2023年1月23日
昨今、少子高齢化や働き方改革の推進、労働法の相次ぐ改正に加え、コロナ禍における採用市場の状況や働き方も変化しています。人事担当者が担う課題は、さまざまな領域において複雑化の一途をたどっていると言えるでしょう。
そこでマンパワーグループでは、企業の人事担当者を務める男女400名を対象に、現在、実感している課題や困っていることについて調査しました。「採用」「教育・研修」「労働法への対応」という3つの領域において、人事担当者がリアルに実感している課題を紹介します。
- 調査時期
- 2022年8月
- 有効回答
- 20~59歳の現在、採用に関わっている人事担当者 400人
採用の課題は「求める人材の確保」「採用選考の体制」「採用後の定着率」など多岐にわたる
企業の人事担当者を務める20代~50代の男女400名に採用に関してどのような課題があるかを聞いたところ、「求める人材の確保」「採用選考の体制」「採用後の定着率」などさまざまな面における課題が浮き彫りになりました。
応募者が集まらない
- そもそも応募数が少ない(男性・49歳/広島県)
- 思う人材が集まらず、欲しい年齢の人材がいない(女性・43歳/大阪府)
- 必要な人材をタイムリーに採用することが困難(男性・59歳/京都府)
- 採用目標数を達成するまでの母集団形成が難しい(男性・51歳/東京都)
- 業界的に求人倍率が高い(男性・29歳/千葉県)
- 衰退産業で若い人が集まらない(男性・58歳/愛知県)
- 他社競合が激しく、デジタル系の専門人材の応募が来ない(男性・53歳/東京都)
採用選考の体制が整っていない
- 採用レベルの統一ができていない(男性・46歳/大阪府)
- リモート面接が主流になり、画面越しのみでの人選が難しい(女性・45歳/愛知県)
- 人事担当者側に、応募者の人柄を見抜くことができる人材が少ない(男性・47歳/愛知県)
- 予算と採用数が数値化しにくい(男性・51歳/福岡県)
- 一人あたりの採用にコストがかかる(東京都・女性・32歳)
応募者の希望条件に偏りがある
- 給料の高い安定した他社に優秀な人材がとられる(女性・29歳/東京都)
- 楽な仕事を求める傾向がある(女性・39歳/東京都)
- 希望配属地が地方に偏る(女性・40歳/東京都)
採用後のミスマッチ
- 中途採用は、想定していたスキルとギャップがあるケースがある(男性・43歳/鹿児島県)
- 採用後にメンタル問題が発生する率が高い(男性・49歳/京都府)
採用・入社後の定着率が安定しない
- 内定辞退が多い(男性・31歳/大阪府)
- 採用してもすぐに辞める(男性・43歳/千葉県)
- 新卒社員の離職をなるべく減らしたい(男性・34歳/和歌山県)
- 退職者が常に発生し、採用活動が頻繁に必要になる(女性・35歳/東京都)
その他、「人員構成に偏りがある」(男性・46歳/大阪府)、「将来の幹部候補たる優秀な人材の採用と流出阻止が課題」(男性・56歳/福島県)など、組織としての人材採用・育成計画に関する課題を挙げる声もありました。
教育・研修の課題では「時間的な制約」「教育コスト」「効果測定」をあげる声が多数
教育・研修に関してどのような課題があるかを聞いたところ、「時間的な制約」「教育コスト」「効果測定」などの面について挙げる人事担当者が多くいました。
時間的な制約
- 通常業務が忙しく、OJTを行う時間がない(女性・41歳/神奈川県)
- 忙しくて研修を受ける時間が捻出しづらい(男性・46歳/東京都)
- 教育を行える時間も人材もない。結果、人が育たず辞めていく(男性・50歳/東京都)
- 平等な研修機会の確保が難しい(女性・46歳/香川県)
教育コストが捻出できない
- そもそも体系立った教育研修がない。人材開発にお金をかける文化が希薄(男性・50歳/東京都)
- 社内の人事担当者が教育・研修を行う場合には、準備や実施に相当な工数が必要となるが、教育・研修を外部の企業へ委託すると、相当な費用が必要になる(男性・59歳/京都府)
