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近年、国籍を問わず日本人と同じ採用基準で、外国籍の人材の選考・採用を行うという企業が出てきました。業務に必要な技術や経験があれば、国籍は問われません。むしろ多様な価値観による柔軟な発想や困難な課題解決を期待する企業が増えています。
ここでは「グローバル採用」をテーマに、その特徴やメリット・デメリット、成功させるポイントについて具体例をまじえながら解説します。
グローバル採用とは、「国籍を問わない採用」のことを指します。近年、オンライン化の発展に伴い、グローバル化がますます加速する中でグローバル採用は必須となりつつあります。
「国籍を問わない採用」とは、「日本以外の国籍を持つ人材を採用すること」を意味します。近年、企業の事業展開がグローバル化する流れの中で、マーケットも顧客も海外まで広がり、ニーズの把握や新サービス・新プロダクトの開発は一つの国に留まる画一化した価値観だけでは対応できなくなってきています。
このような課題と向き合うために、外国籍の人材採用に踏み切るケースが少なくありません。多様な人材の採用による多角的な視点や新たな発想を期待できるためです。
海外の現地法人で外国籍人材を現地採用するケースもあります。日本における外国籍人材の採用との違いは、現地に合わせた報酬などの条件設定、採用要件・評価制度などの設計・構築をできることです。現地の市場感や風土に合った採用が実現します。
近年グローバル採用が注目される背景を解説します。
日本の少子高齢化に伴う労働人口が減少しているため、外国籍人材の労働力は必須となりつつあります。日本で就労している外国籍人材は過去最高の約173万人です。
中でも、外国籍人材(労働者)全体における製造業従事者の割合は27%、卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業の合計は25%を占め、日本の製造業・サービス業における重要な担い手となっています。
出典:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ (令和3年10月末現在)|厚生労働省 (PDF)
IT系など専門スキルのある人材は、近年拡大する採用ニーズに、日本人の採用だけでは追いついていません。特に、AI開発やデータサイエンスなどの領域において、日本は海外に後れを取っていると言われており、人材育成が進んでいない中でさらなる人材不足が予測されます。
そのため、国籍の壁を取り払い、世界中から優秀な専門性を持つ人材の獲得に向けて動き出す企業が増えています。
企業のグローバル化において、海外展開を担える人材の採用は必須です。日本人だけで国外事業を推進するケースもありますが、それではプロジェクトが立ち行かなくなることがあります。現地のビジネス事情や風土・国民性の理解が欠かせないからです。
また、現地企業や要人とのパイプがあるかなども、事業を発展させていくには重要な要素となります。現地の事業展開に精通した外国籍人材の採用を行うことで、海外進出を加速させられます。
日本の国際競争力を高めることを目的に、産学官でのグローバル人材育成が政府から提唱されています。グローバル採用をすることで、インバウンド事業の拡大や新たな事業創出など、国際競争力の向上につながるでしょう。なぜなら、多様なバックグラウンドを持つ同僚・取引先・顧客などが今後増えると予測される中で、外国籍の人材に活躍してもらうことは、語学力の壁、文化・価値観の壁を乗り越える機会になるからです。
また、外国人留学生の採用や育成によって優秀な人材の獲得にもつながります。採用難が続く中小企業にとっても、有効な採用方法のひとつとして企業の将来的成長が期待できるでしょう。
ここでは、グローバル採用におけるメリット・デメリットを整理してみましょう。
まずは3つのメリットです。
海外拠点の立ち上げや海外市場の拡大を図る際、現地に精通した人材がいることで、ビジネスの進行や取引が格段とスムーズです。特に事業を加速化せていくフェーズや、立ち上げ時のパワーがいるタイミングには大きなメリットが得られます。
