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経験者採用の競争激化や待遇の高騰を背景に、多くの企業が未経験者の採用を検討するようになっています。しかし、未経験者を受け入れる態勢が不十分だと、早期離職や戦力化が進まないといった問題が生じる可能性があります。
未経験者採用を成功させるためには、採用要件をしっかり定義し、受け入れ準備や適切なポジション設定といった対策が不可欠です。この記事では、未経験者採用のメリットとデメリット、そして成功させるためのポイントを詳しく解説します。
昔の未経験者の採用といえば、軽作業や簡単な事務・接客といった、初心者でも取り組みやすい業務が主流でした。しかし、人手不足や採用難が続く中、教育を前提ITエンジニアのような専門職でも未経験者の採用が広く行われています。
今は多くの企業や職種で採用難が起きています。特に労働力不足が顕著な業界や職種では、経験者のみを対象にしていると採用が難しくなります。
即戦力の採用は時間がかかりすぎてしまい、長期空席となるケースが珍しくありません。欠員状態の現場では、以下のような問題が起きやすくなります。
労働人口が減少し、若手人材が他社と取り合いになる中で、経験者に限定せず、ポテンシャルのある未経験者も採用対象にする企業も増えています。未経験者の中には将来的な成長が期待できる若手も多く、企業は長期的な視点での人材確保に乗り出しています。
たとえば、未経験エンジニアの採用はこれまでIT企業が中心でしたが、採用難の影響から一般企業のIT部門でも未経験者の採用に積極的に取り組む動きが見られます。
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未経験者は既存の業界や会社の慣習にとらわれないため、組織に新しい視点や発想をもたらすことが期待されます。企業文化や仕事の進め方に柔軟な変化を求める企業にとって、未経験者の採用は組織を活性化する手段として効果的です。
ひとくちに「未経験者」と言っても、大きく以下の3つに分けられます。
多くの方がイメージするのは、これまで関連業務や業界で従事した経験がなく、関連するスキルも持っていない求職者のことです。その名のとおり「全くの未経験者」です。
一例を挙げると、専門商社の総務職から製造業のエンジニアに転職するようなケースが該当します。この場合、業界の習慣や職種特有の知識を身につけるために、充実した育成体制が必要です。
業界経験はあるものの、職種については未経験の人材を指します。例えば、小売業での営業職経験があるが、小売業の経理職に挑戦したいと思っているケースです。
職種未経験者の強みは業界知識がある点です。職種特有の知識とスキルを身につけるためのサポートは必要ですが、業界内の習慣を理解しているため、スムーズな立ち上がりが期待できます。また、前職で関連する部門と関わりがあった場合、ある程度の知識も備えている可能性があります。
さらに、別の部門での経験を活かし、新たな視点を組織に持ち込むことも期待できます。
同じ職種の経験はあるものの、異なる業界での職務経験がない人材を指します。例えば、製造業の営業職から人材業界の営業職へ転職するケースです。
同職種の経験があるため業務内容に馴染みがある点が最大の強みです。ただし、業界や自社サービスについての理解が必要で、業界特有の習慣や地域性については丁寧に指導する必要があります。
未経験採用のリスクを減らす紹介予定派遣
紹介予定派遣は、派遣期間で働きぶりを確認してから採用可否を決定する採用手法です。
未経験者の素養やポテンシャルを見極めたい場合などで利用されています。
未経験者採用のメリットは、主に以下の3点です。
募集要項で未経験者をOKにすると、それだけで母集団が格段に広がります。また「経験」という条件を設定しないだけで、さまざまな背景やスキルを持つ人材からの応募が見込め、企業は多様な才能と出会うチャンスを得ることができます。
経験はなくとも応用できるスキルや職歴がある、コミュニケーション力がずば抜けて高く、周囲と調和しながら早くに独り立ちできる、など未経験者にも素養が高い人材は多くいます。
一方で、経験・スキルは申し分ないが社風やチームメンバーと合わず、期待した成果を出せないどころか組織の雰囲気が悪化するケースが珍しくありません。未経験でも企業の価値観や信念とフィットした未経験者を採用する方が将来的に企業のベネフィットになることもあるのです。
新しい分野や職種への挑戦を求める求職者は少なくありません。新卒時の就職先が希望する業界や職種と異なった、適切なチャンスに恵まれなかった、タイミングが合わなかったといった理由から、未経験の分野に意欲を持って挑戦しようとしています。このようなモチベーションの高い社員が周囲を感化し、チームの雰囲気も良くしていきます。
