は毎年改定されるため、基準を下回っていないかの確認は定例業務として組み込む必要があります。改定を前提に、確認手順や責任範囲を明確にした運用フローを整備することが重要です。
地域別最低賃金は主に10月頃、特定最低賃金はその後に発効することが多いため、双方の改定時期を見据えた管理が求められます。
「気づかなかった」「設定変更を忘れていた」「計算方法を誤認していた」といった人的ミスを防ぐには、担当者任せにせず、組織としてチェックできる仕組みを構築することが不可欠です。
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