外国籍人材の採用により、インバウンド事業の加速化やオンラインを通じた世界各国に向けた発信など、日本を拠点に置きながらグローバルを視野に入れた事業の展開ができます。日本国内の人口が減少する中、海外に視野を広げることでマーケットは格段と広がります。
近年、IT技術の進化とともに事業が複雑化・多様化していく中で、過去の経験や同一の価値観だけでは事業の成長を遂げることは難しくなっています。
多様な人材の採用によって、新たな価値観が生まれ、多様なアイデアの創出やビジネス革新、既存組織の意識改革などのメリットをもたらします。
グローバル採用の3つのデメリットを挙げます。デメリットを良く理解して事前に対策しておかなければなりません。
外国籍人材の採用においては、まずは「人材募集をする」必要があります。採用を開始するためには採用計画の設計が重要です。
などの採用計画を練り、人材獲得のための活動を実施します。また実際に内定を通知した際、在留資格(就労ビザ)の申請なども必要です。採用から雇用に至るまでの手続きを行います。これら一連の業務は手間と労力がかかることを念頭に置き、余裕を持ったスケジュールで計画を実行しましょう。
外国人人材を投入し、多様な価値観を受け入れることで、事業変化や組織変化が生み出せる可能性があります。その反面、価値観の違いや風土の違い、言語の壁がかえって組織に混乱を生じさせる可能性もあることは否めません。
入社後の混乱を最小限にするためにも、事前に言語の壁への対応方法、人事制度の構築、組織体制の検討など、異なる価値観や文化の受け入れに向けた体制の整備などを検討しておく必要があります。
採用初期は、外国人人材の混乱が生じやすくなるため、すぐに活躍してもらうことを過度に期待しすぎないほうが良いでしょう。
しかし、業務のやり方や職場の風土、人間関係にうまく適合できるようになれば、多様な価値観の相乗効果が生まれやすくなります。そのため、日本人の採用よりも育成・風土との融合に時間をかけて注意深くフォローをしなければなりません。
人材育成・研修は通常の入社時研修以外に、外国籍人材向けの研修カリキュラムを用意するなどひと手間かけて行う必要があります。
グローバル採用を成功させるためのポイントは、大きく二つです。
通常の日本人採用(中途採用)の選考においては、スキルレベルと人物のジャッジ(風土や組織とのマッチ度の見極め)が重要な要素です。
しかし、グローバル採用においては、「異なる文化への柔軟性(異なる文化や価値観に対しての考え方や捉え方など)」の見極めも大切なポイントです。この柔軟性が外国人人材にあれば、入社当初に混乱が生じても早期に風土や組織に馴染んでいけます。
コミュニケーション力は、単に言語(英語や日本語)能力があるというだけでなく、非言語(ルールやマナー、ボディランゲージ、交渉術など)能力も欠かせません。伝えたいことを、言語や文化・価値観が違う中で伝えられる力が問われます。
また、言語力についても世界標準のビジネス会話レベルへのスキルアップが求められます。これらのグローバルコミュニケーションの育成は、入社後においても重要なポイントです。
では、実際にグローバル採用を導入するにはどのような流れで進めていけばよいのでしょうか。
まず求める人材はどのような人材かを明確化します。
などを具体的に設定します。
求める人材にどのような方法でアプローチできるかを調べます。採用手法を決め応募者を確保することが採用のスタートです。具体的な採用手法についてはこの後に紹介します。
応募者が確保できたら、次は選考に進みます。求職者が応募した後、すぐに選考に進んでもらうためにも、事前に選考内容を決めておく必要があります。また、選考の中で現在の在留資格と在留期限の確認や、学校の専攻内容・職務内容から就労ビザの取得が可能かを確認することも重要なポイントです。
選考内容においては、(日本在住者でない場合など)面接は現地で行うのか、もしくはオンラインで行うか、またその際の交通費はどうするかなど細かな部分も決めておく必要があります。選考の中で筆記試験や語学チェックなどを行うケースもあるため、実施する場合はどのタイミングで行うかなども設計しておくとよいでしょう。