一例になりますが、マンパワーグループでは事務職未経験の若年層を派遣するサービスがあります。実際に受け入れた派遣先企業から「一生懸命さと周囲の人間の気遣いがあり、周りも積極的にカバーしてあげようという意識が生まれ、チームの雰囲気が良くなっています」といった声もでています。
若年層の育成型派遣サービス「M-Shine」
未経験者の大きな利点は、業務に関する思い込みが少なく、知識を素直に吸収する素地があることです。
前職での思い込みがある場合、「前の会社がこうだったから、ここでもそうするべき」と前職と比較してしまい、業務が滞ってしまう、人間関係に苦労し新しい組織の中への適応が難しい、といった問題が起きる場合があります。
とはいえ、異業界・異業種から得られる新鮮な視点や発想は、社内活性化にもつながるため、新たな知識やルールを受け入れるオープンさは、応募者だけでなく企業側も持っておきたい要素です。
未経験者採用で想定されるデメリットを解説します。
未経験者採用を成功させるには、教育とフォローの体制が整っていることが不可欠です。教育とフォローシステムが不十分な場合、従業員がミスマッチを感じて早期退職に至るリスクが高まります。
未経験者採用を検討する際には、教育にかかる期間とリソースを事前に算定することが重要です。マニュアル作成を含めた教育費用やフォローアップに要する工数も計算し、十分な準備を整えた上で未経験者採用の可否を判断しましょう。
未経験者が早期に退職してしまう一因は、入社後に「思っていたのと違う」と感じるミスマッチです。未経験者の場合、業務内容を想像するしかないため、期待と現実のズレが生じやすい傾向があります。
そのため、未経験者に業務内容を理解してもらえるよう、わかりやすい説明を心がけることが重要です。専門用語の多用は避け、業務フローや1日・月の流れなど、イメージしやすい説明を意識しましょう。
関連記事:若手が早期退職してしまう理由とは?退職阻止で心がけることを解説
未経験者の採用では、初期段階の指導や業務配分、進捗管理、定期的な面談など管理職の負担が一時的に増える傾向があります。また、業務に慣れるまでは周囲がフォローするなど、チーム全体で協力する体制が求められるため、メンバーに不満が出ないよう配慮が必要です。
現場にも「経験者の採用が難しい状況であること」「独り立ちまでの一時的な負担であること」を伝え、理解を得るよう努めましょう。
既存の社員の給与との折り合いをつけるのが難しい課題です。既存の社員は長く勤務しており、会社への貢献という実績があるため、既存社員よりも高い給与を未経験者に提示することはできません。未経験者の初期給与を既存社員の同じ年齢層の平均給与に設定するのも一案です。
既存社員が不公平を感じず、未経験者の成長度合いや評価に応じて、きちんと昇給できる仕組みがカギとなります。
未経験者を採用する際の要件定義は、必要とされる能力を抽象的な形で捉えた上で、それを具体的に言語化するのが良いでしょう。こうすることで、面接時に確認すべきポイントがより明確になります。ここでは、未経験者採用でよく求められる素養についてご紹介します。
未経験者は新しいことに新しい環境で取り組むため、柔軟に対応できる姿勢が必要です。特に、想定外のことが発生する場面も多いため、そうした状況に対するストレス耐性も重要な素養です。
面接では、この柔軟性やストレス耐性を確認するための設問を準備すると良いでしょう。
面接での設問例
例1 | 異動や新しいプロジェクトについた経験はありますか?想定外のことも起きたと思いますが、どのようにして業務を進めていきましたか? ポイント:状況把握や優先順位のつけ方について具体的に教えてください。 |
例2 | これまでに、今までにない作業や新しいルールに対応しなければならなかった経験はありますか?そのとき、どのように適応しましたか? ポイント:慣れていない業務や環境にどう対応したのか、具体例を聞いてみましょう。 |
例3 | 新しい環境や業務を行うときに、ストレスを感じることはありますか?その際、どのように対応していますか? ポイント:ストレス管理や問題解決の方法について尋ね、柔軟さを確認します。 |
新しい仕事を覚えるには学習意欲が欠かせません。学ぶ意欲がないと、必要なスキルや知識を習得できず、また育成を担当するメンバーや管理職の負担も増えてしまいます。
面接では、単にモチベーションの高さを見るだけでなく、過去の実績を通じて実際の学習意欲を確認することも大切です。
面接での設問例
例1 | これまでに、新しいスキルや知識を独学や努力で習得した経験はありますか?それについて具体的に教えてください。 ポイント:どのように学習に取り組んだか、そしてその意欲を示す行動を確認します。 |
例2 | これまで異動や転職で新しい環境や業務に就いたことはありますか?どのようにして仕事を習得しましたか? ポイント:学習意欲や自己成長に対する姿勢を把握します。 |
例3 | これまでの職場で、自分から進んで新しい業務や役割に挑戦したことがありますか?その際、どのような結果を得ましたか? ポイント:積極的な学習姿勢や実際に成し遂げた成果について聞きます。 |