- 予算確保にあたり、当該年の利益確保のための削減対象となりやすい(男性・59歳/東京都)
研修内容や実施体制が整っていない
- 第二新卒などの若手が社会人としての基礎知識が不十分なことが多い(女性・42歳/東京都)
- シニア層のエンゲージメントを高めることが課題(男性・57歳/東京都)
- 管理職候補者向け研修の体系を見直し中(男性・49歳/京都府)
- ITに関する研修が不十分(男性・36歳/広島県)
- 現場の変化に対応できるプログラムを組む時間が少ない(男性・47歳/埼玉県)
- 研修を手掛けるセクションはあるが、マンネリ化している(女性・45歳/大阪府)
研修の効果に疑問を感じている
- 受講率が低い(女性・42歳/東京都)
- 教育制度の利用にばらつきがある(男性・31歳/北海道)
- 費用対効果が見られない(女性・31歳/三重県)
- その時限りになり、継続性が出ない(男性・38歳/宮城県)
- 研修受講者の理解度などの進捗管理が難しく、客観的にわかるものが欲しい(男性・51歳/兵庫県)
コロナ禍の研修の実施方法を模索している
- オンライン研修実施後の現場でのサポートが課題(男性・40歳/京都府)
- リモートが主流なので、対象者が集合しての合同研修などが難しい(女性・45歳/愛知県)
- コロナ禍によって開催延期が度重なり、研修の進みが遅い(女性・31歳/愛知県)
- 対面型や宿泊型の教育・研修を復活させていきたいが、今後、新型コロナウイルスとどう付き合い、社会体制を推進していくのか、政府の方針が必要(男性・48歳/茨城県)
労働法への対応については、「労働時間の管理」「社員の理解」「対応すべき法改正の多さ」が課題に
労働に関する法律への対応で困っている点については、「労働時間の管理」「現場社員の理解不足」「相次ぐ法改正への対応」などの面について挙げる人事担当者が多数いました。
労働時間の管理
- 残業時間数の抑制(男性・45歳/兵庫県)
- 管理職の時間外労働が異常に増加している(男性・50歳/東京都)
現場社員の理解不足
- 管理職に知識が足りない(男性・35歳/埼玉県)
- 上司の理解不足(男性・52歳/静岡県)
- テレワークなどで管理が行き届かない状態の中、業務をやり過ぎる社員が多い(男性・39歳/兵庫県)
- 会社全体に周知することが難しい(男性・37歳/埼玉県)
相次ぐ法改正への対応
- 法改正が多過ぎて対応が追いつかない(男性・58歳/愛知県)
- 法律の改正に伴い、関連する社内の規定類も改正する必要があるが、漏れがなくタイムリーに改正することが困難である(男性・59歳/京都府)
- 法律に詳しい担当者が少ない(男性・55歳/神奈川県)
- 人事に労働法のスペシャリストがいない(男性・43歳/千葉県)
採用、教育・研修、労務関連の法律への対応は、社内の理解を得ることが重要
今回の調査では、企業の人事担当者が実感しているさまざまな領域における課題が見えてきました。採用における課題は「求める人材の確保」「採用選考の体制」「採用後の定着率」などが挙げられています。一方、教育・研修の課題については、「時間的な制約」「教育コスト」「効果測定」などを挙げる人事担当者が多くいました。さらに、労働法における対応については、「労働時間の管理」「現場社員の理解不足」「相次ぐ法改正への対応」が挙げられています。
いずれについても、自社の状況や環境などが大きく関係していますが、働き方改革の推進によって、今後も人事担当者には、さまざまな制度環境づくりや自社内規定の変更、管理体制の強化などが求められるでしょう。人事労務は、売り上げへの影響や業務効率などの生産性において数値化して評価することが難しい領域と言えます。しかし、今後の採用活動や人材育成、人材流出の防止など、事業運営に大きく影響する領域のため、経営層の理解を深め、予算確保や人事領域の人員体制構築など、足元から整備していくことも重要なポイントとなりそうです。費用対効果の面で即効性は薄くとも、将来的には大きく跳ね返ってくる可能性があるため、早期に着手しているかどうかが成否の分かれ目になるかもしれません。