採用時には、外国人人材が理解できる言語での雇用契約書もしくは労働条件通知書などを作成し、業務内容や条件面など互いの齟齬がないようにしておくことが重要です。また、この書面は在留資格(就労ビザ)の申請において提出が必要になるため、書面にて作成します。
就労ビザの申請もしくは就労資格証明書交付申請(すでに日本で働いている場合)のサポートが必要です。在留資格の変更などの手続きは複雑で時間もかかるため時間的余裕を見ておきましょう。
また、同時に入社後の受入組織や体制、また入社後の研修についても事前に設計します。オンボーディング含めてできるだけ手厚くフォローできる体制と研修を用意しておくとよいでしょう。
外国籍の人材にアプローチする手法(募集方法)について説明します。
外国籍人材の人材派遣・人材紹介サービスはここ数年で大きく増加しています。求める要件にマッチした人材の人選は、人材派遣会社や人材紹介会社が実施してくれるため、ある程度求める人材にマッチした方の紹介が期待できます。
また、在留資格の申請などの支援やアドバイスをくれる企業もあり、外国籍人材の採用にかかわる有益な情報が得られるのもメリットです。
外国籍人材に特化した求人サイトがあるため、サイトへの求人広告の掲載で日本での就業を希望する顕在層の人材に広くアプロ―チできます。一方でマッチしない人材のエントリーもあるため、求人広告を通じたアプローチは採用効率面においては課題もあります。
SNSなどを通じて外国籍人材に直接アプローチする手法もあります。海外にも展開されているSNSを通じて、直接アプローチすることで採用市場に出てこない潜在層にもアプローチができます。
日本在住の外国人同志はつながりがあることも多く、コミュニティのつながりから広げていく方法や、リファラル(社員紹介)の促進など、つながりを通じた採用も有効な手段です。採用コストを抑えられることが大きなメリットです。
外国人学卒者を採用する場合は、大学や専門学校へのアプローチも有効です。比較的、採用コストもかからないため、手掛けやすい採用方法である反面、優秀な人材を紹介してもらうためには、定期的な学校訪問や長期にわたる関係構築が重要です。
海外拠点の立ち上げの実績があるなど、高い能力が必要とされる人材を採用する場合は、ヘッドハンティングの活用も効果的です。高い能力を持つ人材は、企業もリテンション(引き止め)に注力するうえ、自身の能力を活かして活躍していれば仕事への満足度も高く、転職市場にはなかなか出現しにくいものです。
社員や取引先の伝手を頼って直接ヘッドハンティングをするケースもありますが、ヘッドハンティングサービスを提供している専門のエージェントを利用するとよいでしょう。専門のエージェントであれば、候補者の転職意欲の有無にかかわらず、様々なチャネルを駆使して優秀な人材を探し出してきます。
多くの場合、リテーナーフィーと呼ばれる初期費用が発生し、料金体系によってはプラスして採用時の成果報酬が必要なケースもありますが、候補者があらわれないままポスト空席の事態が続くのであればヘッドハンティングを活用していくのも有効な手立てでしょう。
大手ペイメントサービス企業では国籍フリー、勤務地フリーで採用しています。スキルがある即戦力人材であれば、どこに在住していても構わないという雇用条件に踏み切る企業が出てきています。
また、これまで日本企業が設けていた採用条件では、日本語は日常会話レベルもしくはビジネス会話レベルは必須というケースが多くありましたが、大手ネット事業のグループ企業では国内採用であっても、特定のエンジニアなど難易度の高いポジションは日本語不問という採用も行っています。
グローバル化加速の流れの中で、事業の可能性や採用の可能性を国内に閉じず、世界に視点を広げることで、困難と思われてきた課題の解決の糸口が見つかり、採用難のポジションにも光が見えてきています。グローバル採用を導入するタイミングは混乱が生じたり、手間がかかったりすることでの負荷は発生します。しかし、グローバル採用を続けていくことで『負荷』が大きな『可能性』に変わっていきます。様子見で手掛けてみようではなく、本腰を入れてグローバル採用に取り組むことでその効果が高く得られます。ぜひグローバル採用に踏み込んでみてはいかがでしょうか。
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