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卒業年度の学生を対象に大規模な選考試験や面接を特定の時期に行い、卒業後の4月に一斉に入社させる新卒採用は、新卒一括採用、定期採用などとも呼ばれ、日本特有の採用プロセスといわれています。
近年、新卒採用のプロセスにも多様性や柔軟性が重要視される傾向があり、新卒採用でも通年採用を取り入れている企業もありますが、多くの企業は政府より出されている「就職・採用活動に関する要請 」に沿ったスケジュールで新卒採用の選考を進めています。
年度ごとに一括して採用活動を実施する新卒採用にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
本記事では、新卒採用を検討されている企業の方向けに、新卒採用を実施するにあたってあらかじめ念頭に置いておきたい事柄を解説します。
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新卒採用と中途採用との違いをより詳しく知りたい方は、「【比較表】新卒・中途採用の違い|メリット・デメリットと特徴を解説」をご覧ください。
新卒採用は複数名を一括して採用するため、手間や金銭的コストがかかるのではないかという懸念が生じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、多くの企業で新卒採用が実施されているのは、それを上回る企業運営上のメリットがあると判断しているためです。まずはその6つのメリットをご紹介します。
ほぼすべての新卒社員は、正社員としての就業経験を持たないいわばまっさらの状態で入社してきます。前職とのギャップを感じることなく、素直にその企業の文化(ミッション・ビジョン・バリューなど)を受け入れられる素地があります。
また、定期的に新卒社員が入社することで、企業文化を受け継ぐ社員がさらに次の世代へ企業文化を伝えていく土壌が育まれます。これまでの企業文化を維持しながら、その時代に合った感覚や考え方を取り入れる、健全かつ継続的な企業文化の継承が期待できます。
新卒社員を受け入れるためには、準備が必要です。しかし、そこにもまたメリットがあります。
新卒社員に任せる業務について検討すること自体が、業務改善に繋がる可能性があります。例えば、新卒教育のためのマニュアル作成が、これまでなんとなく行われていた作業を見直す機会となるかもしれません。
また、これまで「教えられる側」だった社員が、先輩社員として新卒社員の教育を担う「教える側」になることで、意識の変化や成長に繋がります。
さらに、まっさらな状態の新卒社員から発せられる先入観のない意見や質問は、これまで気付くことのなかった新しい視点を与えてくれることもあります。
新卒社員の入社により、様々な変化が社内に起きることで、結果としてコミュニケーションが活発になり、社内活性化が期待できます。
新卒採用を毎年継続し続けると、社員の年齢構成のバランスが保ちやすくなります。
また、同時期に入社し共に成長していく同期社員の存在が、安心感や帰属感を高めるため、定着率の向上も期待できます。
即戦力採用に偏重した人員補充を続けていると、経験が必要な分どうしても社員の平均年齢が高くなりやすくなります。また、特定の年齢層に偏りがあると、定年退職などによる急激な人数変動で安定した事業運営が困難になる可能性が高まります。
また、現在の売り手市場では中途で若年層を採用することは難しいため、若年層を一括採用できる新卒採用は、年齢構成のアンバランスを解消できる有効な手段になるでしょう。
将来の幹部候補を育成できることも新卒採用のメリットです。
長期的な育成プランに基づいて、コミュニケーションスキルやリーダーシップスキル・戦略的思考といった幹部として必要とされる能力を身につけることが可能です。
昇進やローテーションなどのキャリアパスが明示されていれば、自社において必要なスキルや知識について、適切なステップを踏みながら学んでいくことができるでしょう。
長く同じ会社に在籍していることにより、自社内での幅広い人脈を構築することも期待できます。ここは中途採用で対応することは難しい場合が多く、“生え抜き”である新卒ならではメリットと言えるでしょう。
管理職の急な退職・休職や新規事業の即戦力、あえて社内文化を一新するような場合には、中途採用が効果的とも言えます。
長期間にわたって同じメンバーだけで業務を行っていると視野が広がらず、気づかないうちに社会や顧客とのギャップやマンネリ化が生じることがあります。
これから入社してくる「Z世代」と、現在企業で中核をなしている「ミレニアル世代」では必ずしも価値観が同じとは限りません。新しい時代や世代に合ったサービスや商品を提供していくためにも、新卒採用をし続けてフレッシュな風を入れていくことが必要といえるでしょう。
また、まっさらな状態の新卒社員は、既成概念にとらわれることなく革新的なアイディアを生み出してくれる可能性があります。新しい商品やサービスだけでなく、これまで考えてもいなかった何かを生み出してくれるような「イノベーション」を起こす可能性を、新卒社員は秘めているといえます。
人手不足により増加傾向にある採用コストは、重要な課題のひとつです。
中途採用では、必要とされる経験やスキルにより対象となる人材が限られている場合が多く、採用が難しいことも費用が増加する要因と考えられます。