未経験者の場合、経験のなさをコミュニケーション力で補う場面が多々あります。わからないことを積極的に質問できる姿勢や、チーム内で円滑にやり取りができることも重要です。これは、未経験者がスムーズに業務に馴染むための必須要件であり、面接では確認しておきたいポイントの一つです。
面接での設問例
例1 | これまでに、わからないことや困ったことがあったときに周りに助けを求めた経験はありますか?聞きづらい雰囲気があった場合、どう対処しましたか? ポイント:わからないことを質問する姿勢とその方法について確認します。 |
例2 | チーム内での意見の対立や誤解が生じたとき、どのように対応しますか? ポイント:対人スキルや問題解決のためのコミュニケーションの方法を確認します。 |
例3 | 他部門やベンダー、顧客など、外部の人と仕事をすることはありましたか?コミュニケーションで気を付けていたことを教えてください。 ポイント:外部の人と協力した経験を通じて、コミュニケーション力や調整力を把握します。 |
職種や業務内容に応じて、必要な能力も異なります。例えば、正確性や問題解決力が求められる職種もあれば、決められた手順に従って業務をこなすタイプか、アイディアを出して新しいことに挑戦するのが好きか、といった業務遂行のタイプも確認すべきです。職務の特性に応じて適切な質問を準備して確認すると良いでしょう。
面接での質問例
例1 | 過去の業務で、正確さが求められる作業を行った経験はありますか?ミスを防ぐためにどのような対策をしていましたか? ポイント:仕事の正確性を保つための姿勢や工夫について確認します。 |
例2 | 問題が発生したとき、まず最初にどのようにアプローチしますか?実際に解決した事例があれば教えてください。 ポイント:問題解決のプロセスや思考力を把握します。 |
例3 | 業務を進める上で、決まった手順に従って作業を進めることと、新しいアイデアを出して改善すること、どちらが得意ですか?その理由も教えてください。 ポイント:業務遂行のスタイルと自分の適性を理解するための質問です。 |
関連記事:【質問例あり】コンピテンシー面接とは|基礎知識とやり方を解説
紹介予定派遣とは、派遣期間を設け、働きぶりをみてから正式採用を決定する採用手法です。
特に完全未経験や職種未経験など、素養の見極めが難しいケースに効果が期待できます。
紹介予定派遣について詳しくまとめた資料をご用意しています。ぜひご覧ください。
未経験者採用を成功させるための施策を4つご紹介します。
完全未経験者の採用は、経験者採用のように「~~の技術を持っている人」「~~業界で○年の経験がある人」など、所有スキルや経験のわかりやすい基準を設定することができません。
必要な能力を抽象化し、それを測れる採用方法を検討しましょう。
▼未経験者採用における採用方法の一例
対象の業務に適性を持っている人物の性格と能力を明文化するためには、自社に在籍している経験者へのインタビューを実施し、それを分析するのがすぐに取り組みやすい方法ではありますが、社員を対象に適性検査を実施し、検査の結果から活躍している人材に共通する性格特性を分析する方法もあります。
マンパワーグループの委託チームの事例です。委託メンバーを採用しても期待したパフォーマンスが得られなかったため、優秀な社員にアセスメントを実施し、その特徴を分析しました。その結果を基に、経験を問わず、業務に必要な特徴を持っている人材を採用したところ、業務効率が大幅に改善しました。経験よりも素養を重視した方が成果を出せたのです。
詳細については「チーム力を向上させるマネジメント手法とは?」をご覧ください。
適性のある人材を採用するためには、自社の業務に対する適性とは何かが明確になっていなければなりません。「コミュニケーション能力が高い」といった漠然としたものではなく、「こういった場面でこのような考え方・行動ができる」など社員の具体的な活躍シーンやエピソードなどをもとにした、志向性などをはっきりとさせた基準作りが必要です。
人材要件チェックシートを作成する
未経験者を採用する際には、関係者全員が求める候補者の特性について一致した認識を持つことが重要です。候補者の特性や評価基準が一貫していないと、採用対象を広げる意図が無駄になってしまいます。
候補者の特性を明確にするために、「人物要件チェックシート」を活用してみてください。
見極めだけでなく、候補者の不安を面接で取り除くことも重要です。良い素養がある人は、複数社から合格を得る可能性が高いことを念頭に置きましょう。
意欲のある人でも不安を抱えている場合が多いため、それを払拭することが大切です。たとえば、過去に未経験者の採用実績があることや、研修制度が整っていることなどを伝えると安心感を与えられます。
また、未経験ゆえに給与や待遇についても気にしているため、事前に詳細を伝えておくことでギャップが生じにくくなります。さらに、何を期待しているのか、どのように成長してほしいのかといった期待値の調整も必要です。
