
目次
採用力強化を目的に、採用活動にマーケティングの手法を取り入れた採用マーケティングに注目が集まっています。ここでは従来の採用活動との違いや採用マーケティングに活用できるマーケティング手法をご紹介します。
採用マーケティングとは、採用活動にマーケティングの考え方と手法を取り入れることをいいます。一般的なマーケティングの狙いは、顧客を十分に理解したうえで顧客のニーズを満たす製品を作る、またはターゲットとなる層に自社製品やサービスを認知してもらう活動にあります。
これを採用に置き換えると、以下のように考えることができます。
企業が理想とする人材のニーズを把握し、待遇や職場環境などを整える
ターゲットとなる層に認知を広げ、興味関心を促す
マーケティングで用いられる考え方や戦略は採用活動にも有効で、重要視する企業が増えています。
採用マーケティングが重要視されるようになった背景には採用競争の激化があります。少子高齢化社会の日本では労働人口が減少の一途です。企業の人材不足が深刻化しており、理想とする人材の獲得が困難になっています。また、求職者の志向も多様化し、IT技術の進化やSNSの浸透により情報収集もさまざまなチャネルで行われています。
若年層の獲得は年々、厳しさを増しています。新卒採用の特徴は、ほぼ同時期に各社が獲得に乗り出し、応募から内定までの期間が短いことです。同業他社だけがライバルになるわけではなく、他業種とも比べられますので、戦略をもった採用計画を立てることが重要です。
また、学生の志向にも変化が起きており、大手志向から自分の価値観にあった企業・働き方を選択する層も増えてきました。企業側にも画一的な人材像からユニークな人物を求める傾向が見られます。情報取得もSNSやWEB、動画などさまざまで、学生にリーチできるチャネルをよく検討する必要もあります。
転職市況も経験者層を中心に人材の枯渇が続いています。特にIT分野などは慢性的な人手不足です。
そのため、実際に転職活動をしている層のなかから選ぶという、いわば「待ち」の手法ではスピード負けしてしまいます。現在は、潜在層まで含めた戦略的なアプローチが求められています。
また、一方で採用手法の多様化もあります。以前はWebサイトや紙媒体を利用することで候補者を集めることが一般的でした。しかし、近年はSNSなどを通じて、エージェントや求人媒体などを介さず企業と応募者が直接やりとりをするダイレクトリクルーティングなど、新しい手法も増えています。
自社採用に注力する企業が今までの手法に限界を感じ、採用力強化のためのマーケティング思考に注目が集まっています。
採用ブランディングは、ターゲットとなる人材に「この会社で働きたい」と思ってもらえるような情報を発信し、認知してもらうための活動全般のことをいいます。
採用マーケティングは、求職者の動向だけではなく、同業他社などとの比較といったように相対的に自社をとらえることも大切です。その際に、ブランド力の影響を知ることもあるでしょう。採用ブランディングは、採用マーケティングとも密接に関わってくる考え方です。
従来の採用活動は、集まった応募者のなかから選ぶことがメインだったので、関係者の意識は応募者の集め方、選び方に向けられていました。人材紹介会社の利用、求人媒体への出稿、採用イベントへの参加など、応募者を集める手法が採用活動の考えの中心に据えられていたのです。
しかし、採用マーケティングでは、優秀な人材に選んでもらうために自社の戦略はどうあるべきか、どのような人材を採用すべきかなど、採用の目的や現状の課題から採用戦略を立てることを重視しています。ターゲットも従来の採用活動では転職する意思のある人に限られていたのが、転職意思のない潜在層にまで広がりました。
採用マーケティングを導入することのメリット3点について解説します。
マーケティングは、対象となる顧客の分析が重要です。どのような課題・ニーズがあるのか、どのようなメディアをよく見ているのかなどの行動特性などを想定して、施策を練ります。
採用マーケティングも同様に、ターゲットとする人材が企業に求めるもの、情報取得の方法などの分析・想定を行います。ターゲットの理解が深まることで、響くキャッチ・メッセージを生み出すことができ、自社のどんな情報をどう見せていくのか、というところにも戦略を持つことが可能です。
多くのターゲットの目に留まることで応募増が期待できます。
残念ながら、「自社サイトに求人を掲載した」「求人広告を載せた」だけでは、ターゲットの記憶に残りにくい市況感が続いています。検索してもらう、広告をクリックしてもらうためには、ターゲットにより近づく努力が必要です。
アピールの精度を採用マーケティングによって高めることで、より自社にマッチする人材を採用することができます。単にスキル・経験が条件を満たしているだけではなく、本人の人柄やキャリア志向などが社風や経営方針とマッチしていれば、早期離職による定着率低下のリスクが下がります。
定着率が向上することで採用コストが抑えられるほか、欠員が原因で機会損失が起きた、チームの残業が増えたなどの見えないコストをセーブすることにもつながります。
募集のポジションがあるときだけ、採用マーケティングを行うのはもったいないことです。
労働人口の減少が確実な中においては、採用難が続くと考えておくべきでしょう。