ナビサイトや求人広告などの外部コストだけでなく、採用担当者が採用活動に要する人件費などの内部コストについても、同じ時期にまとめて採用活動を行えるため、一般的に新卒採用の方が採用一人あたりのコストは安価で済む傾向にあります。
<新卒採用にかかる主なコスト例>
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採用コストの算出方法や削減方法など、採用コストについてさらに詳しく知りたい方は、「採用コストとは|計算方法と一人あたりの平均、5つの削減ポイントを解説」をご覧ください。
新卒採用には多くのメリットがある一方で、デメリットがあることも知っておかなければなりません。ここではその4つのデメリットをご紹介します。
新卒採用は約1年にもわたる長期戦です。
採用計画から始まり募集情報の公開・応募受付・会社説明会の開催・適性検査・複数回の面接・内定決定・内定者フォロー・入社などの長いプロセスを経ることになります。
インターンシップなども含めると、さらにその期間は長くなります。数カ月間で完了する中途採用と比べると、そのリードタイムの長さはデメリットといえます。
なお、同時に多人数を採用する新卒採用においては、それぞれのイベントの時期に業務が集中します。採用担当者が疲れ果てた様子を見せることのないよう、ゆとりをもって業務を行えるような採用計画を心がけましょう。
また、内定決定から入社までの半年近くの間は内定者フォローの実施があります。内定者フォローは、増加傾向にある内定辞退を防止するための非常に重要な業務です。
実際に入社するまでは採用活動は終わりではありません。内定期間中にも内定者とのコミュニケーションを心がけ、自社の魅力を伝え続けましょう。
調査データ
マンパワーグループが2023年7月に実施したアンケート調査では、「企業から内定をもらい内定承諾をした後も、複数の内定確保を目指して引き続き就職活動を行った」と回答した人は50.5%でした。内定承諾の返事をもらったからといって、安心することができない現状が伺えます。
新卒採用では就労経験のない学生を採用することもあり、ミスマッチが起こる可能性が高くなります。「自分が思っていたのと違う」「こんなはずじゃなかった」といった思いから、入社後、短期間の間に退職してしまうケースも少なくありません。
採用までの長い時間やそれまでにかかったコストを考えると、自社、新卒社員それぞれにとって望ましくありません。特に新卒社員の早期退職は出身校から悪いイメージを持たれかねないだけでなく、SNSを通して他の学生に悪い情報が広がる懸念もあります。
新卒採用の場合、潜在能力や将来の可能性で判断するポテンシャル採用にならざるを得ず、適性検査や数回の面接だけで全てを把握することは困難です。
しかし、企業は少なくとも自社の求める人物像を明確にし、それに合った人材を採用することを心掛けねばなりません。また、自社の良い面だけでなく悪い面も伝えておくこと、自社に関する情報を積極的に発信することが必要です。
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1970年代のアメリカでは、ポジティブな情報もネガティブな情報もすべて含めた現実的な情報を開示することが有効だとする「RJP理論」が有効だと提唱されており、近年日本でも注目をあつめています。
RJP理論については、「【RJP理論】リアルな情報開示が採用ミスマッチ防止と信頼獲得に効く理由」で解説しています。
中途採用の場合、ある程度の経験を積んだ人材を採用することから即戦力としての活躍が期待できます。一方、新卒採用の場合は、社会人として独り立ちするにはある程度の時間がかかります。
ほんの少し前まで学生だった新卒社員には、社会人としてのマナーから業務の基礎知識まで、全てゼロから教育しなければならないため、育成コストもかかることも忘れてはなりません。しっかりと腰を据えた育成が求められます。
今の新卒社員世代は「タイパ(タイムパフォーマンス)」と称して時間の効率的な活用を重要視する傾向にあります。
まずは理論的にやり方を伝え、その後にリアルな状況下における実践的な方法を自分で考えさせるような方法が望ましいでしょう。スケジュールや予算、タスクなどの管理を効率化のためにデジタルツールで実施するのも効果的です。
また、成果に対してはしっかりと評価することも大切です。良かった点はきちんと褒めて、改善すべき点はどのように改善すべきかを明確に伝えましょう。
新卒社員は常に不安を抱えながら仕事をしています。「自分が必要とされている」「自分がきちんと評価されている」と思えるような、心理的安全性を感じられる環境を整えることも重要といえます。
新卒採用は基本的に全ての企業が同じ時期に実施します。
学生たちは同時期に複数の企業からオファーを受けることが多く、面接辞退や内定辞退が起きやすくなります。入社直前の辞退も珍しくはありません。
内定辞退が予想以上に発生した場合、新たに採用活動を始めることは困難です。そのため企業は一定数の内定辞退を想定した採用計画を立てる必要があります。
中途採用のように随時採用できるわけではないため、卒業までの限られた期間内で学生のスケジュールに合わせた柔軟な対応が必要になるでしょう。
Z世代の特徴として、デジタルネイティブであることや、それによって情報収集の方法が多様化していることが挙げられます。今や、企業情報を調べるための情報源は出版物などのオールドメディアだけではありません。企業レビューサイトなどで社員・元社員の口コミなどを調べて、内部の労働環境やカルチャーなど企業に関する評判を知ることも可能です。