紹介予定派遣とは、まず派遣社員として候補者を迎え入れ、一定期間働いてもらった後に、その働きぶりを見て正式な採用の可否を決定する採用手法です。派遣期間中、候補者の雇用主は派遣会社であり、あくまで「採用候補」の状態です。
未経験者の素養や適性を見極めてから採用を決定できるため、ミスマッチを大幅に軽減できるメリットがあります。万が一、適性がないと判断した場合には採用を見送ることも可能です。ただし、正式な採用前に候補者側からも辞退される可能性がある点には注意が必要です。
紹介予定派遣については、資料をご用意していますのでご一読ください。
ここでは、未経験者採用が向いているケースと避けた方がいい場合についてご紹介します。
せっかく採用しても早期に辞めてしまうと、新たな採用をしなければならないだけでなく、現場の疲弊にもつながります。未経験者が入社しても安定的に勤務してもらえるような施策を事前に打っておくことが必要です。
これまで、未経験者採用には育成時の教育とフォローが重要であると繰り返し伝えてきましたが、採用担当部門だけでなく、配属先の部門にもそれを理解してもらうことが重要です。
中途採用の場合、現場での研修がメインになることも多いでしょう。早期離職を防ぎ、即戦力になってもらうためにも現場の理解はとても重要です。
未経験者は少なからず「この理解であっているのか」といったような不安を抱えています。OJT担当を設置する、定期的な個別面談を行うなど、質問や意見を気軽に投げかけやすい職場環境を整えておきましょう。
未経験者でも体系的に知識やスキルを身に付けることができる受け入れ体制のクオリティは、入社後のパフォーマンスに影響してきます。外部講習の活用や、専任の教育担当者を置くなども方法のひとつです。
実務を通じて育成するOJTは、代表的な教育手法ではありますが、教育担当者も自分の業務と並行して指導を行う場合など、忙しくて放置状態になってしまいがち、教わる内容にムラが出てしまうなどの弊害が生じやすくなるなどの弊害があります。
いきなり現場に放り出すのではなく、基本的な知識を身に付けたうえで、実務に触れ、体験するという流れをきちんと構築し、未経験でもスムーズな立ち上がりができる教育体制を整備しましょう。
即戦力採用とは異なり、未経験者は業界・業務に対する理解度が低い状態であるのが前提です。業務理解がきちんとできるかどうかは、受け入れる企業側がどれだけきちんと説明・教育できるかにかかっています。
まずは、未経験者でも具体的に理解・イメージできるよう、専門用語を使わずに事業内容や業務内容を説明できるようにするのが第一歩です。
配属後もわからないことや詰まってしまうことがあれば、すぐに相談・質問できる環境を整備し、成長を後押しする姿勢が大切です。
関連記事:オンボーディングとは?効果と導入の5ステップについてわかりやすく解説
未経験者がどのくらい成長し、パフォーマンスを発揮できるかについて不安を抱く人事担当者も少なくないでしょう。別案として、未経験者を派遣社員として受け入れる方法もあります。派遣社員は派遣会社と雇用契約を結んでいるため、3ヶ月程度の短い契約で適性や人柄を見極めた上で、契約を更新するかどうかを決定することが可能です。
マンパワーグループでは、若年層のキャリアチェンジを支援するプログラムを展開しています。以下にいくつかのサービスをご紹介します。
販売職や営業職から事務職へのキャリアチェンジを希望する20代中心の若年層を派遣するサービスです。一般派遣とは異なり、ポテンシャルと意欲を重視し、内定率10倍の厳選採用を行っています。
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ITエンジニアを目指す若年層に基礎教育を提供し、カリキュラムを修了した人材を派遣するサービスも展開しています。技術進歩の速いIT分野では、柔軟な思考と吸収力を持つ若手の未経験者も貴重な存在です。
Webクリエイターを目指す若年層に基礎教育を提供し、カリキュラムを修了した人材を派遣するサービスです。
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未経験者採用には、企業に新しい視点やアイディアをもたらし、成長ポテンシャルの高い若手人材を確保できるという大きなメリットがあります。労働人口が減少する中で、ポテンシャル採用は今後さらに重要になるでしょう。
しかし、成功させるには明確な採用要件の設定と見極めが欠かせません。経験がないからこそ、自社にどんな素養が必要なのかをしっかり分析し、具体的な基準を設けることがミスマッチ防止の鍵です。また、育成できる環境を整えることで、未経験者が早期に戦力化し、長期的な定着にもつながります。
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