「この会社で働いてみたい」と思ってもらえる情報発信を継続的に続けることで認知が広がります。今は転職の意思がない人材でもどのタイミングで求職者になるかわかりません。「知られている」ということは重要で、いざ募集がかかった場合の採用成功に関わってきます。
採用ブランディングにもつながりますが、「自社のファンをつくる」活動で企業認知を高めていくことができます。
マーケティングでは、消費者・顧客が製品やサービスを購入するまでの意識変化を「ファネル」という図式で表すことがよくあります。
一般的には、認知→興味・関心→比較・検討→購入・申込という流れで表し、購入に近づくにつれて数が減ることから逆三角形のような図になります。このステップごとに施策を講じ、購入に至る数を増やしていく活動を行います。
これを採用活動に当てはめてみます。下記の図は、企業認知から入社までの意識変化(フェーズ)を表したものです。
フェーズは上から認知(転職潜在層)、興味(転職顕在層)、応募、選考・内定、入社です。
下の三角形は、入社後のフェーズを表します。継続(例:入社後の定着率・満足度向上)、紹介・発信(例:リファラル採用)などに細分化することも可能ですが、ここでは簡略化して「従業員」としています。
各フェーズにおける対象と施策例を解説します。
転職の意志がないとしても自社のニーズに合う人たちを指します。
自社を知ってもらうために、SNSやオウンドメディア、外部メディアなどの活用や自社社員の紹介、また採用関係のテーマではない外部イベントへの参加など転職活動をしていない人とも接点を持てる手法を活用します。
転職を考えている人材、いわゆる求職者を指します。特にターゲットとなる層がどのようなメディアを活用しているのか、情報収集は何で行っているのかを想定し、自社の認知を高められる活動を行います。目にしてもらうことが重要であるため、採用動画やブランディング動画も自社の魅力を伝える手法として効果的です。
ターゲット層に対して、「応募する」というアクションを促す活動を行います。自社ブログや採用サイトなどで、職場の様子や仕事内容、キャリアパスや会社の日常など社風が伝わることを発信し、会社への理解を深めてもらいます。
選考に入った人材に対しては、入社の意向を高めてもらう施策が必要です。面接時に競合他社との違いを伝えることで自社の魅力を印象付け、応募者の志望企業のなかで優位に立つという工夫など行います。
社内イベントや会食などで選考とは別に社員と直接話す機会を設ければ、応募者との距離を縮めることができます。
他社と同時進行しているケースも少なくないため、この後のフェーズはコミュニケーションが重要になってきます。また、不採用という結果を出したとしても、丁寧な対応が求められます。詳しくは、採用CXとは 注目すべき理由と改善方法を解説で解説しています。
求める人材に就職先として選んでもらうことを目的とします。内定を出したとしても入社してもらえないことは十分にあり得るので、内定フォローアップなどを実施し、採用候補者の不安を取り除くようにします。
導入ステップは主に、自社分析、採用ターゲットの選定、採用ターゲットのニーズ調査、効果的なアプローチの検討、採用施策の実施と継続的な改善の6つです。
経営の理念や戦略をあらためて見直すことで、自社の強みと弱みを認識しましょう。
例えば強みとしては、ある特定の分野や製品において技術力やスキルに自信がある、職場環境としてさまざまな福利厚生が準備されているなどが挙げられます。弱みとしてはベテラン社員が多く若手が少ない、業界の認知度が低いなどです。それらを踏まえてどのようにターゲットへアピールするかを検討します。
マーケティング戦略において重要な要素のひとつがターゲティングです。
採用マーケティングに置き換えた場合、自社に入社してもらいたい人材の特徴を明確にし、アプローチの対象を絞り込みます。ここが曖昧な場合、施策の効果がでない、コストと労力だけが消費されていく、といった事態になりかねません。入社してもらいたい人材に集中的にアプローチすることが大切です。
絞り込んだ採用ターゲットがどのようなニーズを持っているかを調べて、整理します。
例えばターゲットが求めている職場環境や条件は、SNSによるアンケート調査や日々の採用活動における面接、書類選考で得られるデータなどから収集が可能です。企業によってはすでにアンケート結果を所有していることもあるので、求人広告代理店のような採用活動のプロフェッショナルに相談してみるのもよいかもしれません。
整理したニーズに対し、ターゲットに響く効果的なアプローチは何かを検討します。
ファネルで示したフェーズごとに響く施策というのは変わってきます。転職を考えていない人たちに向けた認知系の施策なのか、すでに転職活動を始めた求職者なのか、などアプローチするメディアやメッセージも異なるでしょう。選考に進んだ場合は、社内見学や先輩社員との気軽な面談などアナログに近い施策も考えられます。
重要なのは「興味関心を持ってもらう、強めてもらう」施策であることです。
実際に運用していくなかでPDCAサイクルを意識し、日々振り返りを行うことで継続的な改善につとめることが重要です。応募状況やSNSの反応などを、施策が効いているかを定期的に確認し、施策の精度をあげていきます。
また、昨今の社会の変化の激しさは、採用活動にも影響することがあります。情報収集も欠かさずおこないましょう。
採用マーケティングを効果的に実施するためのポイントを紹介します。