また、近頃「ゆるブラック」という言葉も出てきました。ブラック企業ほどキツくはないものの、成長実感を得られない、将来性がないなどスキルアップができない企業のことをいうようです。「自社はブラック企業ではない」だけでは優位性にはつながりません。
Z世代に限らず、新卒社員が企業に求めていることは「安心」です。企業の業績が安定していることで得られる安心だけでなく、給与や制度で得られる安心や、自己の成長が感じられる安心なども含めて、その企業で自分が安心して仕事ができるのかが大きなポイントになっています。
新卒採用に限ったことではありませんが、これからの採用活動には、候補者が適切な判断を行えるよう、ウェブサイトやSNS、リクルーターや求人広告など多様なチャネルを通じた透明性の高い情報公開がより一層求められます。
ここからは、Z世代の特徴を踏まえ、新卒採用を開始する前に知っておきたい4つのことを詳しく解説します。
現在は採用手法も多様化しています。求人サイトに掲載することや自社のHPを充実させることももちろん大切ですが、様々な採用手法に対応することが必要です。
逆求人サイトと呼ばれるオファー型サイトは、学生が自身に関するさまざまな情報を登録し、それを企業がチェックして気になった学生にオファーを出す仕組みです。企業は学生のプロフィールをしっかり見てオファーを送れるので、結果的にマッチングしやすくなります。
SNSの活用も考えられます。オフィスの風景や先輩社員の働き方や生の声などを公開することで、よりリアルな情報を伝えることができます。また、誰でも見ることのできるSNSは、本年度卒業予定の学生だけでなく、来年度卒業予定の学生や第二新卒と呼ばれる既卒の学生なども見ていることも考えられるため、情報の拡散が期待できます。
潜在層にも印象に残るようなSNSの活用は、現在では必須な採用活動であるともいえるでしょう。
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Z世代の価値観と特徴、それにあわせた採用手法については、「Z世代の採用対策|新卒・若手の価値観、就活で重視することとは」で解説しています。
中途採用の場合、ある程度のキャリアがあることから即戦力になることが期待できますが、新卒採用の場合は社会人としての職務経験がないため、ポテンシャル採用にならざるを得ません。その場合、入社後にどのような能力を発揮することを期待するかを検討する必要があります。「行動力」「問題解決力」「積極性」「基礎学力」など、自社にとってどんな能力の人材を求めているのか、自社の企業文化を踏まえ人物像を明確にしておくことが重要です。
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せっかく内定を出したもの、内定を出した人数に対して半数近い学生が内定辞退をしているというデータがあります。ある程度の内定辞退は想定しなければなりませんが、できる限り内定辞退は避けたいものです。
そのため、先輩社員との座談会を催したり、内定者同士のつながりを目的とした食事会を開催したりするなど、内定者の不安を解消するために定期的にコミュニケーションをとることが有効です。
また、内定者の家族に対してのアプローチも有効です。家族に反対されて内定辞退するケースも少なくありません。安心して入社してもらえるよう家族にも自社を知ってもらう機会を設けてみてはいかがでしょうか。
令和4年10月の厚生労働省の発表によれば、平成31年3月卒業の新規大学卒の3年以内離職率は31.5%と、およそ3人に1人が離職しています。
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」
早期離職を防ぎ、できる限り長く働いてもらうためにできる採用前の対策として、透明性のある情報公開や明確な労働条件の明示が考えられます。特に新卒社員の場合は、入社前のイメージとのギャップが大きい場合に離職に繋がってしまいます。「こんなはずじゃなかった」と思われないためにも、自社の良い面だけでなく厳しい面や大変な部分もあえて包み隠さず伝えておくことが、離職率を下げることに繋がるでしょう。
また、厳しい面を乗り越えた先のキャリアパスなども明示することで、「今はキツいが、乗り越えればスキルアップやキャリアップができる」と希望に変わる可能性があります。
また、採用後は定期的なフォローを行いましょう。
新しい環境に慣れるのは誰しも大変なものです。特に社会人になったばかりの新卒社員にとっては、不安を抱えた毎日の連続です。先輩社員が定期的にフォローしメンタル面のサポートを行うことはとても効果的です。
また、人間関係に悩むケースも少なくありません。上司との1on1やメンター制度などを実施し、悩みがあれば相談できるような風通しの良い環境を整えることも大切です。
持続的な企業活動に対するメリットの多い新卒採用ですが、独特のルールや実施のための業務ボリュームが多く、採用活動が占める期間が長期であることも事実です。
これまで新卒採用は行っていなかった、あるいはしばらく新卒採用を実施していなかった企業にとってはノウハウがないため障壁が高く思われるかもしれませんが、採用代行(RPO)など外部サービスを活用することで、スムーズな新卒採用への参入が可能です。
初めて・久しぶりの新卒採用を実施・検討の際には、採用代行サービスを提供する企業に一度相談してみてはいかがでしょうか。
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