採用活動を行う中ではさまざまなデータが取得できます。求人媒体ごとの応募者数、属性、歩留まりやSNSのフォロワーやインプレッション数など施策単位でデータは取得可能です。
これらを管理し、分析することで施策の効果を測定します。SNSや採用ページの改定などの施策は、効果がでるまでに時間がかかりますが、データを蓄積しておくことが大切です。
データを分析することで、施策の精度を上げられるだけではなく、予算を効率よく使えることも可能になるため、コストが適正化されていきます。
求人広告媒体や企業ページ、SNSなどでメッセージを掲載しますが、ここでもターゲットに響くメッセージを作ることが重要です。ただSNSを更新していれば見てくれるわけではありません。それぞれの企業・職種にある様々な強み・特色を、どう伝えればターゲットに響くのか試行錯誤していきましょう。
ターゲットの行動特性を想定し、適切にチャネルを選ぶこともポイントです。
年齢層・地域・職種などによってもチャネルは変わってきます。地域によっては、ハローワークでの職探しが基本というエリアもあります。また、企業からの需要が著しく高いIT系人材などの職種では、従来のチャネルだけでは応募がこないこともありますので、ダイレクトリクルーティングやITに強い人材紹介会社の併用を検討する必要もあります。
採用に応用できるマーケティング思考法やフレームワークとして、ペルソナ、3C分析、5A理論、カスタマージャーニーの4つをご紹介します。
ペルソナとは採用したい人物像をスキルや性格、適性などにより綿密に設定し、求める人材へのアプローチを的確にする方法です。
次に3C分析とは、マーケティング環境分析のフレームワークで、自社の置かれるビジネス環境を理解するときに用いられます。ここで出てくる3Cは、市場・顧客のCustomer、競合のCompetitor、自社であるCompanyのことです。採用活動では顧客を求職者に置き換えることで、採用市場における自社立ち位置を把握できるようにします。
5A理論とは、フィリップ・コトラーが提唱するインターネット普及後の顧客の購買プロセスを見るフレームワークです。
意思決定するまでのプロセスを、「認識する、知る」を意味するAware、「記憶や印象に残る」を意味するAppeal、「調べる」を意味するAsk、「購入する」を意味するAct、「周りに勧める」を意味するAdvocateの5つの「A」で分類しています。これを採用活動に置き換え、求職者が意思決定をする流れを分析し、マーケティング手法を考えます。
カスタマージャーニーとは、本来顧客が商品やサービスを購入するまでのプロセスです。採用活動では顧客を求職者に置き換え、自社を認知してから入社するまでの行動や思考、感情などのプロセスを時系列順に可視化することで、求職者視線に立った採用施策の考案や関係者間の認識あわせに役立てることができます。
マーケティングを導入した成功事例をいくつかご紹介します。
大手電機機器メーカーでは、マーケティング部が人事部の持つ新卒採用のデータ分析を実施。分析の結果、エントリー数とエントリーシートの提出数の向上が課題だと判明しました。
デジタルマーケティングの手法を活用し、ターゲット学生への動画広告とSNS広告による認知向上策でエントリー数は10%増、エントリーシート未提出者へのリマインドメール配信などでエントリーシート提出数は60%増を記録しました。
スマホアプリの開発・運営を行う情報サービス企業では、人事がブランディングを確立するための専門メディアサイトを立ち上げました。通常、企業が運営するメディアサイトは本業の販促や広報的な役割を持ちますが、採用候補者に企業風土が伝わるようなメディアを運営しています。そうすることで、情報を一か所に集約し、企業風土がより伝わり、また採用に関するコミュニケーションも効率化されました。また、入社前に最低限の情報共有ができた上で勤務開始を迎えられるというメリットもあります。
リファラル採用をメインとしている同社では、 入社した社員の約半数を社員紹介で決定することに成功しています。
若年層の獲得激化や2021年の経団連による就活ルール撤廃など新卒採用の状況は大きく変化しています。また、学生の志向変化などにより通年採用なども浸透してきました。
大手システムインテグレータでは、学生を文系・理系や自社への興味関心具合などをいくつかのセグメントに分類。それぞれのタイプに合わせた情報発信を実施しました。メールによるフォローアップやアンケートなどを行い、学生の興味関心を下げない活動を展開。
メールの開封率やクリック率などを分析し、施策を追加することで学生の満足度を高めることに成功しています。
人材獲得が難しい現在、採用マーケティングの思考を取り入れることはとても効果的です。
応募者が認知から入社へ進む段階ごとに、どのような施策を行うのがよいのか、あるいは求職者目線、かつ自社ならではの独自性をもったコンテンツを作成するためにはどうすればよいのかを考えるには、マーケティングの思考法やフレームワークが役立ちます。
マーケティング理論については、初心者向けにわかりやすく解説したものなど、数多くの書籍があるので、それらを参考にするとよいでしょう。
採用マーケティングに関するアドバイスや戦略の構築などを行う採用コンサルティングサービスを手掛ける事業者へ協力を依頼するのも手段のひとつです。
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